10、懸念
泉は瑠璃や琥珀の妹弟子たちによるお店訪問は伏せたままで、話題の中心となっている『コスプレ吸血鬼を目撃した』という女子、甘蔓ユウについて語り、彼女にフクマや天久愛流について話してしまったことを述べた。
「――なるほど。お化けをモチーフにした服のデザインについてのアイディアを求められてるうちに、フクマや天久愛流について話してしまった、というわけじゃな」
淡々と状況を確認するモエギに続いて、
「えっと、つまりフクマ憑きもしくは新手の妖怪というか吸血鬼かもしれない相手にフクマとか天久愛流のことを教えちゃったってこと?」
市子の言葉に、泉と和子はただうなずいてみせたあと、
「それとその……龍星さんのことも」
言いづらそうに続ける。
「それは少々マズいかもしれませんわね」
瑠璃の言葉に、
「やっぱりマズいですよね?」
泉が消え入りそうな声で返す。
「まあ正直に話してもらったおかげで、こっちにも心構えができるにゃ。まずはマズいパターンをいくつか想定して、そのユウって子が――」
スズノがおおまかな分類と解説を始める。
A:ユウがフクマ憑きだった場合
天敵ともいえる天久愛流が現代まで残っていて、しかも使い手がこの街にいるのを知ったために相手の行動がより慎重になる可能性がある
B:ユウがフクマ憑きでなく、ホンモノの吸血鬼だった場合
一般的に知られる吸血鬼と仮定すると、フクマ憑きの少女を吸血することで吸血鬼とフクマの能力を持った新種が誕生する可能性にくわえ、自身がフクマを取り込む、もしくは取り込まれることでより厄介な存在と化す可能性もある
「とりあえずは、このふたつが代表的な厄介のパターンにゃ。そして、どちらにせよ、障害となるダーリンの存在を知ったユウって子がなんらかの敵対的アクションを取ってくる可能性も考えられるにゃ」
「……ごめんなさい」
泉と和子は龍星に向けてわびると、しょんぼりとした様子を見せる。
「どっちにしろ、俺やハルのことはフクマにバレてるしな」
「川原でのバトルを見られちゃってるからね」
龍星と陽樹は、すっかりしょげかえっているふたりを元気づけようとする。
「まあやってしまったことは仕方がない。むしろ魔に通じる相手が堂々と乗り込んでくるとは、わしですら思ってもみなかったからの。問題はここからどう対処すべきかじゃな」
モエギも気落ちしている泉や和子を励ますように言う。
「ボクだけでなく、姫ちゃまが来店したことである種の聖域になったともいえるこの店にその手のたぐいが来るとは普通思わないにゃ」
「しかも、その女子が店にまで来ているというのに、わしもスズノもそやつの気配を感じとれんということは少々手強い相手かもしれんのう」
「妖力ってのは誤魔化すことができるのか?」
「ある程度はな。じゃが、スズノのテリトリーともいえるこの店に来ていながら妖気の痕跡すら残さず去るのはどうやったか見当もつかん」
「街のフクマを見つけることができない理由もそこにあるのかも」
「うむ。まあその女子を捕らえれば分かるじゃろうて」
「ということは、フクマ探しにくわえるカタチで、その女の子も探せばいいのか」
「リュウセイのことを知ったからには向こうから接近してくる可能性もあるがな」
「だとしたら……闇討ちみたいなのにも気を付けたほうがいいのかな」
「相手が何者だろうと、リュウセイが遅れを取るとは夢にも思わぬが……ただ、そのユウという女子がフクマ憑きだった場合、苦戦はともかく苦労はすると思うぞ。これはリュウセイだけでなくハルキ、ルリにもいえることじゃが……」
と、モエギは陽樹と瑠璃にもちらりと目をやる。
「なにか問題がありまして?」
「フクマ憑きを返り討ちにしたとして、女子からフクマを祓うとどうなるかはお主らも知っておろう」
フクマを祓った結果――取り憑いていたフクマといっしょに衣服も消し飛び、あとには下着姿の女の子が残されるというのを知っている女子一同は「あー」とだけ口にして、やや顔を赤くしながらも納得の表情を浮かべる。
「いやらしいわね」
「ハレンチですわ」
ことさらに顔を赤らめた空子と瑠璃が責めるような視線を龍星へと向ける。
「この場合、俺が悪いのか?」
龍星の問いに、
「結果だけで考えると、僕らの技量不足が原因だからね」
陽樹が答える。
「まあ、それについてはふたつほど対処を思いつくが、これには難点があってのぅ――」
モエギは対処法について言及する。
ひとつめは、女子の服を元通りにできるモエギか空子が龍星、陽樹と行動をともにする
「これの難点は、わしがおったらまずフクマは近づいて来んということじゃ。では委員長に任せるかとなると、委員長は戦闘に向いてはいないゆえ、リュウセイとハルキの負担が増えることになるので、やはり現実的ではない」
「そうなると、次に打つべき手は、結界を張ることで外界と隔たりのある空間をつくりだし、そこでフクマを祓う。このやり方ならば、女子がいくら下着姿になろうとも余人の目に触れることはなくなる」
「それなら特に問題はなさそうですけど」
「これの難点は、結界を生み出せるのが現状わしかシズカ、スズノとなるわけじゃが、わしは前述の理由で同行には向かん。シズカは妖力の影響を受けやすいので街中での行動には時間の制約がある。そうなるとフクマに気取られることもなく自由に動けるのはスズノということになるのだが……こやつと共に行動するとなると、リュウセイとハルキの身が持たん」
龍星と陽樹は「たしかに」といった感じで相づちをうつ。
「ボクはまったく問題ないのだけれど」
あっけらかんとしているスズノに続いて、
和子も、
「わたしもどちらかというと問題はありませんなあ。できれば取材として24時間密着でも……あ、この場合の密着というのはわたしではなく、リューセイさまと――」
「その先は言わなくてもいいんじゃないかな」
陽樹が先手をとって釘を刺す。
「相手がフクマ憑きでなければ問題はないじゃろうが、フクマ憑きであった場合がのぅ……。まったく困ってしまうのぅ。どこかに自分の身は自分で守れて、結界を張れて女子の服も元通りにできるような都合のいい人材はおらんものか」
「都合のいい人材とかぶっちゃけすぎだろ。まあフクマ退治のためならこれといっしょに行動するのもガマンしてみせるが」
と、龍星はスズノを指さしながら言う。
「これ呼ばわりはひどいにゃ」
「そう呼ばれる理由を胸に手を当ててよく考えてみろ」
スズノは「んー」と考え込む様子を見せながら、龍星のほうへと手を伸ばそうとする。
「手を当てるのは俺の胸じゃない。そういうところだぞ」
龍星のツッコミに、
スズノは「にゃはは」と舌を出して誤魔化すように軽く笑う。
が、次の瞬間、猫耳帽子に隠れた耳を動かして、なにかを察知したように店の出入り口へと目を向けた。
それに釣られるようにして全員が視線を集中させる中、扉がすっと横に開かれ、ドアベルの音色が店内に大きく響いた。




