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没落令嬢vs金策  作者: yononaka


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再誕騎士vsはじめての友情

 アルシュカはチンケなチンピラでしかなかった。


 潜在的なものと実際的な部分の両面で見ても、彼は戦闘に関わる能力は秀でている。

 だが、それは英雄的なものではない。


 歴戦のカシラが率いるツワモノな賊だったり、賊に転がり落ちたどこぞの武芸者だとかでもない限りは打ち勝てる。

 一般的にはいい腕と評されてもいいが、逆言えばその程度。

 みっちりと訓練を積んだ正規兵だとか騎士だとかが相手になると現時点では勝機はない。


 それでも彼がライヒの屋敷に来てしまうまでに生き残り続けたのは観察眼があるからだ。


 あるとき、自分を雇っていた賊が抗争で壊滅した。それは別によくあることだったから気にすることでもない。

 だが、それによって自分の給料まで奪われたとなれば話は別だ。


 奪った賊から金を取り返す。

 うまく行けば自分の給料以外も得られるかもしれない。そうすればまとまった金になる。

 金が手に入ればチンケな生活から抜け出せるかもしれない。そう考えたが、それは結局失敗した。


(でも、それでよかった。いや、それがよかった)


 死んだはずの彼は今も歩いている。

 それどころか、一匹狼であった彼には臨時であったとしても同年代の仲間が立っていた。

 こんなことができるなんて、夢にすら思えなかった。


 だが、そうした楽しい気持ちを泳いでいるのもこの辺りにしなければ、と思考を切り替えるアルシュカ。


「オレは連携取れない。離れていた方が」

「僕たちだって連携が抜群ってわけじゃないし、戦った相手もイノシシとかだから。

 だから、ダンジョンだとアドリブで何とかする場面が多いと思うんだ」


 四人が五人になってもその辺りは問題ない、と。


「それに怪我を負っても近くなら私が癒やせるから!」

「だから頼りにしているよ、前衛クン」


 治癒士の少女セレと魔術士の少女エレの双子が疑うこともなくアルシュカに言う。


(……いい奴らだ。でも……)


 他人を疑ってばかりで生きてきたアルシュカにとって、彼らの真っ直ぐな感情は危うくすら見えた。


「大丈夫だ。俺もいるからさ」


 斥候の少年──ガトクスはおそらく、三人のなかで一番年上なのだろう。

 ああ。なるほど、とアルシュカは思う。ちゃんとオレを疑える奴がいるのかと。


「警戒なら任せとけ。感度を高めて魔物の登場は睨んでいるぜ!」


(違う。そうじゃない)


 思わず笑ってしまった。


「ん? ど、どうした?」

「いや……。なんか、いいなって」


 彼は(っと、当てられてどうする。オレ。気を引き締めるんだろ)と集中をし直した。


「さ、しっかり働くぞ」

「ああ、そうしよう!」


 カリュアも頷く。


 四人にとって初めての迷宮攻略(ダンジョン・ハック)

 彼にとって傭兵でも賊でもない人間の、それも同年代との初めての冒険。


 それが今、ゆっくりと幕を開けようとしていた。



 ✘✘✘



 ダンジョン突入前にこっそりライヒに呼ばれたアルシュカは耳打ちされた。


「いいこと、アルシュカ。

 彼らの手伝いをすることになってもマッピングや探索の判断には関わってはいけなくてよ」

「わかった。けど、なんで?」

「このダンジョンが冒険者としての成長のためにあるからですわ」

「成長?」

「このダンジョンだけでも食べていくことはできるでしょうけれど、そうなればもう冒険者ではなくなってしまう。わたくしはそうなってほしくはないんですの」

「でも、ライヒ様は」


 金稼ぎのために作ったんじゃ?

