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戦場帰りの少年兵、平和な学園に放り込まれる ~人を斬ることしか知らない俺は“常識”を学ぶことになった~  作者: 時津津


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第一話 戦場帰りの俺、学園に行く


 王国の最東端、荒れ果てた荒野。

 

 ついさっきまで死ぬ気で動き続けていた。

 俺は陸に打ち上げられた魚みたいに、まともに息もできない。汗を大量にかいたから喉は焼けたようにカラカラだし、身体の疲労も限界だし満身創痍だ。あちこち痛い。


 一仕事終えた俺は、その場に両膝をつく。

 とにかく足りない酸素を脳へ送ることだけに集中する。握っていた剣はすでに放り投げた。

 

 ボヤける耳には歓声、視界のあちこちを王国の青地の旗が埋め尽くすのを見てやっと実感できる。

 

 ――10年続いた帝国との戦争が、今、終わった。


 

 ◇



 半年後――新暦0年7月1日

 王国の南端に位置する、フローレンス学園。



 

「おお!近づくとこんなにもデカいんだな!」

 

 目の前の城のようなデカさの白い建物を見上げ、これまた巨大な門扉の前、俺は驚きのあまり叫んでしまう。

 

「なにあれ」「田舎者?」


 俺と同じ白を基調とした制服を纏うまだ知らぬご同輩達から白い目で見られるし、なんでかみんな、そそくさと俺から離れていってしまう。

 ――声がデカくて驚かせちまったかな?

 

 俺は、戦争の後、王宮で言われたことを思い出す。


 ◇

 

「貴君は戦場しか知らぬ。これから始まる平和な時代を生きるために、常識を身につけてもらう」

 

「?……じょうしきを身につけるってなんだ?よろいの名前?」

 

「……違う。みんなで生きるために必要なこと、だ。そしてそれは、鎧のように着たり脱いだりするものではない」

 

「そんなん言われても俺、わかんねぇよ。」


「学園にて学ぶがよい。……傷が癒えたらな。」


 ◇


 よし、思い出したがよく分からん!

 まあ、とにかく、この学園で「じょうしき」とかいう技か流派かなんかを身につけろってこった。それができたら、なんだっけ……

じょくん? して……しゃくい?

なんかそんなのをくれるって言ってたな。

 

「くれるもんはもらう!……ってことで待ってろよ!「じょうしき」!」

 

 思わず声が出てしまった。

 ただでさえ距離の開いたご同輩達との距離がさらに開くのを感じた。……まあ、そんなことを気にする俺ではない。

 


「なあなあ!ご同輩!俺、タルクってんだ!しょくいんしつってところに案内してくれ!」


 誰彼構わずに同じ制服を着るご同輩達に声をかける。

 ……が、みんな知らん顔。知らん顔どころか「シッシッ!」と心底嫌そうな顔で虫を払うかのような仕草をする者までいる。それでもめげずにいると、一人の少女が立ち止まってくれた。


「はい。わたしでよければ。……わたしはミーナっていいます」


 風に揺れる、ふわっとしたクセのある亜麻色の髪。

 肩ほどまで伸びたその髪の下で、澄んだ空のような青い瞳が首を傾げる。


「……どう、しました?」


「お、おう!悪い、止まっちまった!」


「いえ……職員室、ですよね?……こっちです」


「助かる!」


 俺は勢いよく頷いた。


 ミーナは門をくぐり、学園の敷地へと歩き出す。

 俺も慌ててその後をついていった。


 歩きながら、周りの連中の視線を感じる。

 

