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没落令嬢vs金策  作者: yononaka


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12/28

没落令嬢vsおためしダンジョン

 初心者向けダンジョン。

 風景は変わらない。初期設定に戻るよう考えて出したので休憩室なんかは全て消えている。

 ゴブリンたちが相変わらず同じような動きで現れる直前に、


「いきますわよ」


 と小声で二人に促す。

 二人も頷いた。


 まず動いたのはアルシュカ。

 前傾めいて走り、角から現れたゴブリンを真っ二つにする。剣の切れ味に驚きながらも次の動作に移るために構え直している。いい動きですわね。


 次にリオは、


「《速度上昇(ブースタ)》……!」


 祈るような姿勢と共に『力ある言葉』を唱える。

 支援士と呼ばれる職能を持つものはこうした行いで味方の力を強くすることができますのよ。

 戦いや冒険を大いに有利に進めることができる支援士と治癒士はどの一党でも引っ張りだこ。


 その力ある言葉によってわたくしとアルシュカが普段よりも走力や反射神経が向上している心地を得ましたわ。


 ゴブリン相手に過剰ではありますけれど、単純な戦闘や探索、稼ぎではなく、今の時間は各々の戦闘能力の確認と試運転がメイン。過剰になったって構いやしませんわ。


 私も徒手空拳(グラップル)でゴブリンを蹂躙しますわよ。

 打ち出す拳がブースタによって残像を残すような勢いで叩きつけられると拳を引いてさらに一拍の後に破裂する。こりゃあ最高ですわね。


 瞬く間にゴブリンどもは壊滅。一党の初勝利はあっさりとしたものになりましたわ。


「ナイスですわ、お二人とも。

 さぁ~て、戦利品も頂戴しましょう。グラップルは楽しいですけれど、防具が傷みやすくなりますから、コイツを頂戴しておきましょう」


 お約束ながらもわたくしは棍棒(クラブ)を掴む。

 うんうん。剣もいいですけれど、わたくしはこっちの方が使いやすく思っているのでしょうね。

 ぶっ壊しても気にしなくていいですし。


「……? どうしたんですの、お二人とも」

「いえ、すごい迫力だなって……」

「貴族令嬢というか、領主の武器が拳か棍棒なのかって思ってさ……」


 特にアルシュカは剣を渡したから自分が戦って後ろで見ているのかと思っていたらしい。

 それに加えて、剣代わりの短剣か何かがあるのかとも。


「そこにあるもので戦う。それがベテラン冒険者ってもんですわよ。ホーッホッホ」


 先輩冒険者の受け売りですけれど、わたくしにとっての判断基準の一つですわ。

 出たとこ勝負だとも言われるけれど、それだっていいじゃありませんの。



 ✘✘✘



 ダンジョンを踏破し、脱出口に。

 出たのは入り口から少し離れた場所。


「これだと出たあとも原生林で少し迷いそうですわね」


 街道からも離れていますし、元々住んでいたわたくしですら『街道はどこかしら』と少しうろうろしてしまうくらいですわよ。


「紋で動かせないのか?」

「ええ、そうですわね。やってみましょうか。ぬぬぬ。あっちに動け……動け……」


 そう念じると光にはなれど吸い込まれず、やや離れた場所に光が動き、そこに脱出口である落とし戸が形成されましたわ。大成功。


「おお。便利ですわね。ナイス助言ですわ」


 といった具合に最終的にポータルの入り口の付近に配置し直すことができた。


「ライヒ様。それで、これからは……?」

「街に行きましょう。

 目的は勿論ありますけれど、それはそれとして二人ともの日用品も必要ですし」


 そういうわけで、街──西方辺境の自称都市ことアドルインに到着。

 日用品を適当に纏めて買い上げて配送依頼。納税に当てられるほどの金はねえですけど、これくらいなら出せますわ。


 どうせドカンとデカい収入でもないかぎりどうにもならないんですから、節制なんざする気はございませんわ。ホホホ。


 ただ、今回はこれが目的ではございませんのよ。

 冒険者ギルドへと入り、まずは買い取り。

 リオとアルシュカには自由にしていなさいと命じておきますわ。

 子供扱いするつもりはないですけれど、それでもこういう場所を社会見学的にギルドの様子を見ておくのは悪い経験ではないでしょうし。


「あら、ライヒ」

「買い取りお願いしますわ。これなんですけれど」


 ドロップ品に、魔石にと並べる。


 それ以外に襲撃してきた賊やゴブリンが持っていて、まだしも売れそうな悪趣味なトゲの付いた肩防具だとか、頭蓋骨(しゃれこうべ)が付いた杖だとか、村の防備にすら使いたくないものも。