 そう言いかけたところに、


「フッ。そうよ。甘い汁を吸うのはわたくしだけで十分、ということですわ! ホーッホッホッホ!!」

「声でッか」


(なんてことを出発前に行ってたけど──)


「アルシュカ、また十字路だよ。君はどう思う?」


 記憶にあるからこそライヒはこのダンジョンをすいすいと攻略し、あまつさえ周回し、金策効率がいいなどとのたまっていたが初めて挑むものにとってこのダンジョンはそれなりの歯ごたえがある。


 ライヒが挑んだそれとは形状だけが同じで、魔物の出現数やトラップなどは控えめにしているとはいえ、広さにおいては殆ど変化がない。


「オレが口出すわけにはいかないよ」

「ん……それは、いや、そうだね。ありがとう。自分から成長を鈍らせるところだったよ」


 快活に笑うカリュア。

 言われたとおりにしただけであるアルシュカはいささか居心地が悪い。


(カリュアたちも金のためにここに来ているのは間違いないんだろうけど──)


 かつての自分とを対比させてしまう。

 生きるため、金のため、食うため、そのためにただ武器を振るう暴力装置であった自分。

 それが楽しいものだったかと言われれば擁護しようもない。つまらなかった。


「ひとまず地図は全部埋めよう」


 とカリュアが言えば、仲間たちが、


「だね。魔物もたくさん狩りたいし」

「お金稼いだらカリュアにまともな盾持ってもらいたいしな」

「だね」


 賑々しい。


(あのときのオレとはまるで違うな)


 一党との冒険の楽しさを知れば、よくよく理解ができた。

 そして、ライヒの言う言葉も。


(アンデッドに、怪物になったオレを助けて……、それだけじゃない。

 そんなオレを家臣にする破天荒な人だし、口を開けば金の話だし、世間からしてみればろくでもない貴族だとは思われているんだろうけど)


 四人があれこれと相談し、真面目な顔を、時折笑みをこぼしているそれらを見て、


(でも、冒険者や後輩を思う気持ちは本物だってことがわかる)


 ふっと気配を感じるアルシュカ。


「四人とも。気配がする。魔物だ、準備を」


 戦うだけという約束ながらも、つい反応してしまった。

 自分も彼らと同じく冒険者という輪の中に入りたいのだろうということに気が付かず、戦いは始まった。



 ✘✘✘



 ダンジョンに存在する強敵──冒険者たちの俗語で言うところのボスには種類がある。


 各階層を守る『エリアボス』。

 最深部を守る『ラスボス』。


 大雑把に分けてこの二種。

 このダンジョンは一階層分しかないため、一階層のボスがそのままラスボスとなる。


 ダンジョン次第では支配者がエリアであれラストであれボスを兼任することもある。

 その支配者が死亡した場合はダンジョンの存続と成長は終わり、消滅がほぼ確定する。


 現在、五人はボス──ラスボスへと挑んでいた。

 イノシシをそのまま大きくしただけの魔物だが、その『大きくしただけ』というのは極めて強力な武器になる。


 疾走からの体当たりは盾を持っていようとも吹き飛ばされ、生半可な防御は牙によって打ち砕かれる。


 だが、相手をよく見て、行動を理解し、無理に攻めさえしなければ戦局を少しずつ自分側へと傾かせることができる相手。


 冒険者が長く戦っていくために必須となる多くの行動や戦術を染みつかせるにうってつけの魔物であった。

 そうしたことからこの魔物は『先生』などという愛称で呼ばれるほどになっている。


 ライヒもまた、この魔物で一人前の冒険者になれたといっても過言ではなかった。

 だからこそ、彼女はこの魔物をこのダンジョンのボスに決定した。


(ダンジョンを作る。魔物を増やす。配置する。色々試してるんだな、ライヒ様も)


 賊を相手にするのとは違う。

 冒険者とはどのようにして戦いに臨み、挑み、戦い、その果ての勝利を目指すべきなのか。

 イノシシ(先生)の身を以て理解させられる。


 アルシュカは苦笑を含めた獰猛な笑みを浮かべていた。


「目は慣れたか!」


 四人に叫ぶ。


「ああ、もう大丈夫だ!」


 代表してカリュアが返した。


「扉の前で話した作戦でいいな、カリュア!」

「キツいことをやってもらうけど、……頼んだよ、アル!!」


 ふっと、リオ以外からは聞きなじみのない名を。

 そうか。愛称ってのはリオ以外からも聞けるのかと遅れて理解した。悪い気分ではなかった。


「……ああ、大丈夫だ。オレが囮になって引きつける!」

「みんな、行くよ!!」


 四人と一人が一匹に挑む。

 彼らにとって、初めてのボス討伐がはじまった。



 ✘✘✘



「うりゃああ!」


 斥候が簡素な作りの弓を放つ。分厚い毛皮に付けられた傷を射貫く。


「《熱視線(レイザ)》!」


 魔術士が杖の先から赤い光線を打つ。片脚を焼き焦がす。速度はそれでも完全には殺せない。


「カリュア!! とどめを頼むッ!!」


 走り寄ってくる『先生』に対して剣を構える。


 牙で貫き殺そうとしてくるのは予想していた。アルシュカはそれを刃で逸らそうとする。だが、勢いを殺しきれず剣が弾かれた。速度は殺せた。アルシュカはそのまま牙を掴む。馬力の差は明確だった。アルシュカが抑えられる相手ではない。


