第二十四話 戦場帰りの俺と、今、やるべきこと
翌朝。学園男子寮。
アルベルトを部屋に残し、朝食を摂った俺とマルコスは、全ての事情を話すわけにはいかなかったが、かあちゃんにアルベルトを匿ってくれと話す。
かあちゃんは、
「何かやってんだろうなと思ってたけど、アンタ達が一生懸命考えたことなんだろ?人様に迷惑をかけることじゃないなら、かあちゃんが手伝えることなら手伝うよ」と言ってくれた。
アイリーン先生から命じられた罰課題なんか一文字もやってねえし、「俺も学園休む」と言えればよかったんだけど、かあちゃんを目の前にすると、謎の威圧感で思ってること全部言えねえんだよな。……まあ、かあちゃんに見つからないようにすればいいだけだし、大丈夫だろ。
――なんて思ってたけど
「タルク君!
一緒に学園に行こ!」
玄関から元気な女子の声。
併せて、かあちゃんの
「女の子を待たせるんじゃないよ!早く行きな!」という怒声を浴びて、学園に行かざるを得なくなった……。
アルベルトに朝食を渡し、俺とマルコスはかあちゃんに追い立てられるように寮の玄関まで行くと、そこにはミーナとリリアナがいた。
「おはよう」
「おう」
「じゃあ、行こ」
短く挨拶を交わし、四人で歩き出す。
歩き出して、すぐミーナ
「あれ?アルベルト……様は?
まだ怪我がよくないの?」
「う、おお、あいつ、は……
寝てる」
「ふうん?
寮に入ることになったの?」
「あ、いや、違う……
あれだ!病院で寝てる!」
「そっか……」
「まあ、酷い怪我だったのね」
ミーナに続いてリリアナ。
俺は、とっさの嘘が全て見透かされている気分だった。
「いやまあ、そんなに酷くはなかったんだけど、大事をとって、ね」
マルコスがフォローしてくれる。
こういうのはマルコスが頼りになる。
「どちらの病院なの?
お見舞いに行きたいわ」
「ああいや!
それはダメなんだよ!
面会謝絶ってやつさ!」
「あら、先ほどは「酷くない」って」
ダメだ。
……マルコスは当てにならねえ。
リリアナはふふ、と笑うと、
「まあ、そういうことにしておくわね」
と言う。……多分全部見透かされてる。
さっきの直感が確信に変わる。
……俺、リリアナ苦手だなあ。
「そ、そういえばさ、二人は昨日の休みは何してたの?」
マルコスが無理やり話題を変えようとする。
突然顔を赤くするミーナ。
「えっと、ね、
……秘密……」
「あら、秘密にすることないじゃない。
……ちょっと街まで買い物に行ったのよ」
「へえ、何を買いに?」
「ちょ、リリアナ、秘密!」
「あら残念……あんなに一生懸命選んでたのに。」
「もうっ!
……そんなに一生懸命じゃなかったもん!」
「あら、適当に選んだの?」
「ち、違うけど……」
イタズラそうに笑うリリアナと目が合う。
「……ん?俺になんか買ってくれたのか?
……食いもん?」
「うーん……
食べ物……に近いかもね」
「近くない!
下着は食べ物じゃない!」
「…………」
一瞬、空気が止まった。
「へ?」
ミーナは両手で口を押さえる。
「え、あ、ち、違っ!
今のは違くて!」
「何が違うんだよ」
「全部!」
「どういうことだよ……
パンツは買ってねえってこと?」
「……買ったけど……」
「……何が違うんだよ」
「うー……」
俺が本気で首を傾げると、顔を真っ赤にしたミーナは
「もうっ!知らないっ!」
と言って、早歩きでズンズン進んでいく。
ふう、と息をついてリリアナ
「ちなみに、かなり真剣に選んでたわよ」
「……リリアナぁ!」
すぐに戻ってきた。
◇
――学園に着いた。
いつ見ても大きな門の前には立て看板があり、
「1-1生徒は、旧棟、特別教室へ」とある。
「教室、まだ復旧できてないんだな。
……壁にも穴空いてたもんな」
「旧棟……?