「え、また?」

「ちょっと、色々と大変な状況になっておりますのよ。こっちにも」

「大変な状況……領主様になってから早速何かあったってこと?」

「ええ。そうなりますわ。

 わたくしと家臣でも今はなんとかなってはいるんですけれど……。そのことで相談もさせていただきたくて参った次第ですわ」

「時間があるなら、買い取りの後でも?」

「ええ。できれば、内密な形で」

「わかった」


 受付嬢──フィニーという娘は話が早い。というか、わたくしとの付き合いも多少あるからこそかもしれませんわね。

 わたくしが真面目なトーンで言葉を交わすことはあんまりないからこそ、ってのもあるのかもしれませんけれど。

 相手もそれで何かがあるのだろうと察してくださったのでしょう。


 買い取りにはまだ少し掛かりそうですから、ギルド内で時間を潰させていただきましょうか。


「坊主、器用だな!」

「おっさんが不器用すぎるだけだろ」


 アルシュカは年上の冒険者の腰嚢を繕い直していた。


「まさかぶっ壊れかけているとは思わんでな、ガハハ」

「このギルドでライヒ様も世話になってるみたいだし、お礼はライヒ様に言えよな」

「おうおう。それじゃあ今度、秘蔵の酒でも振る舞ってやるわ。ほれ、小僧にはこれをやる」

「もらえねえよ、応急処置でしかねえんだから」

「もらっとけ! どんな仕事にも対価があるべきだからな。ガハハ!」


 冒険者から半ば強引に金を握らされるアルシュカ。

 どうにもそういう風にお金を頂戴する経験が薄いのか、少し嬉しそうですわ。いいですわね。そういうの。


 一方で、


「ごめんなさい、助かりました」

「わ、私こそ差し出がましくてごめんなさい」


 リオは……治癒士の手伝いかしら。


 命に関わるような傷を受けているものはいなくとも、ギルドじゃそれなりの怪我を負って来る人間が相当集まってくるんですわよね。


 街の医院とかは安全性も正確性もありますけれど、街からの支援が市民よりも薄いのでちょっと割高だし、なにより市民たちの間にはやはり腕力稼業である冒険者は怖がられやすいもの。

 なのでお邪魔するのはちょっとハードルがあるんですわよねえ。


 結局、ギルド内で相互互助の範囲で治癒をしたり、それで対価をもらったりなんてことをすることが多いのですけれど、今日は患者が多くて治癒士がてんてこ舞い。それを支援の力で強化して治療の手伝いとした……ってところですわね。


「すごい支援ですね」

「そんな。あなたこそ治癒の使い方がうまくって、憧れます」

「私こそ。あ、そうだ。お互いの治癒と支援、教え合ったりできませんか?」

「いいんですか?」

「お互いに大切な人たちを守れるように」

「……素敵ですね、それ。ぜひ、お願いします」


 こっちはこっちで友人ができていますわね。

 いいですわよ。いいですわよ。こうしてコネクションを増やしておけば……いずれは彼らが自由になったときも寂しくはありませんからね。ホーッホッホ!!


「ホーッホッホ!」

「あの、」

「ホー……?」


 思わず高笑いが出てしまいましたわ。

 それを咎めるではなく、声を掛けてきたのは、


「あら、あなたは先日の」


 駆け出し冒険者の一党。

 戦士、斥候、魔術士、治癒士。

 バランスがよかったのを思い出しましたわ。


「はい。先日は本当にありがとうございました」


 リーダー格の、少年戦士が頭を下げてくれましたわ。


「無事戻れたんですわね」

「実はそうでもなくって……。帰り道で獣と遭遇して──」


 戦いになった。怪我をして、傷は治癒できたものの、獣は毒を持っていたらしく、毒が体に回りかけて死にそうになったのだという。


「自分を庇ってくれたんです」


 魔術士が申し訳なさそうにしていますわね。


「前衛の仕事だからさ。

 あ、それであなたにいただいた薬で窮地を脱せたんです。本当にありがとうございました」


 慰めるのではなく、それが当然のことだからと。

 ……いいリーダーで、いい戦士なのですわね。


「いいんですわよ。これからも皆で仲良くなさいな。

 わたくしはそれだけを望みますわ」

「はい!」


 そう言って周りを見ると彼の仲間も頷いていて、うんうん。素敵なことですわね。

 わたくしのお願いはちょっと重かったかもしれませんけれど、


「それで、実は相談があるんですけど……」

「伺いますわよ」

「その、次も配達の仕事を受けようとは思っているんですが、この系統の依頼ばかりだと経験の幅も増やせなくて、どうしようかなと思ってて」


 冒険者あるあるですわね。


 安定を見つけるとそこにハマりがちになるんですのよね。

 でも、そればかりすると他の依頼を知らずになって、経験が偏っているせいで臨機応変さが育たない。


 様々な要素が絡み合っているダンジョンハックのようなものであれば、そればかりやっていてもいいのでしょうけれど。


 彼ら駆け出しちゃんグループは自分たちの一党に存在する問題点はしっかりと認識できているものの、それを解消するための経験を得るために必要になることが危険だ、恐ろしいと無意識的に思ってしまっているのですわね。


 配達の依頼なら最悪、荷物もなんもそのままに逃げれば命は助かるでしょう。

 けれど、ゴブリン退治だのをして敗北すれば命も尊厳も蹂躙されることもよく聞く話ですから、二の足も踏んで当然なのですわよね。


 そもそも、この街のクエストボードには初心者向きの依頼幅がだいぶ少ないんですのよね。


「あのときはお名前を伺っておりませんでしたわね」

「すみません。僕はカリュアと言います」

「わたくしはライヒ。名乗りが遅れてごめんなさい」

「は、はい。ライヒ先輩!」


 このまま無茶な依頼を受けて、不幸な終わりにはなってほしくはありませんわね……。

 冒険者はやくざな稼業であることは勿論、身を以て知っていますけれど。


「カリュア。もう少しだけ配達の仕事で一党で稼いでなさいまし。

 そのうち、ゴブリン退治よりはマシな、別の方向の依頼をきっと得られるようになりますから」


 確信を以て、わたくしはにやりと笑いますわよ。

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