「……あれ、例の転入生じゃない?」

「この時期に?」

「え、あの人?」


 ひそひそ声。


 気にしない。

 戦場じゃ、そんな声より矢の音の方がよっぽど怖い。

 それに、この学園にすでに出来上がっているコミュニティの中に入っていくのだ。そりゃあ奇異な目も向けられるだろう。

 ……まあ、それは戦場でも同じことだ。


「……あの」


 前を歩くミーナが、「ここが職員室です」と前置きして、少しだけ声を小さくした。


「ん?」


「さっきの……“ご同輩”っていう呼び方、珍しいですね」


「そうか?」


「普通は“同級生”とか……」


「なるほど!」


 俺は納得して拳を打った。


「じゃあ、これからは“同級生殿”だな!」


「ち、違います」


 ミーナが少し慌てた。


「“殿”もいりません……」


「難しいなあ、学園」


「……そうですね」


 ミーナは小さく笑った。


「では、中に入りましょう」


 ミーナは少し真面目な顔をして職員室の扉をノックする。


「高等部一年、ミーナ入ります!」


 ガラッと引き戸を開け、職員室に入るミーナ。

 俺も慌てて後に続く。


「転入生を連れてまいりました!」


 ミーナがそう言うと、整然と並んだ机の奥から、長い髪を後ろで束ねた女性教師が歩み寄ってきた。

 背筋の伸びた立ち姿は、どこか軍人の将校のように凛としている。


「おお、待っていたぞ。……ミーナくんが連れてきてくれたのか。ご苦労だった。下がっていいぞ。」


 ミーナは「失礼します」と一礼して退室する。

 後に残された俺は、この女性教師に正対して、


「これからなにをすれば?」

 

「ここ、フローレンス学園はなにより礼節を重んじる。……まずは自己紹介だ。まずは私が名乗ろう。」


「私はこのフローレンス学園で教師をしているアイリーンという。担当科目は語学だ。お前の担任教師でもある。」


「俺はタルク!人を斬るのは得意だ!アイリーン!よろしくな!」


 アイリーンはこめかみを押さえ、ゆっくりと息を吐いた。


「……聞いてはいたが、常識を知らぬらしい。まず、『人を斬るのが得意』などと言うものではない」


「そうなのか?」


「そうだ」


「でも、事実だぞ?」


「事実でも言わない」


 アイリーンは即答した。


「あと、私を呼ぶときは名前のあとに“先生”をつけろ」


「先生?」


「教師への敬称だ」


「なるほど!」


 俺は元気よく頷いた。


「よろしくな!アイリーン先生!」


「……声を少し落とせ」


「了解だ!アイリーン先生!」


「落ちていない」


 アイリーンはもう一度ため息をつく。


「先が思いやられるな……」


 机の上の書類を手に取りながら、アイリーンは俺を見た。


「いいか、タルク。ここは戦場ではない」


「おう」


「学園だ。剣で物事を解決する場所ではない」


「……じゃあ、何で解決するんだ?」


「言葉だ」


 アイリーンは真面目な顔で言った。


「会話と礼節。それがこの学園のモットーであり、平和な世の常識だ」


「なるほど」


 俺は腕を組む。


「つまり、それが“じょうしき”ってやつだな」


「……まあ、そうだな」


「よし」


 俺は拳を握った。


「任せろ、アイリーン先生!」


「……何をだ」


「その“じょうしき”、俺が全部倒してみせる!」


「倒すな。そういうものではない」


 その時、遠くから鐘の音が聞こえた。カーンと一回。


「……お前に時間を取られすぎた。……時間だ。ついて来い」


 アイリーン先生はそう言うと、職員室の扉を開けて歩き出す。俺は言われた通り後に続いた。

 いくつか角を曲がり、階段を登り、「1-1」と書かれたプレートがついた扉の前で先を歩く彼女が止まる。


「ここだ。」

「言い忘れていたが、お前の経歴については学園生たちに知らせていない。教職員も一部が知るのみだ。……ここには、先の戦争で心的な負担を持つものもいる。それを忘れないように。」


「おう、わかった」

 

「よろしい。では、私に続いて中へ」


 彼女はそう言うと躊躇わずに扉を開ける。


 扉の向こうから、ざわめく声が聞こえる。

 笑い声、椅子を引く音、誰かの雑談。

 ――平和な場所の音だ。

 

「席につけ。……転入生だ。」


 俺は、アイリーン先生に促されるまま、教室の前側、中央に置かれた教壇の前に進み、同級生達に向かって立つ。


「自己紹介を」


 俺はすぅっと息を吸い込み、


「俺はタルク!得意なのは人を斬ること!」


 一瞬の静寂。

 直後、教室の一部から大きな笑い声が起こる。


「人を斬る!だってさ!」

「俺たちと年も変わらないのにな!」

「え……犯罪?」


 様々な嘲笑。


「言うなと言ったのに……!」


 俺のすぐ後ろではアイリーン先生が眉間にシワを寄せてこめかみを押さえている。

 