で、それどこにあるんだよ?」
「……あっち」
まだ顔の赤いミーナが節目がちに指をさす方を見ると、1-1教室がある石造りの建物からは見劣りする木造の建物。
「……清潔ならいいんだけれど」
憂鬱そうにふうと息をはくリリアナと、横に並ぶミーナを先頭にして、四人は旧棟に向かった。
旧棟は、木造二階建ての細長い建物であり、特別教室とやらは二階の端にあった。教室自体の広さは1-1教室のそれとさほど変わらなく、リリアナが心配した「清潔さ」も遜色ないように思う。すでに生徒達の半分くらいは教室に着いており、おのおの話に花を咲かせていた。
「そ、そういえばさ、
タルク君達は昨日は何をしていたの?」
教室に着くなりミーナが話しかけてくる。
隣でリリアナがミーナを肘でつついている。
「あー……
散歩してた」
「そうそう、散歩、な」
「へえ、どの辺りで散歩するの?」
「ファルマ……」
どんと脇腹をマルコスが突く。
「アレだ、ほら、向こうの森の方まで」
「南の?
……よくそんなところまで行ったわね。
獣とか出るんじゃないの?」
「いやそれはアレさ、
……男は、内面に獣を飼っているんだぜ。
だから、獣なんて、みんな仲良しさ」
「おお、そうなのか。
俺は獣は食いもんとしか見てなかった」
「ちょっと待って……。
マルコス君の発言は気持ち悪いので追及しないけど、
タルク君は獣狩れるの?」
「おう。
動くやつは大体肉だ」
「へえ、すごいのね!
今度、何か狩れたら、ご馳走してちょうだい。
ミーナと一緒に行くわ。
……ちゃんとその後、二人きりにしてあげるから、ね」
「ちょ、何言ってるの!リリアナ!」
ミーナがガタンと立ち上がったその時、教室の扉がギィと音を立てて開く。
そこから現れたのはアイリーン先生だった。
「おはよう、諸君。
仮設の教室で不便をかけるが、しばらく辛抱してくれ。」
先生は教壇へと歩きながら簡単に挨拶する。
「起立、礼」
当番が号令をかける。
「では、授業を始める
……が、その前に」
アイリーン先生は俺に顔を向ける。
「タルク、与えていた課題を提出しろ」
「あ」
「……?どうした?
早く持ってこないか」
「やってない、……す」
「……ん?」
「だから、
……忘れてた……す」
「忘れた、だと?」
「嘘でーす。
俺はちゃんと昨日の夜にも、課題やれよって言いましたー」
「あっ、てめ、マルコス!」
「タルク」
「……おう」
「明日まで、十五ページだ。
あと、返事は「はい」だろ」
「……はい」
「マルコス」
「え、俺も?」
「タルクが明日も課題を出さなければ、
お前も連帯責任だ。……必ずやらせろ」
「嘘でしょ!?」
「返事は?」
「……はい」
マルコスが余計なことを言ったせいで課題が増えちまった……。こんな書取りなんかやってる暇ねえっていうのに。
俺は、こんな課題なんか授業中に終わらせてやる!と息巻いて取り組んではみた、……が、一ページも終わる前に睡魔に襲われ、アイリーン先生の持つあの棒の一撃を後頭部にもらう。痛え。
◇
休み時間。
せっせと課題を進める俺と、俺が手を抜かないように見張ってるつもりになってるマルコスに、ミーナとリリアナが話しかけてくる。最初はそんな暇ねえから無視だと思っていたんだが、気になる単語が出てきてからは、書取りの手が止まる。
「教師じゃない大人が学園の敷地にいる」
俺とマルコスは思わず顔を見合わせる。
一昨日の1-1の騒動にアルベルトが関わっていることは、ボドロフの奴もすぐに気づくだろうし、そうなりゃ、調べに来るだろうとは思ってはいたが……
しかし、そうなのだとしても、今はこちらの準備が何もできていない状態で、相手がどんな装備で、何を用意しているのかもわからない。
……もし、ボドロフの手先なんだとしても、手を出せない。そして、手を出さずとも、アルベルトとの関わりを察知されれば、奴らの側から攻めてくる。
俺は、窓から外を見てみる。
確かに、教師ではない大人が数人いる。
その中の一人に昨日、外套で絞め落としたおっさん警備兵がいた。右頬を大きく腫らしているが、しっかりと見覚えがある。
間違いない。ボドロフの手先どもだ。
アルベルトの行方を探しているんだろうが、その様子からは確かな情報は持っていないように思えた。
「だから、そんな暇はねえってのに……」
俺は1人ゴチると、机の上の課題に戻った。




