表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦場帰りの少年兵、平和な学園に放り込まれる ~人を斬ることしか知らない俺は“常識”を学ぶことになった~  作者: 時津津


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/31

第三話 戦場帰りの俺と、平和の味


 鐘が鳴る。

 ――四つ半鐘。

 ってことは昼飯だ!


 授業のせいでショートしかけた頭をブンブンと振り、タルクは元気よく立ち上がる。


「ミーナ!飯に行こう!」


「ああ、ちょうど俺たちもお前を誘おうと相談していたところだ。」


 ミーナの代わりに答えたのは、今朝から行動を共にしているマルコスだった。

 彼はまだよそ行きの顔をしていたが、タルクに向かってニッと歯を見せると、


「朝食がパン一個だったからな。

 腹、減ったろう?」


「ええ?

 何で朝食食べなかったの?」


 とはミーナ。


「コイツ、朝から食堂のおばちゃんに叱られてさ。

 朝食抜きにされたんだ」


 ははっと思い出し笑いをしながらマルコス。


「で、俺がかすめたパンを分けてやったのさ。」


「マルコス、様……も、パンをかすめたりするんですね。」


「だからさー、「様」はよしてくれよー。」


「いいだろ別に。本人がいいって言ってんだから。」


「でも……」


 ミーナは節目がちに周りを見る。

 クラスの生徒達も食堂に向かったのだろう。もう、人影はまばらだった。


「……えっと、慣れたら、やめます……」


 最後は消え入りそうな声だったが、マルコスは目を輝かせて、


「うんうん!

 期待して待ってるぜい!」


 とおどけてみせた。

 タルクもミーナも笑った。


「さ、行こうぜ!お二人さん!」


「おう」「はい」


 と、連れ立ち歩きだす三人。

 廊下の向こうで、値踏みするような視線が三人に向けられていたことに、彼等はまだ気付いていなかった。




 食堂。

 食事の匂いとざわめきにタルクは思わず顔を上げる。

 

 たくさんの生徒があちらこちらで食事をし、談笑している。

 いい匂いもする。

 タルクはそれだけで楽しくなってきた。

 よだれも溢れてきた。


「タ、タルク君、よだれが……」


 ミーナは内胸ポケットからハンカチを取り出してタルクの口元を拭いてくれた。

 ミーナのハンカチはいい匂いで、それも、なんだか嬉しかった。


「おお!お二人さん、アツアツだねぇ」

 とマルコスが茶化す。


「ち、違います!」

 ミーナは慌ててハンカチを引っ込める。

 

 昨日は胸がムカムカしていたことや、昼食は自分で用意するものだと思っていたことなどから、携行食……まあ、ただの干し肉と硬いパンだが……を教室で一人食べたので食堂に来るのは、これが初めてだった。

 そういえば、夜飯も硬パンを食っただけだった。

 

「なあなあ!どこでメシ貰えるんだ?」


「お、そうか、初めてだもんな。

 ……こっちだ!並ぼうぜ。」

「で、な。

 学生証の裏をおばちゃん見せればメシをくれる。」


 マルコスはそう言いながら学生証の裏を見せる。

 カード状の学生証。

 裏地は青色で何も書いていない。

 その青色を指差しながら


「この色で食えるメシが違うんだ。」


「へえ。

 ……俺のは赤いな。なんか違うのか?」


「いや、それは俺も見たことない色だな……」


「ふうん。まあいいや。

 ……ミーナのは?」


「えっと、恥ずかしいから、驚かないでね」


 ミーナは学生証の裏をチラッと見せてくれる。

 ……金色。


「おお!金だ!」


「あっ!……もうっ……!」


 ミーナは俺の胸を平手で叩く。

 顔が真っ赤だ。


 俺の声に反応して周囲がざわつく。

「金……?」

「ああ、一年の、金な」

「平民の……」


 マルコスが俺をつついて、やれやれ、と言いたそうな顔をしている。

「タルク。

……気にすんなよ?今は。」


「……なにがだ?

 金色のメシはショボいのか?」


「うーん。

 どちらかと言うと逆。

 金はその学年の成績首位の証なんだ。」


「すげえじゃん。

 ……じゃあ俺の赤は?」


「……すまん。

 俺もそれは知らないんだ。」


「へえ。

 じゃあ、何が出るかはお楽しみってことか。」


 正直、俺は食えれば何でもいい。

 うまいに越したことはないけど。


 やっと、俺たちの順番になった。

 マルコスがやったように、俺はおばちゃんに学生証の裏を見せる。

 その瞬間、おばちゃんの目は見開かれ、


「アンタ!

