没落令嬢vs大繁盛
大盛況。
大盛況ですわ!!
ホーッホッホッホ!!
第一号のカリュアたちが喧伝してくださったのもあって、現在、ダンジョンには四つの一党が入っておりますわよ。
ギルドにもお願いしてとりあえずはズブの初級者だけ。
出入り口を少し増やして、ダンジョン内の広さも少し増やして……と。
いやあ、やっぱり先人の知恵を真似るものですわねえ。
めちゃくちゃに便利ですわ、『これ』。
✘✘✘
「ってことで、成功した。ボスも含めて悪くなかったと思う。
ただ、七人以上の一党だと稼ぎが相当細くなるだろうから人数制限を付けてもいいかもね」
「なるほど。次からに含めておきましょう」
アルシュカの報告を聞くわたくし。
メモろうと思っていると代わりにリオが書記をしてくださっています。ありがたいですわねえ。
自分でやると端的過ぎてあとで何がなんだかわからなくなったりしますのよね。
「でも、正直不安でしたわよ」
「不安?」
「経験の上で作ったダンジョンですから、他の方の技量とフィットするかどうか……。
その辺りうまく言っているようでよかったのですけれど」
もっと言えば、今後起こりそうなことは冒険者同士の衝突であったり、ダンジョンの予期せぬエラーによる魔物の増加や強化。
わたくしはどちらも経験がありますわ。
前者はむしろ衝突どころか積極的に狙ってやってくる連中もいました。とはいえ、そういう手合は入る前にお断りできるでしょうけれど、後者に関してはどうにも。
「予期せぬエラー、ですか」
「予期できないから準備もできない。しかもダンジョンにいないと気が付けない」
「他のダンジョンを運営している方はどうしているんでしょう?
ライヒ様のような理念で経営している方は少ないでしょうけど、それでも自分の制御から外れた魔物が現れたりするのはマズいと思いますし」
存在しているかの判断をそもそもどうやって気が付くか。
そこかしこに歩哨でも置くのか。
いやいや、普通に魔物と思われて撃退されるのが見えていますわ。
「誰かが代わりに見てるとか?」
アルシュカはわたくしと同じ考えの様子。
「魔物とかがですか? でもそれじゃあどうやって伝えてるんでしょう……?」
アルシュカとリオがうんうんと唸る。
「……あ」
そのときにふっと思い出したことがありましたわ。
ハイエンド陛下のお側にあったもの、もしかして……そういう代物だったのではなくて?
「確か、こういう……こう……見れるやつ、出ろ出ろ……」
手を構え、私も二人と同じかそれより低く唸る。
紋から赤黒い光が溢れ、やがて目の前にふよふよと地図のようなものが現れた。
地図というよりは……なんというのかしら、風景画? 見取り図? 鳥瞰図?
あ、ちょっと前に冒険者ギルドで流行ってた盤上遊戯みたいですわね。
駒を使ってダンジョンの模擬戦を体験できるって触れ込みの。
「……ちょっと試してみたいですわね。
二人とも、悪いけれどダンジョンに潜っていただけるかしら」
✘✘✘
安全に排してダンジョンを作り直し、魔物の出現率は最低に。
そうすると迷宮地図にゴブリンやコボルトが表示されている。デフォルメされた駒として。
入り口にはリオとアルシュカ。二人も駒として表示されている。
おそらく実際に二人が動いているのを反映しているのでしょうね。こちらが事前にお願いしていた動作や行動を取っていることがなんとなくわかりますわ。
……こ、こりゃあ便利ですわよ。
途中で別の場所で待機しているゴブリンを動かさせて別の場所に進めたりもできますし、殿上人にでもなった気分ですわね。ホホホ。
これのお陰で捗ったことはダンジョンの実際的な状況を知ることだけではありませんわ。
ダンジョンをこねくり回したり、広くしたり、形を変えたりってのがむちゃくちゃしやすくなりましたわ。
今まで頭の中でやっていたことが目に見えて触れるなんてのは、おそろしく便利ですわよ。
それに──
「領主様、少しよろしいですかのう」
おっと、領民の声。
マップはすぐに消せる。なんだったらわたくし以外に見えないようにしたりもできるかもしれませんわね。
ただ、便利にすればするほど呼び出すときのカラレスが増えますし、どうやらこれは戻すときには全額カラレスが戻ってくるわけでもないので今は節制した作りにしておかないとなりませんわね。
……今は、ですけれど。
ちなみに領民は食事処で出す予定のジャガイモ料理の試食願いでしたわ。
よくもまあ、ジャガイモ一つであれだけレパートリーを出せるなんて、我が愛すべき領民は優秀ですわね。ホーッホッホ!!
✘✘✘
ということがあったりしまして、それから多少ギルドともお話をしたりして受け付けられる人数を増やしたり、一つの一党の制限人数を付けたりしましたわよ。
そして、大盛況って話に戻ってきますわ! ホーッホッホ!
戻ってきた彼らも前回より少しだけ難易度を上げたので多少の手傷を負っていますわ。
それは医院で治療していただいて、空腹なら食事処で、そして一度休んで再挑戦もできますから休憩所で仮眠も取れますわよ。
でも勿論、ど・れ・も、『有料』ですわよ!
ごうつくばりの銭ゲバ領主と罵りたいなら罵るといいですわーっ!!
支払いは全て買い取り後にギルドが自動的に徴収してそれを後日受け取りにしておりますから、逃げない限り取りっぱぐれることもないですもの。ホーッホッホ! パーフェクトすぎますわ!!
✘✘✘
ライヒがマップを見ながら高笑いをしている頃。
ダンジョン近くの休憩所に今日初めてきた初級者たちが集まっていた。
カリュアたちは経験もあってまだダンジョンに潜っていて、それ以外の一党三組。合計で十三人の初級者たちだった。
「料理おいしいし、休憩所は普通に一泊あたりの料金で個室あるし、どれも安い……」
「ここに住みたいくらいだよね」
初級者も慣れれば金にはそれほど困らない。
しかし、彼ら未満。ライヒの言うところのズブの初級者はその限りではない。
その日食べるものもギリギリだったりするし、ときには宿に泊まれず野宿することすらある。
「しかも支払い後払いなんでしょ?」
そして、これだった。
これがライヒのダンジョンにおける強い武器になっていた。
買い取り所から自動引き落とし。買い取り所で売れない程度の稼ぎであった場合は支払いが免除される。
他にも幾つか『ある程度取りっぱぐれない』ための施策は組み込まれてはいるものの、それでも善性に寄っている仕組みではある。
今のところそういう扱いにしているのは初級冒険者たちの囲い込みのためだが、ライヒはコスト的に見てもずっとそのままでも良いとは考えていた。
空腹でまともな判断ができずにどこかで依頼を失敗して死ぬくらいなら、腹一杯になって食い逃げされたって構わないと。
勿論、その上でずっと住み着くようなら支払いを武器にして領民になってもらおうとは考えているが。
「値段がコレだぜ。街で同じ量食べたら何倍になるんだよ」
「しかも『人が増えれば増えるだけサービスも充実できるから』ってことは、こっから更に発展させるつもりらしいな」
「それってもっとおいしい料理が増えるってこと?」
「料理している人がもう少し予算が領主様から出れば肉料理出せるって」
「……この金額帯でってことだよな」
「人、呼ぼう」「うん、呼ぼう」
初級冒険者たちは誰ともなく手を重ね合わせて、結託を決める。
つまり、人を呼び込もう。そういうことになった。




