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戦場帰りの少年兵、平和な学園に放り込まれる ~人を斬ることしか知らない俺は“常識”を学ぶことになった~  作者: 時津津


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第十三話 戦場帰りの俺と、壊れるアイツ①


 学園の食堂は昼時を迎え、多くの生徒が利用する。

 そこかしこで和気藹々と話す者。

 目の前に迫った考査に憂鬱そうな者。

 食事を楽しむ者。


 なんでもない平和な時間。

 だが、1-1の生徒達のほとんどが、その表情にほんの少し、不安を宿していた。


 不安、とはちがう表情が見えるのは、

 ――まずは、離れた席で食事を摂るミーナちゃん。

 彼女は、ここ数日、クラスの女子に混ざって行動することが多い。

 今もリリアナと隣り合って座り、何事かを話している。

 彼女らの雰囲気は険悪なものではないけど、ちょいちょいタルクを見ては赤くなり、目を逸らしている。

 

 ……この前、からかい過ぎちまったかな。

 


 さて、ミーナちゃんの想い人であるタルクはというと、

 その空気も、ミーナちゃんの視線も、まるで気にした様子なく――

 いつも通りにしている。


 幸せそうに、皿いっぱいの骨付き肉をバリバリとかじるタルク。

 その様子を見て、俺はふうと息を吐く。

 その拍子にフォークの手元が狂い――腸詰肉がコロンと転がる。


「お、それ食わねぇの?」


 一瞬の間もなく、

 マルコスの腸詰肉は、タルクの口の中へ消えた。

 パリッとしたいい音が、タルクの口から聞こえる。


「……なあ、

 今日で

 ――丸一週間、だな」


「おお」


「おおって、お前なあ……」

 

「あいつ、頭固そうだからなぁ。

 考えすぎて熱でも出したんじゃねぇの?」


「まあ、

 ……そうかもな」


「親父に消された」


「え」


「って線もあるな。」


 そう言うタルクの顔はいつもと変わらない。

 ……冗談、のつもりかよ……

 笑えねえ。


 相変わらずタルクの口からは骨の砕ける音が響く。

 俺は、はは、とだけ言ってみた。


「なに、笑ってんだ。

 ……笑えねぇことだぞ」


 ああ、こいつは――マジなんだ。


「……でもよ、

 今はメシ食うのが先決だ。

 肝心な時、動けねぇのが一番ダメだ。」


「……まあ、

 ……だな。」


 次々と肉と骨を咀嚼するタルク。


 一つくれ、と言ったら、「ん」と、つまんでくれた。

 肉をかじる。

 骨は食わねえけど。

 

 ――こいつなりに考えてるんだろうな。

 ……しかも、俺より真剣に。

 そんなに、仲がいいわけでもないだろうに。


 ◇


 噂をすればなんとやらとはよく言ったもので、

 教室に帰ると、いつもの席にアルベルトが座っていた。

 まっすぐ前を向いて、背筋を伸ばして。


 先に教室に入ったマルコスは、アルベルトに気づいて、足を止めるもんだから、俺は軽くつんのめってしまう。

 ……足を止めるのも無理はないかもしれない。

 アルベルトの頬は痩け、目だけは異様に見開き、微動だにしない。


 俺はそんなアルベルトの目を、

 どこかで見たことがある、しかも、何度も。

 ……そんな気がした。


 教室の入り口付近で足を止める俺たちを、アルベルトはその瞳だけを動かして捉え、俺と目が合う。

 瞬きもせずに。

 ――数秒。

 アルベルトの口が動く。

 何事かを呟いたように見えるが、その声は俺たちに届かなかった。


「よ、よう」


 マルコスはその異常さに耐えきれず、アルベルトに声をかけ、歩み寄ろうとするが、俺は反射的に襟首を掴んで制止する。


「今は……ダメだ」


「はぁ?

 ……だって、おま……」


 動揺するマルコスを、目だけで黙らせる。


「落ち着け、

 ……な」


「あ、……ああ」


 マルコスは口を閉じる。

 

 冷や汗まみれのマルコスと別れ、

 俺はゆっくりと自分の席へ向かい、

 座った後も、視線だけはアルベルトから外さなかった。

 

 なんだか落ち着かない。

 この学園に来てから感じることがなかった、緊張感。

 戦場で敵に囲まれた時みてえな感覚を感じる。


 何かが起きればすぐに反応できるようにと、全身の筋肉が目を覚ます。


 

 

 ――だけど、アルベルトはあの姿勢のままだった。

 あれから二時間程が経ち、本日最後の鐘が鳴る。


「気をつけ。礼」


 当番の号令。

 帰り支度を始める生徒達。

 アルベルトだけがまだ動かない。


「ね、ねえ、

 ……タルク君」


 俺の席の前にミーナが立つ。

 赤い顔をして、もじもじと動きながら。


(わり)い、ミーナ。

 今、それどころじゃねえんだ」


 ミーナは、小さく声を漏らし、目に涙を溜めて教室を出ていく。

 その後ろをリリアナが付いて行った。


 ――


 アルベルトは突然、傍のカバンから何かを取り出すと、

 自分の腕をナイフで傷つけ、その傷口に何やら塗り出す。


「フフフフ……」


 見開かれた目が血走る。

 

「何してんだ!やめろ!」


 声を張り上げると、アルベルトは首を不自然な速さで回し、俺を見る。


「ショミンンンン……」


 相変わらず瞬きもしない目で。


「ワタシを誰とオモッッテイル……」


 鞄から出した短刀を構えて。


「ブ、ブチ……コロス」


「アルベルト!

 ボドロフのクソ野郎にやられたのか!?」


「ボド、ロフ……

 ち、父上……

 イダイナ、父上ー!」


 アルベルトの目は焦点すら怪しく、不規則に動く。

 口からは涎を撒き散らし、両腕を広げ、膝から崩れ落ち、天井を見上げる。

 まるで狂信者のような動き。


 (帝国の連中と、そっくりだ)


 去年の春頃から、現れ始めた、

 今のアルベルトみたいな状態の帝国兵――

 致命傷を与えてもすぐには死なない奴等のことを思い出す。

 (さっきのが、()()なる薬か……?)

 

 アルベルトの左前腕には、新しい傷に塗り込まれた薬がテラついている。腕そのものを紫色に変色させて、血管が脈打っているのがわかる。

 

「ウフフ……フ、

 ……た、タルク……」


 邪悪な笑みから一転、苦痛の表情が現れる。


「こ、殺してくれ……」


「……奴は、て、

 帝国……とも……」


 荒い息で、しぼり出すように。


「あんの、クソ野郎……」


「……た、たの……む」


 涙を浮かべるアルベルト。

 その直後、邪悪な笑みが戻る。


「……ウフフ、フ

 ブチコロス!」


 そういうが早いか、

 床板を踏み抜く勢いでアルベルトが跳ねた――

 

 

 

 

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