没落令嬢vsミニマム商業
準備は整いましたわ。
フィニーと改めての相談と視察を行って、許可は得られましたわ。
「本気で商売にするつもりなのね」
と、侮るでもなく、嫌がるでもなく端的に。
まだまだ足りないものばかりではありますが、ダンジョンの出入り口の周りには受付、宿、食事処、医院、待合所などが作られている最中ですわ。
「あなたが望むならここで雇ってあげますわよ。ホホホ」
「それくらい稼げるようになるのを祈っておくね」
その後に彼女は各所に色々と必要な手配を行ってくださり、依頼書も制作してくださいました。
ここまでこんなに動いてくださるのは古馴染みだからってだけではありませんわ。
実際にダンジョンと、わたくしがやろうとしているような(きわめて拙くとも)商業化というのはショボい辺境じゃあ重要な収入になりうるのでしてよ。
初級者ばかりが右肩上がりに増えている現状であれば、
ダンジョンの依頼→攻略→買い取り→買い取ったものを貿易に回す。
このサイクルを回すだけで、恐らく中級者と依頼者の橋渡しをして得られる利益を遙かに上回る収入になるでしょう。
更に初級者たちが増えて、そこから中級者になるものが現れていけばギルドも大助かりになる。
中級者以上となれば今まで手が回らなかった依頼や問題にも対処できるようなる。
そうして依頼の完了と実績を増やしていけばアドルインの冒険者ギルドは大きくなり、
人も増え、フィニーの有休も消化できるくらいには人も増やせるであろうって寸法ですわね。
で、相談の数日後に再び彼女がオルドホルムに現れましたわ。
「ここに来てもらう最初の一党が決まったわ」
「どなたですの? わたくしが知っている子かしら」
「カリュアたちの一党。カリュアのこと、覚えてるよね」
「ええ。わたくしが余計なお世話を焼いた後輩ちゃんたちですわね」
「そう。その後輩ちゃんたち。顔馴染みのほうがいいかなって思って」
「お気遣い感謝いたしますわ」
「ただ……」
「何か不安が?」
「彼らは仕事をしっかりこなしてくれているけど、それでもまだ魔物との戦闘経験は少ないの。
できればダンジョンを踏破するための補助役がいてくれると助かるんだけど」
つまり、わたくしが監督役で付いていけないかと言いたいわけですわね。
それも悪くはありませんが、安心感が強すぎるのも問題ですわよ。
でも、
「少し面白いですわね」
「面白いって、何が?」
「いえ、誰かが付いていくって話ですわ。……それもまた少し、商機の匂いがしますわね」
わたくしの表情がイマイチご令嬢らしいものではなかったようで、フィニーは苦い表情を少し浮かべつつ、
「……ま、まあ。彼らのことは本当お願いね?」
「その点は大丈夫ですわ。どうあっても無事に帰しますわよ」
それからもフィニーとの打ち合わせは続き、気がつけば結構な長時間お話していましたわ。
よく考えてみれば戻ってから向こう、彼女とはここまで長くお話したことはなかったかもしれませんわね。
ダンジョンとハイエンド陛下に感謝を申し上げたいですわね。
✘✘✘
「カリュア、本当にここなの?」
「そのはずだけど……」
馬車が進んでくれるのは街道まで。
ダンジョンはそこから外れたところということで、初級者の一党であるカリュアたちは徒歩で脇道を進む。
「確かに看板が迷わないようにたくさん置かれてるし」
「道も一応、舗装されてるよね」
他の一党も観察しながら進む。
とはいえ、物見遊山といった感じではない。今日になるまで配達の仕事を数件受けて、街道沿いであろうと魔物や野生の獣、それに賊がいる可能性はどこまでも否定できないことを知っているからだ。
「あ、ねえ! あれじゃない!?」
魔術士が指で示した先には決して見栄えはよくはないものの、幾つかの建物と、『この先、ライヒ印の迷宮』という立て看板。そして手を振るライヒの姿があった。
✘✘✘
「あら、来ましたわね!」
一応、街道との接続がされている場所ではありますけれど、それでも不案内な立地であるのは否定できませんのでわたくしが途中で待っていることに。
で、うまく合流できた、とそういうことですのよ。
「ライヒ先輩!」
「あなたたちが最初の冒険者ですわ」
「あそこの迷宮が、その」
「ええ。踏破しても消えない奇妙なダンジョン。成長と金策にはうってつけでしてよ」
四人を連れて入り口まで。
「医院もあるんですね」
「リオが担当していますわよ。
といっても、あの子は支援士ですから薬品と併せて自然治癒の力を底上げすることが主になりますけれど」
「なんか良い匂いするなあ」
「流石斥候。鼻が利きますわねえ。あちらに食事処も用意してありますから、仕事終わりに寄りなさい。お安く提供してさしあげますわ」
「で、ここが……」「迷宮……」
「緊張するなら、サポートも出しますわよ」
「サポート?」
そういうと現れたのはアルシュカ。
「案内役と援護、必要なら前衛も。
その代わり報酬は一党の一人として扱わせてもらいますわ」
つまり、四人で割るのを五人で割らねばならない。
更に言えば、連携もできない相手を連れて行くのはカリュアにとっては単純なリスクにも思えるでしょう。
そこについてはアルシュカが、
「オレは一党から少し離れて移動する。
魔物が現れて、対処が難しい相手や数だったらこっちでそいつらを引き受ける。
だから連携のことは考えなくていい」
「でも、それじゃあ君が危険なんじゃ」
カリュアが言いかけると、
「大丈夫ですわ。彼はこのダンジョンに慣れていますし、それにこのダンジョンで倒れたとしても何も奪われませんもの。
ああ。このダンジョンで手に入れたものや魔石なんかは失ってしまうけれど、それだけ。
少なくとも、あなたたちの位階ならね」
「それって」
「初級者のためのうってつけのダンジョン、ってことでしてよ。ホーッホッホ!!」
位階が上がった人間が倒れるとダンジョン内で手に入れたものや、運が悪ければ装備品、財布辺りも奪われる可能性が高いのですけれど、未来の話ですし、今の彼らに聞かせるようなことではありませんわね。
カリュアたちは顔を見合わせてから、
「じゃあ、手伝ってもらえますか?
僕はカリュアと言います」
「アルシュカ。一応、そこの領主様に……騎士……として仕えている」
どうやら真正面から騎士ですというのは照れがあるらしいですわね。
「えっ」
「かしこまらなくていいからな。こんな土地の領主なんて──」
あらあら。
じろりと見やるとアルシュカは視線を逸らしましたわ。そのうちおしおきが必要かしらね。
「ともかく、オレもろくな生まれじゃないし、他人行儀にしないでくれたら嬉しい」
「わかった。アルシュカ。よろしくね!」
「ああ、命大事で進もう」
といった感じで、臨時一党となった彼らがダンジョンへ。
最初のお客様ですわ。さあて……どうなるかしら。




