没落令嬢vs騎士二人
朝になってリオが起きてから、改めてアルシュカを引き合わせますわ。
わたくしもアルシュカも一応は仮眠をしたものの、戦いのあとは昂ってなかなか深くは寝れないものなのですわよね。
ともかく、経緯を聞いたリオは、
「もう一人の騎士、ですか?」
とアルシュカを見やりますわ。
「ってことは先輩ってことか」
アルシュカもリオをじろじろと。
「先輩だなんて。私はリオリヤ、と言います。リオと呼んでくださったら嬉しいです」
「アルシュカだ。よろしくな、……リオ」
「はい、アルシュカくん」
リオの眩しい笑顔にアルシュカもなんともいえない表情を浮かべていますわ。照れてるのかしら。ホホホ。
「せっかくリオを愛称で呼ぶんですから、あなたも何か愛称で呼ばれたらどうですの」
「愛称って言われてもな」
「では、アルくんでどうですか?」
「……〜〜」
複雑な表情。おもろ、ですわ。
エゼルは先天的に美形の子が多い中で、リオは特に可愛らしいと言えますもの。
そんな子にあんな風に微笑まれちゃあねえ、ですわ。
「だめ、ですか?」
「いい。いいよ。それで……」
「よかった」
照れるアルシュカ。微笑むリオ。
ふわあ〜。癒しの空間ですわ。こりゃあ金持ち貴族がかわいこちゃんたちを囲うわけですわ。日々のストレスから解放されますもの。
でも、それに逃避しているばかりでは詰みですわ。
「じゃ、自己紹介もほどほどに、ガチの話をするとしましょう」
「ガチ……?」「ガチ……」
✘✘✘
「金がありませんわ」
「おかね……」「ゼニって言い方……」
切実な問題ですわよ。本当に。マジで。
正直、子供二人程度を養うくらいは初心者向けダンジョンを周回していれば余裕で賄えますけれど、
問題は数年間分の支払い義務のある税金。国に納める税金。
これがすごい金額ですわよ。
徴税騎士殿は頑張るとはいってくださったけれど、正直、善意にすがれる金額ではありませんわ。
あ、ゼニと言えばアルシュカが装飾品よりもと言って回収を辞退したものは現金化したあとに彼の日用品に当てる、ということで決着しておりますわよ。
まあ、それでも余るとは思うのでなにかあったときにアルシュカが持ち出せるようにどこかに隠しておきましょう。
流石に彼のお金をそのまま右から左にといった感じで納税の一部に当てる気にはなれませんものね。
ともかく、ですわ。
税と金で領地がヤバい、という辺りのことを彼らに話しましたわ。
リオには先んじてその話はしておりましたし、事務の手伝いをする上で本当に深刻な状況であることも理解しているようですけれど、それで逃げないんですから優しい子ですわね。
「つまり、お金が稼げないとライヒ様は楽しいことにはならないよな」
アルシュカも税金を国に払わないことがどういう結末を迎えるかを理解している様子。
傭兵をやっていたとも言っていましたし、実際に色々と見てきたのでしょうね。
しかしそれを聞いても彼の表情から『それじゃあ領主を置いてこの領地から逃げたろ!』といった雰囲気は感じられず、むしろ自分は何ができるかを考えている様子。
「領地差し押さえでは済まないのは間違いありませんわね。というか、金がない土地なんて国としても欲しくはないでしょうから。
となれば、懲罰部隊めいたところで死兵にさせられるか、他国へのほどよい貢ぎ物になるか、まあそんなところですわね」
二人はその言葉に難しい顔をする。
「ダンジョンはライヒ様のものなのですよね?」
「ええ。そうですわよ」
「三人で頑張っても、どうにもなりませんか?」
「もしくは交代制とか。三人交代制は難しくても、ライヒ様とオレとリ、……こほん。リオのタッグで交代で稼ぐことはできるんじゃないか?」
「ううん。たとえそれで必死になっても、どうでしょうね。
少人数で必死でダンジョン金策したところで──」
リオは必要な金額を正確に理解しているからこそ、わたくしの表情からダンジョンで稼げる金額が納税に足るモノではないことを察したようですわね。
「稼ぎきれない、か」
アルシュカも難しい顔をして返答。
そうなのですわよね。
「それこそ、全自動で誰かがずっと倒してくれたりしたなら」
「ってことはオレがアンデッドのままだったら」
「そういうことを言うもんじゃありませんわよ」
ただ、修復をしただけで存在を何かに変えられたかどうかはわたくしにはわかりませんわ。
この紋の使い方だってろくすっぽわかっちゃいませんのに。
「アンデッドのままだったらなんて──……ん?」
「ライヒ様?」
「……アンデッドの、……アルシュカ。ちょっと聞きたいのだけれど」
「なに?」
「ゴブリンにボコられていましたわよね」
「いたけど、なんだよ。弱くて悪かったな」
「そういうことを言いたいんじゃありませんわ。
ボコられてはいたのは事実かもしれませんけれど、一方的ではなかったでしょう」
「あんときは記憶も薄ぼんやりとしてるけど、数十匹は殺してると思う。こっちは壊されはしても死にはしない、でも相手は死ぬからな。
でもどれくらいか時間が経ったらあいつら、また復活して」
「そ、」
「ん?」「?」
「それですわッッッ!!!」
天啓、閃く。
「アルシュカ、よくやりましたわ! 撫でて差し上げます!!」
「うわわっ、やめろって!」
「リオもこの話題への誘導、とても素敵でしてよ! 撫でて差し上げますわ!!」
「わあ……!」
この案が上手くいけばガッポガッポでウッシッシですわ……!!
