1、プロローグ
妖気と冷気がおびただしく漂う空間を切り裂くように、赤と青の閃光が2本の槍となって飛んでいく。
2本の切っ先が向かう先は、部屋の奥、数段高くなっている壇上に置かれた玉座へと腰掛ける女。
女は立ち上がることなく、ただ前へと向けた手のひらで光の穂先を受け止め、厄介そうに左右へ軽く払いのけた。
赤と青の光はそれぞれの色をした火の粉となって消え去る寸前、女の白い顔を照らしだし、束の間の彩りを添える。
女とひと言で表すのは語弊があるかもしれない。
シルエットだけなら女といっても問題ないが、いま玉座の主として君臨する者はヒトではなかった。
それどころか生物ですらなかった。
白と黒で構成されたモノクロームの寒々とした室内で、玉座へと腰を下ろしているのはヒトを模してつくられた機械人形だった。
マネキンやマリオネットとは違う、明らかにヒトよりも機械に近い人造人間。
球体やスライドパーツを活かした関節、白色鉱物から掘り出したような硬質的な肌。
ハーフメット状の頭部は古代エジプトの壁画に描かれる女性の髪型を思わせ、目に当たる部分はオーバルカットの幻惑石をはめこんだかのようなカメラアイ。
まぶたも鼻もない顔は全体的にのっぺりとしているが、口元だけは微笑むような表情を浮かべていた。
ただアルカイックスマイルを思わせるクチビルにも色はなく、ただただ硬質かつ無機物的なカタチだけの枠組みにしか見えなかった。
機械仕掛けの体がまとっているのは、西洋のドレスと東洋の着物を融合させた黒を基調とする冷たい冬の夜空を彷彿させる衣装。
その肌、雰囲気から雪の女王と讃えるべきか。
その服、雰囲気から夜の女王と例えるべきか。
一触即発の空気をはらんだ空間で、人形の女王は翡翠のごとく冷たい瞳で光の槍を放った者たちを見返す。
鉱石にも似た眼からはいっさいの感情を読み取ることはできないが、射るように相手へと向けた視線は敵対者の情報をつぶさに読み取ろうとしていた。
黒衣の女王と対峙するのは白衣の上着と薄水色の袴を身につけた少年ふたり。
その手には反りのない両刃が紫電をきらめかせる直刀。
それぞれの柄には炎の花を思わせる赤い鍔と氷の花をイメージさせる青い鍔。
白と黒とで彩られた西洋城の広間を思わせるこの場所にあるべきではない異物であり、それゆえに強烈な印象を残す赤と青。
少年たちは直刀をそれぞれが得意とする型で構えたまま、静かに呼吸を続け、さらなる攻撃を繰り出す機会を探っていた。
彼らが次の動きを見せるよりも先に、
「なるほど……お前たちが当代の天久愛流か」
機械人形は興味深そうに言葉を紡ぐ。
そのクチビルから発せられたのは抑揚のない機械音声ではなく、物憂げながらも生命の脈動を感じさせる人間じみた声だった。
「星右衛門より若く未熟ゆえに、ひとりずつそれぞれ型を分けたか……だが、それでは炎天と氷天を託されている理由に見当がつかぬ……興がそそられた。たわむれに相手をしてやる」
「我はフクマの女王レジーナ。光栄に思うがいい、女王みずからお前たちの相手をしてくれようぞ」
女王を名乗るにふさわしい尊大な物言いの中に、ときめきに胸を躍らせる少女のような響きを含ませて、レジーナは玉座から立ち上がる。
室内の妖気が濃く強まっていく中で、少年たちの手にあるふた振りの刀が昂ぶるかのごとく、手元を彩る花模様と同じ色の光をそれぞれの刀身に宿した。
対するレジーナの周囲で妖気と冷気が強さを増し、部屋をこれまで以上に凍てつかせるだけでなく、自らを女王と高言した人形の体を宙へと浮き上がらせる。
「……簡単に終わってくれるなよ」
少年たちを見下ろす白面人形の眼が、獲物に狙いを定めた肉食獣のような輝きと喜悦を見せた。