 怒りにまかせてイノシシが角を掴むアルシュカを持ち上げ、地面に叩きつける。ひどい音がなったが、


「《鎮痛(フィキラ)》!!」


 治癒士が唱えたのは治療ではない。痛みを紛らわせるものでしかないが、今はむしろそれが最適だった。

 痛みで角を離すことも身を固めることなく、イノシシの動きをそのまま止めきった。

 それでも一瞬。だが、たったの一瞬だけでも時間は稼いだ。


「はああああぁぁ!!」


 跳躍し、全体重を乗せた戦士の一撃が『先生』の顔面の真ん中を捉え、叩き割った。

 常ならば丸みもあってインパクトを逸らされる危険性が高く、避けるべきそれをカリュアはあえて実行した。


 そこを狙う以外に一撃で仕留められる可能性がなかった。

 そうでなくばアルシュカが犠牲になりかねなかったからだ。


 戦士の一撃が『先生』を破壊する最後の一打となった。

 ゆっくりとくずおれ、赤黒い光が空に消えていく。全てが消えるのではなく生物的な一部の素材が残る。ダンジョンならではの光景だった。

 残されたのは魔石、毛皮、骨。そして、部屋の最奥に宝箱が出現する。


「うおお! 勝った!」

「やったね、エレ!」「うん、やったよ、セレ!」


 全身、全力を尽くしていたアルシュカが腰砕けになるように転がった。


「お疲れ様、アル」


 カリュアが手を伸ばす。


「ああ。ナイスファイトだったな、カリュア」


 その手を掴んで、立ち上がる。

 四人と一人の臨時一党の、勝利であり、四人にとって目指していた冒険者らしい戦いの、第一歩を踏み出すことができた瞬間だった。










 ───────────────────────

 ダンジョンの敵についての簡単な分け方①/ダンジョン支配者編


 ライヒのダンジョンは現在一階層だけだが、一般的なダンジョンは複数階層存在する。

 ただし、階層を突破するには必ず『ボス』を撃破する必要がある。

 ここで言うボスは二種類が存在する。


 ●エリアボス

 階層を守護するボス。

 ボス部屋で待機している(あるいはボス部屋到達時点で召喚される)。

 撃破することで、以下のものが現れるのが一般的である。

 ・高額なアイテムを遺す(俗語:ドロップする)

 ・次の階層への移動ルートが出現

 ・地上への帰還ルートが出現


 エリアボスはダンジョンの強度に応じた高額なアイテムを遺すため、

 多くの冒険者にとってエリアボスは倒すべき的となる。

 ダンジョンでは大抵の魔物は復活するがエリアボスは復活しないか、

 復活が極めて遅いことから人気のあるダンジョンではしばしばレース会場めいた様相を呈することもある。


 ●ラスボス

 ダンジョン自体を守護するボス。

 ラスボス部屋で待機している。

 倒すことで、以下のものが現れるのが一般的である。

 ・より高額なアイテムをドロップする

 ・地上への帰還ルートが出現


 エリアボスよりも強力であることが基本であり、極めて戦術的、知性的な戦いを向ける場合か、

 そんなものが必要ないほど強力な存在である。

 また、マスター(キーパー)が存在しない場合、ラスボスがそのまま支配者であるケースや、

 マスター(キーパー)がラスボスを兼任しているケースがある。


 ラスボスが撃破され、撃破者がその部屋から出た時点で、ダンジョンにいるものは全て強制的に出入り口付近に一党単位である程度のランダム位置に吐き出されれる。

 その後にダンジョンが成長して新たな形や力を得るか、そのまま中身のない穴になり、そう遠くない時間に崩落などして跡形もなくなるかはダンジョン次第である。

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