 何で昨日は来なかったんだい!?

 無駄になっちまったじゃないのさ!

 今日は昨日の分まで食っていきな!

 赤色なんてアンタしかいないんだからね!」


 と食堂中に響く声。

 よく見るとこのおばちゃん、寮の食堂のおばちゃんだった。


 タルクは一瞬の出来事にちょっと驚いたが、


「二食分食えるのか!?

 やったー!!」


 とバンザイ。


「で、そっちの嬢ちゃんは、……いつものかい?」


「はい……」


「遠慮することないのにねえ。

 ……準備するから待ってな!」


 おばちゃんは振り返り、配膳してくれる。


 マルコスは、ワンプレートにきれいにまとめられたバランスの良さそうなメシ。うまそうだけど腹いっぱい、という感じじゃない。

 ミーナのはサラダとパンとスープ。これも、うまそうだけど腹いっぱい、という感じじゃない。

 俺のは、でかい肉の山盛り。絶対に腹一杯!


 おばちゃんも満面の笑みで

「朝食を抜いた分、ちょっと盛っておいたよ!」

 と、ウインクする。


「俺のが一番いいメシじゃねえか!」

 満面の笑み。溢れ出るよだれを拭いもしない。


 周囲で様子を伺っていた生徒らも、ミーナも「うわあ……あれはないわ」とでも言いたそうな表情である。

 ミーナは手も震えている。

 トレーに乗せたスープがこぼれそうだ。

 

 マルコスだけが、噴き出しそうになりながら、

「お前……それ、マジかよ……」


「お!マルコス!

 お前にはパンの恩があるからな!

 ちゃんと分けてやるって!

 ……でも、一つだけだぞ?」


 肉の山から厳選したなるべく小さな一つの肉を摘み上げ、マルコスに差し出す。

 その様子を見てマルコスは

 

「……いいって!

 それより早く席につこうぜ!時間がなくなっちまう。」


 と、よそ行きの顔を崩して笑う。


「だな!

 ……あっちが空いてるみたいだ!行こうぜ!」


 タルクは走り出した。

 生徒らの間を縫うようにすり抜け、目的地である空席へ。

「ガタンッ!」

 大きな音を立てて肉山が乗るプレートを席に置き、


「おおい!こっちだぞー!」


 マルコスとミーナを両手で手招きする。


 こちらに向かう彼等の顔が少し曇った。

 マルコスは苦笑い。ミーナは白い顔をしていた。

 

 ……どうしたんだ?

 さっきまでの奇異なものを見る周囲の目が、より警戒の色を増したように思う。

「タルク君、ダメ!」

 ミーナは小走りで駆け寄ってくる。

 スープが溢れそうだ。

 

 タルクのもとにマルコスとミーナがたどり着いた時、横からアルベルトがミーナを遮る。


「……わかっているだろうが、ここは貴族席だ。

 学年首位といえども、平民のお前が座っていい席ではない。」


「え?なんで?」


 アルベルトはため息をつき、やれやれと首をすぼめて、タルクの皿を一瞥する。

 

「……君も君だ。

 貴族らしくない食事……家の名が泣くぞ?」


「いえのな?

 なにそれ?生き物?」


「あと俺、貴族じゃないぞ?」


 一瞬、アルベルトが面食らったような顔をした。

 流れるように苦虫を噛み潰したような顔になり、


「な、何だと……?

 貴族ですらないものが、……あの剣を……?」


 アルベルトは信じられないことを聞いたという顔で、一歩、後ずさる。


「私は……

 貴族ですらないものの剣に……負けたのか……?」


「……お前さ、貴族貴族ってうるさいけど、

 そんなの剣に関係ないだろ?

 生きるか死ぬかって時にそんなもん、

 ……気にしててもしょうがねぇだろ。」


 ……そういえば。

 そんなこと気にしたまま、死んだ奴もいたな。

 ――アルベルトは、少しだけそいつに似ていた。


 アルベルトは、少しだけ口を開きかけて――閉じた。

 そして、よろけて歩き出し、食堂を出て行った。


 周囲はざわめいていたが、誰もタルク達に何か言おうとはしなかった。

 出ていくアルベルトの様子を見ていたマルコスは、


「なあタルク。

 ……俺、外見ながら食うのが好きなんだ。

 窓際の席も空いてるし、そっちに行こうぜ。」


「ん?……そっか。

 じゃあ、そっちに行くか!」


 と、タルクを連れて歩き出す。

 ミーナは一瞬躊躇したが、振り払うように小さく首を振ると、タルクの後ろを歩き始める。

 顔色は先ほどよりも血色を取り戻していた。


「ま、気にするなって!」


 そんなミーナの肩を叩きマルコスは言うが、ミーナは


「……ほんとに……もう……」


 と、ため息のように呟く。

 そんなミーナの顔を覗き込みながらタルクは、


「……何でそんな元気ないんだ?」


 なんて聞くもんだからミーナは怒気を露わにして


「タルク君のせいでしょ!」


「え? 俺?」


「俺?じゃありません!