今すぐにとは行かずとも、そのうちにお披露目できることでしょう。コイツを軌道に乗せて左団扇でゲッヘッヘですわあ~~~!! ホーッホッホッホ!!
「ホーーーーッホッホッホ!!」
「声でッか」
「ライヒ様が楽しそうで嬉しいです」
✘✘✘
まずはダンジョンを停止し、氏族紋に光を回収。
「ポータルの開閉で出たり入ったりするんだな、それ」
「なんなのかもわからないけど、この光のお陰みたいですわね。使えるものは使わせてもらっておりますわ」
「その光は源流資産ですね」
不意にリオがそう呼ぶ。
「知っておりますの?」
「はい、そう学んだことがあります。
昔はこれを自在に扱うものこそが魔法使いだと呼ばれていたと」
「魔術士とは違うのか?」
「魔術士が使うのはマナというものだそうです。
マナは自分自身に溶け込んだ力を指して、カラレスが世界や生物に溶け込んだ力を指すそうです」
「物知りだな」「物知りですわね」
「知識だけでカラレスをどう扱うかはわからないので」
大した知識でもないです、ごめんなさい。そんなしおらしい態度のリオ。
どういう出自なのかしらと気になりはするけど、今はそれどころでもありませんわね。
「とりあえず名前があったほうが便利なのは間違いありませんわ。
ひとまず手持ちのカラレスで試したいことがありますのよ、付いてきなさい」
そういって領内でそれっぽいアーチや何らかの遺物であろうものにポータルを開くかどうかの実験をする。
コストを抑えるために魔物の出現などは最低限に。
「ええと、閉じたり開いたりして何してるんだ?」
「チェックですわ」
「チェックって、何を」
「この力は『わたくしの領地』だけで使えると言われておりますの。で、領地ってどこからどこまでって大雑把にしか決まってませんのよね。
人気のある土地なら明確に区分されているのですけれど」
「ああ。このあたりだとどんぶり勘定で大体この辺りね、なんて言われてそうだよな」
「何もありませんものね」
「流石に自分の雇い主に『ハイ、そうですね』とは言えねえよ、オレは」
などと話しつつ、遂に開けない場所を見つける。
つまり、ここが領地の境界線ですわね。
ギリギリの位置にポータルを作り出し、
「次は三人で入りますわよ、準備はよろしくて?」
「私はいつでも!」
「あー、オレは、その、武器が」
そういえば、アルシュカが持っていた武器は壊れていましたわね。
「それじゃ、これを差し上げます」
「え、いや……」
それを掴み、鞘から抜いて見るも、
「高いだろ、これ」
「高かったですわね。位階を上げるために必要だったんですわよ」
実際、それまでの貯蓄が全て吹き飛ぶくらいの金額でしたわ。
けれど、
「家臣を無手で戦闘に叩き込むなんて主君としてあるまじき行いでしょう」
「……でも」
「受け取りなさい、アルシュカ。
あなたはわたくしの騎士、そうですわね」
「それは。ああ。間違いなく、そうだ」
「では、我が騎士としてわたくしと、リオをこの剣で守るのです」
与えられた任務に服従したくない、というものではないようですわ。
どう考えてもわたくしの主武装であり、高額である剣を受け取っていいのかを悩む、そんな複雑な表情をしてから、
「アルシュカ、その任を拝命します」
それでも恭しく剣を受け取り直す。
案外サマになってますわね。
「それじゃ、気を取り直していきますわよ。あ、リオにもちゃんと何かお渡ししますから、待ってなさいな」
「そ、そんな。私はライヒ様の側にいられれば……」
とそこまで言うも、やはり剣が羨ましいのか、
「はい、その日を楽しみにしております」
羽をぴこぴこと動かしながら頷いた。うんうん、素直が一番ですわね。