「あっ、そうだった!」


 教室が静かになる。


「……えっと、それは冗談で、」


 俺は胸を張って言った。

 

「この学園にはじょうしきを倒すために来た!」


 同級生達の目が点になる。

 後ろではアイリーン先生の眉間のシワが深くなる。

 音も置き去りにされたような静寂の中、一人の男子が手を挙げる。

 整えられた金髪、胸を張った姿勢。

 制服の着こなしもどこか貴族然としている。


「なんだ?アルベルト」


 アルベルトと呼ばれた少年はその場に立ち上がり、タルクを見据えた。


「タルク君、だったかな」


 生徒達が彼の言葉に耳を傾ける。


「先ほどから聞いていれば、人を斬るだの、常識を倒すだの……」


 彼は軽く肩をすくめた。


「くだらない人気取りは、その辺でやめておくべきだ」


「人気取り?」

 タルクは少し考えてから、

「俺、人気が欲しいわけじゃないぞ?」

 と返す。

 

 アルベルトは、カアッと顔を赤くして

 

「君もこのクラスに編入したのなら15歳であるはずだ。戦争を経験したわけないだろっ!」


「いや、したぞ」

 と言いかけたタルクだが

「そこまでだ!」

 というアイリーン先生の一括に遮られる。


「タルク、君の席は左側の一番奥だ。……席につけ」

「アルベルト、言いたいことはあるだろうが後にしろ」

「……では、授業を始める」

 


 アルベルトは不快そうに眉を寄せたが、それ以上は何も言わず席に着いた。

 そして窓の外へ視線を逸らし、頬杖をつく。

 

 タルクはアイリーン先生に言われた通り自分の席に向かう。……と、そこで、さっき職員室まで案内してくれたミーナが自分の席の斜め前に座っているのに気づき、ニッと笑ってみせ、ミーナは軽く会釈をした。

 なんだか、元気がなさそうな顔をして。


 ――――


 語学の授業が終わり、アイリーン先生が退室する。

 タルクは初めて受ける授業、というものが戦場での屈強な戦士との斬り合いよりもひどく疲れる、本当に手強いものだと感じていた。

 疲れた頭をブルブルと振り、気を取り直してミーナに話しかけようとした時、


「ミーナ!次の授業の準備を!」

 とアルベルトがよく通る大きな声で言う。


 アルベルトの声に、ミーナの肩がびくりと揺れた。


「は、はい」


 ミーナは慌てて立ち上がると、自分の机の脇に置いていた鞄から何かの束を取り出し、アルベルトの席へ向かおうとする。


 俺はそれを見て、首を傾げた。


「……なんでミーナがやるんだ?」


 教室の空気が、ぴたりと止まった。


 ミーナの足も止まる。


 アルベルトがゆっくりとこちらを見た。


「何だと?」


「いや、次の授業の準備だろ?」


 俺は素直に思ったことを口にする。


「自分の授業なら、自分でやった方が早くないか?」


 何人かが吹き出しそうになり、何人かが青ざめた。


 ミーナが小さく声を上げる。


「タ、タルクくん……!」


 だが、俺には何がまずいのか分からない。


「だってそうだろ? 怪我してるわけでもないのに」


 アルベルトの眉がぴくりと動いた。


「……平民の彼女が、貴族である私の身の回りを手伝うのは当然のことだ」


「当然?」


「そうだ。この学園では珍しい話でもない」


 俺はミーナを見る。


 ミーナは困ったように俯き、小さく唇を結んでいた。


 それを見て、胸の奥が少しざらついた。


「ミーナは嫌そうだぞ」


 その一言で、教室は完全に静まり返った。


「庶民が嫌がろうが関係ない!」


 アルベルトは顔を真っ赤にして声を荒げた。


「お前は一体何なんだ!? 私は貴族だぞ! 何の権利があって口を挟む!」


「けんり?とか知らねぇよ」


 俺は眉をひそめる。


「でも、ミーナが嫌そうなのは分かる」


「それに、俺が何なのかは関係ねぇだろ?」


 誰かが息を呑む音がした。

 教室のあちこちで、信じられないものを見るような目が俺に向けられる。

 アルベルトはゆでダコみたいに真っ赤になって、口をぱくぱくさせている。


 俯いていたミーナが、震えた声で絞り出すように俺とアルベルトの間に入る。


「もう、いいの……!」


 だがアルベルトはミーナを一瞥しただけで、取り合わない。

 そのまま、まっすぐ俺を指さした。


「……決闘だ……!」


「お前に貴族の何たるかを叩き込んでやる!」

 

