表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦場帰りの少年兵、平和な学園に放り込まれる ~人を斬ることしか知らない俺は“常識”を学ぶことになった~  作者: 時津津


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/31

第十四話 戦場帰りの俺と、壊れるアイツ②


ドン!


 床板を叩き割るような踏み込みとともに、アルベルトが跳ねた。


 頭上から短刀が振り下ろされる。


 一瞬前まで俺の頭があった場所を裂いた刃は、そのまま蛇のように軌道を変え、今度は俺の首へ喰らいつこうと迫る。


「うおっ!」


 危ねえところだった。咄嗟に膝を折り、刃をやり過ごす。


 アルベルトの身体は、もう別物だった。


 薬のせいか、厚みは元の倍近い。制服はあちこち裂け、紫がかった肌が露出している。


「カタキィィィ……」


 唸りながら、大きく薙いだ短刀を正面へ構え直した。

 ボトリと涎が落ちる。


 (でけえし、速ええし、俺は武器なし。

 しかも、他の生徒のせいで自由に動けない……

 ……こりゃ、苦戦するかもな……)


 まずは、邪魔者たちを逃すことが優先と判断した俺は、奴を引きつけることにする。


「おいおい!

 当たりもしねぇクソ剣なんぞ怖くねぇぞ?

 ……もっとちゃんと狙え!」


「ショミンガァ!」


 左の肩を前に突っ込んでくるアルベルトを右にかわし、背中に蹴りを入れ、体勢を崩し壁に激突させる。

 木壁は衝撃に耐えきれず、大穴を穿ち、アルベルトの上半身を飲み込む。


「今だ!

 逃げろ!」


 生徒らに指示を飛ばす。

 マルコスが躊躇したのが見えた。


「タルク!

 ……アルベルトのこと、頼むぞ!」


「おう!」


 駆け出すマルコス。


 ……あとは、武器になるものを――


 バキィ!


 壁穴に突っ込んだ両腕で板材を引き裂き、のそりと振り返る。


「ブチコロス……」


 あちこち血まみれだってのに、まだまだ元気が有り余ってやがる。


「へっ、タフじゃねぇか。

 ……楽しめそうだぜ。」


 近くにあったイスを奴の顔面に目掛けて投げる。

 振り抜かれた左拳に砕かれ、イスが木片となって散る。


「グガァ!」


 その隙に蹴り飛ばした机が奴の膝に当たる。

 

 (痛がっていやがる。)

 

 クソ帝国兵野郎どもは腕を斬り飛ばしても、平然と戦い続けていた。

 

 (――たぶん、アルベルトはまだ戻れる。)

 

 そう直感が告げる。


 (じゃあ、殺しちまわないように、か。

 ……厄介だな。)


 さっきまでイスだった木片を掴む。

 ないよりはマシ、程度だが。


「た、タルク……

 手を、抜くな……!」


 苦悶の表情。


「……抜けねぇって……」


 動けなくする。

 これは、スゲェ難しい。

 殺しちまう。

 これは簡単だ。


 それなら選ぶ方はもちろん、決まってる。

 ……難しい方を選択、する。


 同じ鍋のメシ食った奴は、仲間だ。

 そうだろうよ。……オッチャン。


「ぐぅ……。

 意識が……」


「おい、アルベルト。

 ……今度、お前の腸詰肉よこせ。

 俺の肉も分けてやるからよ。」


「な、なに、言って……

 ぐ、グウウ……!」


「よっしゃ、かかって来い!」


「グゥアァァ!」


 右手に持つ短刀を大きく振り下ろす。

 その短刀に木片を沿わせ、軌道を捻じ曲げる。

 ――床にブッ刺さる短刀

 大きく飛び出た顎を思いっきり木片で殴り飛ばす。


 乾いた音と共に真ん中から折れて飛ぶ木片。

 人間の首に見えないほどのぶっとい首に支えられた顎はびくともしない。


「うおおい、なんだそりゃ!」


 大の大人でも二週間は寝たきりにさせる自信がある一撃だったはず……!


 奴はブッ刺さったままの短刀を諦め、両腕を構える。


「ナグリコロスゥゥ……」


「貴族の坊ちゃんにできるもんならな!」


 ボンッ!


 空気を裂く音とともに右拳が飛ぶ。

 右手で巻き流し、そのまま懐へ潜る。


 右側面へ回り込み――後頭部へ肘を叩き込む。


 硬え。

 ……石でも詰まってんのか?


 それなら――筋だ。


 踵の上。

 肘の内側。

 膝の裏

 脇。


 鍛えにくい場所を、執拗に叩き、蹴りを入れていく。


「グウウウ……」


 十分以上叩き続けて、やっと膝をつく。


 俺は、床に刺さったままの短刀を無理やり抜く。

 荒い息を整える。


「……やっと、仕上げだぜ。」


 左腕の新しい傷。

 そこに塗られたテラつく薬。

 こいつが元凶なのは見りゃぁ、解る。


 だったらよ――

 そんなもん、切り取っちまえばいいだろが。


「よし、

 ……大人しく、してやがれよ」


 俺は、奴の左腕に近づき、皮膚に刃を滑り込ませる。

 その時、もろに奴の右拳を受ける。

 


 スゲェ、ゆっくり時間が動いている気がする。

 俺は奴の右拳を左側頭部に受けた。

 (ヤベェ、――ぶっ飛ぶ)


 このままでは、俺は何メートルもぶっ飛ばされることになるだろう。――そうしたら、奴の左腕を抉り取ることは出来なくなっちまう。

 吹き飛ぶ前に、抉らねえと。

 右から左に流れる視界の中、左腕を、なるべく、腱を切らねえように――

 抉り取った。


 その瞬間、加速する世界。

 俺は、教室の窓を突き破り、硬え壁に激突した。

 すげえ痛え。立ちあがろうとするが、うまく立ち上がれねえ。

 それもそのはず、俺が壁だと思ったのは、実は地面で、だから、足元に地面はなかったのだ。


「ああ、……痛え」


 俺は、地面に転がったまま、1-1の教室――

 三階の壊れた窓を見上げる。


「まだ、休んじゃいられねえ、ってか」


 身をよじり、起き上がる。

 

「……アルベルト……」


 戻してやらねぇと。


 壁をよじ登る。

 砦の壁と違い、突起が多く登りやすい。


 壊れた窓から中を見ると、アルベルトが伸びていた。

 肌は紫がかったままだが、だいぶ萎んでる。


「へへ、うまくいった、かな」


 そう思った瞬間――

 俺は、足を滑らせて落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