没落令嬢vs代用茶
「ふーむ……」
「難しい顔してどうしたのよ」
ダンジョンと冒険者、それらを取り巻く状況と内部の状況を互いに交換するための定期連絡会。
フィニーとはそれをすることを決めておりますわ。
本日の連絡会はフィニー行きつけの喫茶店『ニーナ&グッド』。アニナグリの花が看板になっていて、名前もアニナグリから一部もらっているのだとか。
「ここの紅茶、おいしいですわね」
「うん。茶葉を厳選しているんだって。シーズンごとに色んな場所のを取り寄せたり、茶葉の専門店とも連携しているんだそうだよ」
「むう……」
注がれたコップの中身を睨むように。
いえ、睨んでいるわけではないのですけれど。
「だから、なにさ。その顔は」
「マズいそうなんですわよ」
「なにが」
「わたくしの作った代用茶」
なんだったら色もなんか違う気がしますわね。
「……代用だからじゃないの?」
「お試しになってみます?」
「あるなら」
そう言われたので用意していた茶葉を渡しますわ。適当な袋に入れて渡しているのでちょっと怪しげな現場にも見えてしまいそうですけれど。
「それじゃあ、感想をそのうち聞かせてくださいまし」
「わかった。じゃ、連絡会を始めよっか」
ということがあったのが少し前のこと。
✘✘✘
「言いたくないんだけどさ」
わたくしが軽い運動がてらに自分のダンジョンに潜り稼いだものを売り払いに行くと微妙な顔のフィニー。
「なにかしら」
「あの代用茶、なに……?」
「なにって、お言葉ですわね」
「そこらの雑草のほうがまだいい味すると思うんだけど」
「……そうなんですわね……」
正直、わたくしは紅茶であれ黒茶であれ、苦けりゃ苦いだけよろしいと思っているフシがありますわ。
貴族のくせに茶のこともわからんのかと言われると弱いですわね。
はい、そうです。わかりませんわ。
というのも、そもそも実家にいた頃から金のねェ貧乏貴族ですからお高いお茶なんて飲めないんですのよ。
こうして街に出れば、そりゃあおいしい店にもいけますけれど……。
街にあんまり連れて行ってもらえておりませんでしたし。
なので舌が肥えないままに冒険者になって、それからはまあ、お茶といえば眠気覚ましや気付けに飲むものだと悪い先輩方に倣っているうちに、と。まあ、そういうことですわ。
フィニーに伝えると、
「それはまあ、なんていうか、ご愁傷様」
かわいそうなものを見る目ですわね。
まあ、父はしょっちゅう街に行っていたそうですし、子供だからと置いていかれたフシはありますわよ。
あのときは仕事だと言っていましたけれど、あの親父、絶対に遊び歩いていやがりましたわね。今更もう遅いですけれど。
「で、なんですけれど」
そういってまた別の布袋を持ち込む。
「これを試していただけませんこと?」
「ええー……また代用茶……?」
「ええ。また代用茶ですわ。お茶の味がわかるあなたにお願いしたいの」
困ったような表情を浮かべてから微笑むフィニー。
「人をやる気にさせるのがうまい貴族様ね、ほんと」
といった具合のことがついこの前。
✘✘✘
そして昨日。
カリュアがダンジョンで落としたという装備の一部を回収して街に持ち込みにいきましたの。
質はさておき、大切に使っているものなのは見て取れましたからそのままにするのも気が引けましてよ。
その日はカリュアたちが休日にしていたということでフィニーに預けると、
「ライヒ。ねえ、この前の代用茶なんだけど」
「どうでした?」
問うた瞬間にフィニーは身を乗り出す勢いで、
「すっごいおいしかった……! あのお茶、もうないの?」
「戻ればまだありますけれど、そんなに?」
「正直、代用茶なんて呼ぶのが勿体ないくらいだよ。
華やかだし、爽やかで! 飲み口も軽やか。正直、どこかの高級茶葉だって言われたら信じちゃう。
……あんな素敵なお茶、どうしたの?