「おう、受ける」


 俺はアルベルトを見返す。


「俺が勝ったら、ミーナにあれこれ言うのはやめろ」


「……余裕ぶっていられるのも今のうちだけだ。」


「……放課後、校庭だ」


 アルベルトは唇を引き結び、俺を睨む。


「身の程を教えてやる」


 そう言って、アルベルトは自分の席に戻って行った。

 ざわつく教室。ミーナは俺を見て心配そうな顔をしたが、何も言わずにアルベルトの席に先ほど取り出した束を届けに行く。

 俺はその様子を見ながら胸の奥がムカムカするのを感じる。

 人を斬った時とも、斬られた時とも違う。

 

 ……こんな気持ちははじめてだった。


 なかなか治らないこの気持ちのことを考えていたらあっという間に決闘の時間、放課後になる。


 俺は、クラスの連中に囲まれるようにして、校庭に向かった。

 そこには、数人の教師と1-1の生徒達が集まっていた。

 その中からアイリーン先生が近づいてきて、決闘の決まりごとや、今回の件を一組の外へ広めないよう手を回したことなどを手短かに告げた。

 けれど俺は、胸の奥のむかつきがまだ治まらず、半分も頭に入ってこなかった。

 手にはいつの間にか渡されたのだろう木剣が握られていた。


 アイリーン先生が離れ、その代わりにミーナが近づき、

 

「ねえ、こんな決闘やめようよ。今からでも謝ったほうが……」

 と、節目がちに言う。

 俺は、胸がさらにムカつくのを感じながら、


「……受けた決闘はやめねぇよ。」


 とぶっきらぼうな言い方をしてしまう。

 ちょっと慌ててミーナを見ると、節目がちな目には涙が溜まり、今にも溢れそうだった。


「でも、私が我慢するだけで解決できるのに……」


「そんなのは、解決じゃねえ!」

 

 俺は自分で思っているよりも、強く言葉が出てしまったことに内心驚く。……だから、なるべく、声を小さく、優しくして

 

「……そんなの、ミーナが辛いだけだろうが……」


 ミーナは、はっとしたように顔を上げた。ポロリと溜めた涙がこぼれる。

 何か言いかけて――けれど、言葉にならず、唇をきゅっと結ぶ。


 そのまま、ゆっくりと一歩、後ろに下がった。


「……無茶、しないでね」


 小さな声だった。


 でも、はっきり聞こえた。


「おう。」


 俺は短く答える。

 今はそれでいいと思った。


  


 やがて、校庭の中央に簡易的な区画が作られる。

 地面に線が引かれ、周囲を生徒たちが囲む。


 向こう側には、すでにアルベルトが立っていた。


 背筋を伸ばし、まっすぐこちらを見ている。


 その手には、訓練用の木剣。


「来たか」


「おう」


 俺は歩いて近づきながら答える。


 アルベルトが一歩、線を跨ぐ。


「私は、アルベルト・ド・ファルマス!」


 声高らかに名乗りを上げる。


「いざ、勝負!」


 ――どこかで聞いたことのあるような、整いすぎた宣言だった。


 俺は少しだけ首を傾げる。


 それから、同じように線を跨いだ。


「タルクだ」


 それだけ言って、アルベルトを見据えた。

 ――綺麗な構えだ。



 無駄がない。

 隙もない。

 教本に載っていそうな、きっちりとした形。


 なるほど、と思う。


 ちゃんと習っている。


「私の父は、王国騎士団で剣を振るい、十年戦争を生き抜いた方だ」


 アルベルトが言う。


「その名に恥じぬ剣を、見せてやる」


「ふーん」


 俺は適当に頷く。


 正直、あんまり興味はない。


 でも――

 