 さっきからずっと、どれだけ大変なことしてると思ってるんですか!」


 タルクは少しだけ考えたが首を捻って、


「……大変なことをしたのか?」


「そうです!」


「でも、腹減ってただろ?」


「そういう話じゃありませんっ!」

 

 マルコスはとうとう吹き出した。


「あーもう、そこは謝っとけって、タルク」


「わかった。……ごめんな?」


「疑問形で謝らないでください!」


「……ごめんって。

 でも俺、いまいち何が悪いのかわからないんだよなー。」


「……もうっ!」


 そうこうしているうちに、マルコスの指し示した席にたどり着く。

 日当たりもバッチリだし、確かに外が見えていい。

 タルクは一気にこの席が気に入った。


「俺、毎日ここでメシ食いたいな。」


 素直にそう言うと、マルコスもミーナも同意してくれた。


「それがいいな。」「そうしてください。」


「さ、食べよう。」


 マルコスが言うが早いか、タルクはすぐ目の前の肉の山に夢中になる。

 骨がついた鶏の肉。

 一つを口に放り込み、バリバリ音を立てて咀嚼する。


「ええっ……タルク君、骨まで食べてるの?」

 ミーナは思わず目を見開いた。

 

「ほら、骨は出さなきゃ!」

 半ば悲鳴のような声でミーナが言う。その顔は信じられないものを見たというような表情だ。

 一方のマルコスは、自分の食事を触りもせずに大笑い。


「ダハハハ!

 やっぱ、お前、スゲエな!」


 タルクは粉々に砕いた骨と肉を飲み込み、何がおかしいのか?と言いたげに首を傾げる。


「出したらもったいねぇだろ。

 ……腹はその分膨れるし、骨も強くなる。

 これが一石二鳥ってやつだ。」


「口の周りをそんなに汚して……」


 ミーナはハンカチでタルクの口を拭おうとしたが、マルコスと目が合い、慌てて手を引っ込める。

 少し頬を赤くして。


「ミーナちゃんもご遠慮なく〜」

 ニヤニヤ笑いのマルコス


「あう……

 その、……」


「何してんだ二人とも?

 早く食わねぇと俺が全部食っちゃうぞ?」

 

「そうだな。

 ミーナちゃんをからかってばっかりじゃ時間もなくなっちまう。

 俺たちも食おう。」


「うう……」


 ゆでだこのように顔を赤くしたミーナも、笑いを噛み殺しているマルコスも、それぞれようやく食事に手をつけた。


 タルクは次々と肉を口へ放り込む。

 うまい。温かい。味がある。


 こんな時間が、ずっと続けばいいのにと思った。


 あの頃とは違う。

 ただ腹を満たすだけではない、ちゃんと味のある食事だった。


 同年代の連中と飯を食うのも初めてだった。

 こんなふうに笑いながら食べるのも初めてだった。


 アルベルトのことは少し気になる。

 アルベルトに少し似た、あのときのあいつのことが頭をよぎる。

 あいつとも、もっと話したかった。


 生きてるアルベルトとは、今度また話せばいい。


 そう思いながら、タルクはまた一つ、骨つき肉を口へ放り込んだ。

 なかなか減らない肉の山を見て、嬉しく思う。


 『飯は食える時に食っておけ。』『食うのも戦闘のうち。』

 ……そう教わったし、そうしてきた。

 けれど、もう今は戦場じゃない。

 死ぬことも、殺すことも考えなくていい。

 じゃあ、今はどうなんだろう。


「うぐっ……」


 慣れないことを考えたせいか、肉が喉に詰まる。

 

 すかさず隣のマルコスが背中を叩いてくれた。

 タルクはやっとのことで肉を飲み込む。


「慌てるなって。

 ……肉は逃げないんだから。」


「おう。

 ありがとな!」


 そうか。

 そうなんだな。


 平和ってのは、

 いつだって腹いっぱい飯が食えるってことなんだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