13、さわやかミリタント
「え? え? 服がはじけ飛ぶって、女の子の着ている服が?」
結果として提示された予想外の出来事に困惑を隠せないまま、事態を理解したのか、または想像したのか、ちまきの顔がみるみる赤く染まっていく。
「やっぱりそういう反応になるよね~」
泉の言葉に、他の女子も頬を赤くしながら同意としてうなずく。
龍星・陽樹と女子たちの顔へ交互に目をやって、どぎまぎとなっているちまきの混乱っぷりを見ながら、
「フクマは基本的に女子の服に取り憑くので、服をはじき飛ばすのはある意味合理的ではあるがな。まあ真っ裸というわけではなく下着は残るし、服はすぐに元に戻すことができるので、さほど問題はあるまいて」
モエギが言う。
「服が脱げちゃう時点で大問題だと思いますけど……」
遠慮がちに返したちまきに、他の女子もうんうんと同意のうなずきを見せる。
「……というわけで、こんな真面目な子をふざけたフクマ退治につきあわせていいのかなと思っているのだが。いやまあ、この子だけでなく他の女の子たちもどうかと……」
どこか消極的な態度で言った龍星に続く形で、
「あとよろしくと言っておいてなんだけど、普通のフクマ憑きが相手ならともかく、フクマの影響を受けた妖怪相手だと危険がないとは断言できないし、お師匠さまのススメでもどこまで巻き込んでいいのかは悩みどころだね」
陽樹が付け足すように言う。
「どうだろうか。この子の腕前なら申し分ないと思うがね」
これまでの話を聞いていたカガチが口添えをしてきた。
彼女はテーブル上の地図を一瞥すると、
「これは妖気の痕跡を記した妖怪地図といったところだろう? それなら……」
と、地図の一点を指でトントンと叩く。
「この河原で妖異と互角以上にやり合っているのを私がこの目で見ているから、御眼鏡にもかなうというか、君らの手を煩わせることはないと思うがね」
「腕を疑っているわけではなくて……」
と言った陽樹に続いて、
「むしろ頼りになるとは思ってはいるんだが……」
龍星も言葉を選ぶようにして言う。
ちまきやカガチの顔色をうかがいながらの取り繕うような発言ではなく、これはふたりの本音だった。
天久愛流に出会う前から妖異・怪異を退けてきたこと、ふたりの師匠が助っ人として寄越したこと、それらについてモエギが特に異論を挙げてこないことから、ちまきの実力にお墨付きがあるのは間違いない。
それを踏まえたうえで人手が増えるというのはありがたい話ではあるのだが、だからこそ己の不始末から始まった騒動に初対面の少女を巻き込むことに抵抗があるのも確かだった。
それだけでなく、むしろ本題として龍星と陽樹が懸念しているのは、フクマ憑きが成長しているだけでなく、触発されるように他の妖異・怪異も活動し始めている現在の状況だった。
フクマや妖異・怪異との戦闘で自分たちが傷つくのは仕方ないと受け止めることができても、目の前の少女が怪我をしたり危険な目に遭うのには耐えられそうにない。
そして、それはちまきだけでなく、瑠璃や琥珀たち『あなたのおそば』の女子たちにも言えることで、後方でのサポートならともかくとして彼女たちを最前線に出すわけにはいかないという考えにふたりは至っていた。
ただ、これまでの話から推測できるちまきの性格からすると、無下にした断り方では予期せぬ行動に突っ走るか、必要以上に気落ちするかの二択しか考えられず、そのことが龍星と陽樹を悩ませていた。
そんなふたりの悩みなど知らぬように、
「そこのふたりはなにやら真剣な顔で考え込んでおるようじゃが、どうせ『この子が仲間になったら、女の子の下着を間近で見られるフクマ退治での役得チャンスが減っちゃう、どうしよう?』くらいのことしか考えておらん。チマキとやら、お主はこの神をも恐れぬ不届きな兄弟子どもを妹弟子としてきっちり教育してやるとよい」
モエギが龍星と陽樹にからかうような視線を送りながら、ちまきに優しく諭すように言う。
「は、はい! 分かりましたっ!」
ちまきは姿勢を正すと、真剣な表情で返事をする。
女子たちが(うわぁ、最低……)という感じの冷ややかな視線を向けてくる中、
