第十九話 戦場帰りの俺と、作戦会議
――翌日。もうすぐ昼時を迎える男子学園寮食堂では、普段ならいないはずの生徒が三名、ひとつの卓に座り、ああだこうだと相談していた。
昨日のアルベルトの暴走により、教室はすぐには復旧できないほどに壊れ、そのために1-1に在籍する生徒は急遽、自宅又は寮に待機することとなった。おかげで、こうやって、タルク、マルコス、アルベルトの三人はファルマス家に対する対策会議をする時間を得たのだ。
「――だから、それではダメだ!」
ドンと机を叩くアルベルト。
隣でマルコスはウンウンと首を縦に振る。
「なんでだよ。
……手っ取り早いだろ?」
「ダメだ!
お前のやり方では、我々の方が犯罪者として追われることになってしまう!」
「えー……
闇討ちの何が悪いんだよ……」
「全部だ!」
マルコスが首を振るのをやめて「他の案はないわけ??」と言う。なんだか少しだけ楽しんでるみたいで腹が立つので脇腹を小突く。
「……じゃあ、アレだ!
弓で狙撃!」
「ダメだ!」
「これもダメか……
なんだったらいいんだよ!」
「いいかタルク!」
アルベルトは頭を抱えながら叫ぶ。
「貴族を潰すには、“罪”が必要なんだ!」
「殺せば潰れるだろ」
「だからその発想をやめろ!」
机を叩く。
「まず前提として、父は伯爵だ!
ただの人間ではない!
証拠も無しに襲えば、我々の方が反逆者として処理される!」
「めんどくせえな貴族」
「貴族社会がそういうものなんだ!」
「戦場なら刺した方が勝ちだったぞ」
「ここは戦場じゃない!」
「いや、わりと戦場だろ」
「精神的にはな!」
マルコスが吹き出す。
「ははっ……!
いやでも、タルクの気持ちもちょっとわかるぞ?
俺も話聞いた後だと、普通に殴り込みたくなったし」
「お前まで何を言う!」
「だから“普通に”はダメなんだろ?」
「当然だ!」
アルベルトは大きく息を吐き、額を押さえる。
「……必要なのは、
父が罪を犯したという証拠。
それを公に認めさせることだ。」
「証拠ぉ?」
「例えば、帝国との繋がり。
姉様の死の不自然さ。
薬の出所。
そういうものだ」
「なるほどな」
俺は腕を組む。
「つまり、
“悪いことしてる”ってみんなにバレればいいんだろ?」
「……乱暴に言えばそうだ」
「じゃあ簡単じゃねえか」
「どこがだ!?」
「捕まえて吐かせりゃ――」
「ダメだと言っている!」
また机が揺れた。
周囲の生徒がビクッとこちらを見る。
「あ」
アルベルトが小さくなる。
「す、すまない……」
「お前、
昨日から机壊しすぎだろ」
「誰のせいだと思っている!」
「ボドロフのクソ野郎」
「……っ!
半分正解だ!」
マルコスが腹を抱えて笑い出す。
「ダメだ、
お前ら見てると緊張感なくなる……!」
「いいことじゃねえか」
俺はパンをかじる。
「ピリピリして腹減らして、
また倒れたら意味ねえぞ。
……それに、そんな緊張してたら斬れるもんも斬れねえ」
アルベルトは一瞬ぽかんとして、
それから小さく笑った。
「……本当にお前は、
時々訳のわからないことを言うな」
「でも間違ってねえだろ?」
「……まあ、それはそうだが」
「で、証拠ってのはどうやって探すんだ?」
マルコスがパンをちぎりながら尋ねる。
アルベルトは少し考え込み、それから声を潜めた。
「……父は、学園にも出入りしている。」
「伯爵様だもんな」
「ああ。
寄付もしているし、理事とも繋がりが深い。
だから、表向きは“人格者”として通っている」
「うわ、最悪」
「最悪だ」
即答だった。
「だが、逆に言えば、
学園内にも父の息がかかった者がいる可能性がある。」
俺とマルコスは顔を見合わせる。
「……スパイってことか?」
「そこまで大袈裟じゃないかもしれない。
だが、情報を流している人間くらいはいるかもしれんな」
「なるほど」
俺は頷く。