 なんとなく、引っかかる。

 

「……始め!」


 教師の合図が響いた。



 アルベルトが踏み込む。


 速い。


 迷いもない。


 上段から振り下ろし。


 俺は半歩、横にずれる。


 風を切る音だけが通り過ぎる。


「……外したか」


 アルベルトはすぐに体勢を戻し、間合いを取り直す。


 一歩目が思い切りよく、いい踏み込みだ。


 今度は横薙ぎ。

 俺は剣で受けず、身体を引いて躱す。


「……当たらないな」


 ぽつりと漏らす。


「……!」


 アルベルトの眉がぴくりと動く。


 だが、攻めは止まらない。


 踏み込み。

 連撃。

 無駄のない繋ぎ。


 ――綺麗だ。


 ほんとに、綺麗だ。


 でも。


 俺は一歩、下がる。


 また一歩、ずらす。


 全部、当たらない。


 その中で、ふと気づく。


 ――あれ?

 一歩目の踏み込みが、かなりいい。

 というより、そこだけが別物だ。


 ほんの一瞬だけ。


 型の中に、混ざる。


 “殺しに来る間合い”。


 

「……ああ」


 思わず声が漏れた。


 アルベルトの剣を見ながら、俺は呟く。


「似てるな」


「何?」


 アルベルトが眉をひそめる。


「いや」


 俺は首を傾げる。


「お前、普段は年寄りに教わってるだろ」


「……!」


 アルベルトの動きが一瞬止まる。


「型が綺麗すぎる」


 俺は軽く答える。


「でも、踏み込みだけ違う」


「そいつは、年寄りの剣じゃねぇ」


 アルベルトの目が揺れる。


「……親父か?」


 そこで、アルベルトの顔色が変わった。


「……なぜ分かる?」


「見たことがあるからだ」


 俺は記憶を頼りに、構えを変える。


「――こうだろ」


 一気に踏み込む。


 さっきまでとは違う速度。


 アルベルトの目が見開かれる。


 受ける。


 だが、遅い。


 木剣が弾かれる。


 体勢が崩れる。


 俺は、そのまま止まる。


 あえて、追撃しない。

 


「……ほら」


 静かに言う。


「そっちの方が強い。綺麗なだけの剣より、ずっとな」


 校庭がざわめいた。


 アルベルトは、呼吸を乱しながら俺を見る。


「……なぜだ……」


「なんで混ぜてるんだ?」


 俺は素直に聞く。


「どっちもやろうとしてるから、どっちも中途半端だぞ」


 アルベルトの手が震える。


「……黙れッ!!」


 叫びと同時に、踏み込んできた。


 今度は――違う。


 深い。


 最初から“殺す間合い”。


「……お」


 少しだけ、楽しくなる。


 ――いい。


 そうだ。そのまま来い。


 俺は迎え撃つように一歩踏み込む。


 ぶつかる。


 木と木が打ち合う音。


 一瞬。


 次の瞬間―― 


 弾く。


 崩れる。


 踏み込む。


 喉元に、切っ先を突きつける。


「終わりだ」


 静かに言った。


 音が消える。


 誰も動かない。


 アルベルトの目だけが、揺れていた。


 俺は剣を下ろす。


「……約束な」


 それだけ言って、背を向けた。


 




 視線の先に、ミーナがいた。

 泣きそうな顔のまま、それでもまっすぐ俺を見ている。

 さっきより、ほんの少しだけ顔色がよくなっていた。


 胸のムカムカがすうっと消える。

 俺は嬉しくなって、そのまま駆け寄る。


「ミーナ! これでもう、我慢しなくていいぞ!」


「え……」


 思わず肩に手を置いた瞬間、ミーナがびくりと震えた。


「タ、タルクくん……近いです」


「近い?何がだ?」


「近いです!」


 ぺし、と手を叩かれる。


 何がいけなかったのか分からず首を傾げる俺の前で、ミーナは顔を真っ赤にして俯いた。


 周りでは、さっきまで静まり返っていた同級生たちが、今度は別の意味でざわついている。

 何をそんなに騒いでいるのか、俺にはよく分からない。


 ――学園ってやつは、どうやら戦場よりずっと難しいらしい。

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