「ちょっと待て! その子に変なコト吹き込むなっ!」
「ヒメさまの言葉、鵜呑みしちゃダメだからね!」
龍星と陽樹は顔を赤くして抗議の声をあげる。
彼らの反応を見て、モエギは明るく笑いながら、
「分かっておる分かっておる。どうせお主らのことじゃからフクマ以外の妖怪も現れるようになった今、女子たちを危険なことに巻き込みたくないと思っておるのじゃろう。委員長が危うい目に遭った先日の件もあるしな」
ふたりの胸中をずばりと言い当てたあと、
「とまあ、こやつら思いのほかに真面目なのでからかいがいがあっての。多少情けないところもあったりするが、天久愛流の名に恥じぬ腕前と心意気の持ち主じゃからして安心して頼りにするがよい。そもそもの話、さきほどのような邪心があったりしたのなら神器を貸し与えたりせんからのぅ」
ちまきをはじめとする女子たちに説いて聞かせるように言った。
そして龍星と陽樹に、
「よいか、リュウセイにハルキ。この女子の仲間入りはわしとお主らの師匠たちとの取り決めゆえ、文句は受け付けんからそのつもりで」
ぴしゃりと言う。
押し切られる形になってしまったが、こうなった以上ふたりは腹をくくると決めた。
「分かった……だけど俺らが危険だと判断したら問答無用で下がらせるからな」
「だね。まあ危なくなったら盾として逃げる時間くらいは稼ぐよ」
ふてくされるでもなく、諦めの境地というわけでもなく、課せられた責務を必ず果たすといった表情になった龍星と陽樹を見て、モエギは自身のことのように誇らしげな微笑を浮かべ、
「よし、少し遠回りをしたが、新たな仲間がくわわったということでささやかながら歓迎会を開くとするか」
モエギの宣言に改めて一同はちまきへ簡単な自己紹介をして、より打ち解けた雰囲気になる。
泉や市子にガレットのおすすめを聞かされたり、和子や琥珀から漫画の趣味や剣術の稽古について尋ねられたり、空子や瑠璃にはこちらでの暮らしについて世話を焼かれたりとしているうちに、緊張気味だったちまきの表情からもだいぶ堅苦しさが抜け、すっかりと少女たちの輪に溶け込んでいた。
そんな少女たちを横目に見ながら、龍星と陽樹はモエギにちまきをくわえた鍛錬やこれからの活動について相談を始める。
その様子を見て、ちまきを送り届けにきたカガチもひと安心といった感じで、
「受け入れてもらえたようでなにより。ふたりの兄弟子も悪い人間ではなさそうだし。よかったね、お嬢ちゃん」
と彼女に声をかけた。
「はい、本当によかったです。腕ずくでの説得にならずにすんで」
ちまきはさわやかな笑顔で不穏当な発言をする。
場の空気が硬直し、一同が目をぱちくりとさせる中、自身のうっかりに気づいてちまきはあわてて手で口を押さえる。
「おっと意外と武闘派だぞ、この子」
「腕ずく……まあアリといえばアリになるんかな」
「雄闘女チックな女子が増えたカタチですな」
「腕ずくでは説得にならないのでは……」
「どういうことですの?」
皆の注目を受ける中、
「おふたりのお師匠さまが『弟子ふたりが首を縦に振ってイエスと言わない場合は腕ずくで納得させなさい』と……」
ちまきがちぢこまりながら述べる。
「お師匠さまらしいね」
「とはいえ、女の子に吹き込むようなことじゃないだろ」
「それはそうだね」
「やはり物事を解決するのは腕力、暴力、バイオレンスなのか……」
「腕ずくの説得で納得……韻は踏んでますな」
「そんなとこのリズムがよくても……」
「腕ずくか、それも面白いな……いや、そっちのほうが絶対に面白い。よし、ここはひとつリュウセイたちが首を縦に振らなかったことにするか」
ちまきの発言を受けたモエギがうきうきとした表情で告げる。
「なんでせっかくまとまったものをひっくり返すんだよ」
龍星が愚痴るが、
「たしかに変にこじらせる必要はないにせよ、互いの力量を知っておくためにも手合わせはしたほうがよいじゃろう。そうと決まれば善は急げ。ひとつ弟子対決といこうか」
そう言ったモエギに同意するようにきらきらとした笑顔を浮かべるちまきを見て、龍星と陽樹は顔を見合わせてため息をついた。