なんか悪いものと交信でもした?」
ダンジョンには傷つけ命を奪おうとする魔物以外も存在する。
人の心を喰らったり、知識を喰らったり、空いたスペースに卵を植え付けるようにへんな知識や思想を植え付けたり、そういうたちの悪い魔物がいる噂は聞いたことがありますわ。
ただ、わたくしのダンジョンで出るようなレベルの魔物ではありませんわよ。
そんなん出たら作り直しますわ。危なすぎて保守点検やらテスト運用やらもままならねえってことになりますもの。
「失礼ですわね。してませんわよ。
そもそもですけれど、アレはわたくしの作ったものではないんですの」
「そうなんだ。あ、リオちゃん?」
「アルシュカですわ」
「彼が? ……へえ、見た目によらない、っていうと失礼かな」
「いえ、当人も言ってましたわ。来歴はそんなだけど、代用茶作りは結構自信があるんだって」
彼の来歴は家なき子に傭兵に賊と、どこにもお茶というハイソな趣味が入らなさそうな感じではありますわね。けれど、傭兵や冒険者には煙草だとか酒だとかの代わりにお茶を楽しむ文化があるとか。
禁断症状も出にくいし酩酊もしないものだから旅先の趣味にはちょうどいいのだとか。
さておき、わたくしがにたりと笑いますわ。
フィニーはこのお茶を認めた。興味を向けた。これこそが望んでいたチャンス。
「なに、その悪い顔」
「ちょーっと、そこのカウンターの横に少し置いてもらえませんこと?」
横並びになっている受付カウンターや買取用窓口。
一列になっているからこそ受付間にスペースがそこそこ余っているのが見受けられますわよねえ。
「あのね、うちは雑貨屋じゃないんだよ?」
「わかってますわよ。ええ。わかってます。
でもアルシュカ曰くに置いてもらいたい茶葉は疲労から来る毒を払う力があって、濃いめに淹れれば集中力が上がる、傭兵御用達のブレンドだとのことですわよ。
つまり」
「下手な賦活剤飲むよりも健康的だよって言いたいわけね」
「しかもお安くご提供。そちらの取り分はこれくらいで」
「……ううん。でも支部長の説得かあ……」
「お疲れになりますわよねえ、それは。ところでこれ、アルシュカからの差し入れなんですけれども」
といつも大変だからと特別にブレンドしたという茶葉を一箱。
「袖の下ってわけじゃないのよね?」
「わたくしだったらもっと直接的にやりますわよ」
ゼニを示すハンドジェスチャーをすると、お下品とフィニーに睨まれましたわ。
「アルシュカくんのご厚意ってことね。
はあ。……わかった。わかりました。説得も頑張ってみます。
でも、一応茶葉の効能に危険がないかはチェックさせてもらうからね」
「さっすがフィニー様、話がわかるッ!」
「どこでそんな言葉遣い拾ってくるのよ……」
「都市のご同輩たちからですわ」
ともかく、その後にアルケミスト関係からもお墨付きが出たことと、
不在しがちな支部長も『最近の賦活剤ブームはちょっと怖いと思ってたから』と許可もおりて正式に販売することに。
✘✘✘
「ってことになりましたわよ」
「なんか妙に量を作らされてると思ったら、そういうことだったんだ」
「イヤでした?」
「イヤなわけないじゃん。だって……」
視線を外すアルシュカ。
「だって?」
「あんまりそういう形で人に認められたことってないから、なんか、むずむずする」
かわいいこというじゃありませんの。
頭を撫で回してやりたくなりますけれど、彼も立派な男の子。そういうのはよくないですわね。
「アルシュカ。あなたは立派なわたくしの騎士。そのうえでただ騎士としての仕事を全うするだけではなく、あなたはあなたが歩んだ道で得た技術や見識までわたくしに貸し与えてくれている。
わたくしはあなたという人間に叙勲できたことを誇りに思っておりますわよ」
「きゅ、急になんだよ」
「ですから、ちゃんとあなたもあなたを誇りなさい」
驚いた表情を浮かべてから、それでもアルシュカは、
「いいや、まだかな」
「あら、自己肯定感の低い」
「ってわけじゃないよ。ただ、まだまだ立派な騎士にはなれてないし、なったつもりもないってだけ。
今はお茶で喜ばせるだけだけど……戦いでも、きっとライヒ様の役に立てるようになる。
だから、」
「ええ。わたくしの背を任せられる騎士におなりなさい。その日を楽しみにしていますから」
「うん」
そう頷いてからアルシュカは、
「……そんじゃ、代用茶の素材探し頑張るか」
「ええ。荷物持ちは任せてくださいまし!」
一度一緒に採集したのですけれど信用のない選び手ということで外されてしまいましたの。
その代わり荷物持ち兼害獣対策として同行。
今日という採集日か終わったときにはイノシシを四頭ほど仕留めることに。
代用茶探しに来たんだかイノシシ狩りに来たんだかわからない結果になってしまいましたわ。