「じゃあそいつ捕まえて吐かせ――」
「だからそこから離れろ!」
また机が揺れた。
「落ち着けって」
「落ち着けるか!」
食堂の奥で、かあちゃんが「うるさいよ!」と怒鳴る。
三人まとめて肩が跳ねた。
「……すみません」
「すんません」
「……申し訳ありません」
三者三様の謝罪。
周囲の生徒がクスクス笑う。
アルベルトは深々とため息を吐いた。
「とにかく、
まずは情報だ。
父が帝国と繋がっている証拠。
薬の流れ。
姉様の件を知っている者――」
「つまり、探るってことだな」
「ああ」
俺は少し考えてから、ふと口を開く。
「じゃあさ」
「なんだ」
「悪いことしてる奴って、
だいたい隠し部屋とか持ってねえ?」
アルベルトとマルコスが同時に黙る。
「……タルク」
「なんだよ」
「お前、
妙にそういう勘だけ鋭いな……」
「戦場でも、
“ここ怪しい”って場所にはだいたい敵いたぞ」
「経験則が物騒すぎる……」
マルコスが苦笑する。
だがアルベルトは、腕を組んで真面目な顔になった。
「……いや、
可能性はある。」
「あるのかよ」
「父の書斎には、
子供の頃から“絶対に入るな”と言われていた部屋がある」
「ほら見ろ!」
「まだ隠し部屋と決まったわけじゃない!」
「でも怪しい!」
「……怪しいな」
「認めた!」
マルコスが吹き出した。
「なんかもう、
タルクの雑な推理で話進んでないか?」
「でも当たってるだろ?」
「否定しづらいのが腹立つ!」
「じゃあ、決まりだな。
その部屋に突入して、手当たり次第盗む」
「「おい!」」
アルベルトが机に突っ伏した。
「どうしてお前は、
毎回そこだけ迷いなく犯罪に走るんだ……」
「いやだって、
悪い奴の部屋には悪いもんがあるだろ?」
「理屈としてはわかるのが嫌だな……」
マルコスも頭を抱えている。
「そもそも、
伯爵家の屋敷にどうやって入るんだよ」
「忍び込む」
「簡単に言うな!」
「夜なら見張り減るだろ」
「お前の基準は全部戦場なんだよ!」
アルベルトが叫ぶ。
だが俺は真面目に考える。
「いや、でも実際、
証拠探すなら現場行くしかなくねえ?」
「……それは、そうだが」
「だろ?」
「だからといって侵入は――」
「バレなきゃいい」
「そういう問題じゃない!」
マルコスが吹き出す。
「ははっ……!
もうダメだ、会話が追いつかねえ!」
「お前はどっち側なんだ!」
「面白い側!」
「最悪だ!」
アルベルトが頭を抱え直す。
しばらく唸った後、
深く息を吐いた。
「……仮に。
仮にだぞ?」
「おう」
「屋敷を調べるとしても、
真正面からは無理だ。」
「じゃあ裏」
「話を聞け!」
「聞いてるぞ」
「聞いてない!」
また机が揺れる。
遠くからかあちゃんの視線を感じた。
三人まとめて姿勢を正す。
アルベルトは咳払いを一つ。
「……屋敷には定期的に商人や使用人が出入りしている。
荷運び、人員補充、庭師……」
「変装潜入か!」
俺が身を乗り出す。
「おっ、なんか急に盗賊っぽくなってきたな!」
「お前の目、
今めちゃくちゃ輝いてるぞ……」
マルコスが引き気味に言う。
「楽しそうだなタルク」
「潜入は戦場でも大事だからな」
「絶対違う方向に経験値積んでるだろお前」
アルベルトは眉間を押さえながら続ける。
「……使用人の顔までは、
父も全員把握していない可能性が高い。
うまく紛れ込めれば――」
「いける!」
「まだ決まってない!」
「でも今、
アルベルトの中で“潜入案”がかなり有力になっただろ?」
「……っ」
「図星か」
マルコスがニヤニヤする。
アルベルトはしばらく黙り込んだ後、
観念したように呟いた。
「……一応、
屋敷の見取り図くらいなら、
私の記憶にある。」
一瞬、静寂。
そして。
「よっしゃあ!」
「やめろ声がデカい!」
「うるさいって言ってるだろ!
外でやりな!」
三人にかあちゃんの雷が落ちた。




