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EP-008 SYNC ERROR: 白い部屋の影

「おい! お前ら、何してる!」


 騒ぎを聞きつけた男性教員がやって来た。

 確か、体育の柳先生だったかな。


 どうしよう。

 祐は倒れたまま動かない。

 わたしに絡んできた男の子は、呻きながらまだ倒れている。

 男の子の方はともかく、祐をこのままにして逃げるわけには行かない。


「な、なんでもないです。なんでもないですから」

「なんでもないわけ無いだろう!」


 柳先生は、祐を助け起こした。


「君、大丈夫か?」


 祐は、反応は有るように見えるけれど、目が虚ろだった。焦点が定まっておらず、朦朧としている。


「すぐ保健室へ」


 柳先生に即されて、祐の身体を支えながら保健室へと向かう。


「あれ? もう一人は何処行った?」


 柳先生の問い掛けに、さっき投げ飛ばした男が倒れていた場所を振り返ると、そこには誰も居なかった。

 周囲を見回してみても、彼の姿はない。


「君、あいつは誰なんだ?」


 柳先生は、わたしに訪ねてきた。


「え、えっと、知らない人です」


 そう、わたしに聞かれても困る。むしろ、私の方が知りたいぐらいだわ。


「わかった。事情は保健室で聞く」


 そう言って、柳先生は、一緒に保健室まで付いて来た。

 

 保健室に着いて、わたしは祐を保健医の春日部先生に預けた。

 祐の状態に驚いた春日部先生だったが、すぐにベッドを用意して寝かせるのを手伝おうように言われた。


「後は、私に任せて。心配いらないから」


 わたしの動揺を察してか、春日部先生は優しく微笑んだ。

 笑顔が綺麗な大人の女性。その魅力は、女の身であるわたしにも伝わるものがある。

 気休めかもしれない言葉だったけれど、わたしにそれを信じさせるに充分だった。


「君、じゃあ、いいか? こっち来て座れ」


 柳先生は、保健室の中に乱雑に置かれているパイプ椅子を指刺した。

 柳先生の事情聴取が始まるのだ。


 どうしよう。なんて言えばいいんだろう。上手く誤魔化さないと……。


「で? 何があった?」


 柳先生に詰め寄られる。


 なんか、わたしが悪いみたいじゃないの。なんでこんなプレッシャー掛けられなきゃいけないの?

 刑事モノのドラマで、刑事が犯人に詰問するみたいな感じになってんじゃん。


「何がって、わたしも聞きたいっていうか――。知らない男の子から絡まれてたところを、祐が助けに来てくれたんだけど、そいつに祐が殴られて。そんな感じです」


 それしか実際のところ説明できない。誤魔化そうと思ったら、誤魔化すところ無かった。


「その男の子は誰かわからないんだな?」


 それ、さっき言ったじゃん。なんで同じ事聞くの? 念押し? 聞いてなかったの?


「はい。昨日、初めて会って、そのときから絡んで来てて」

「そっか、わかった」


 何が解ったんだろう?

 柳先生は、わたしとの話を打ち切って、立ち上がり、春日部先生に祐の様子を聞いていた。


 わたしも立ち上がって、ベッドに寝かされている祐の様子を見た。

 祐は、静かに寝ている。

 苦痛な表情をしていない事だけが救いだった。


 保健医の先生は、祐の顔を覗き込み、そっと声をかけていた。


篠垣(しのがき)さん、聞こえる? 分かる? ここ、保健室よ」


 篠垣って誰だと一瞬思ったけど、祐の名字だった。普段、祐としか呼んで無いから忘れてた。

 春日部先生の呼びかけに、反応は鈍かったけれど、祐はかすかに目を開け、うなずいた。言葉は返せないものの、意識は戻りつつあるようだった。


「大丈夫よ。軽い脳震盪みたいね。いまは安静にしてれば回復するはず。念のため、しばらく様子を見ましょう。ご家族には、こちらから連絡しておきますね」


 そう言って、保健医の先生は祐の頭に濡れタオルを当てた。

 祐は、そのままスウっと眠りに入ったようだ。


 わたしはどうしたらいいんだろう?

 わたしが祐を巻き込んだんだよね?


 春日部先生は、祐の家に電話しているようだった。


「ええ、お母様。頭を打って意識を一時的に――はい、いまは落ち着いています。車で、お迎えに来ていただけるのならそれがいいと思います」


 漏れ聞こえる内容から、車で迎えに来るみたいだ。

 よかった。それなら安心だ。


「君も、まだしばらくここに居るように。勝手に帰らないようにな。君の家にも連絡する。えっと君は――」

「ニ年D組の、在田愛衣です」


 柳先生は、わたしのクラスと名前をメモに取ると、保健室出ていった。


 此処に居るように言われて、所在なさげにしていると、保健医の先生が気を使って話しかけてくれた。


「大丈夫だからね。篠垣さんはすぐに良くなるから。在田さんは、彼女と仲いいの?」

「はい」


 祐は親友だ。いつもわたしを守ってくれて。

 シンクロアのお陰で強くなれたわたしが、今度は祐を守るって決めたのに。

 守れなかった。

 それだけじゃない。

 祐は、わたしを守ろうとして、こんな目にあったんだ。


「大丈夫?」


 春日部先生がわたしの目にタオルを当ててくる。

 そうだ。わたしは、いま泣いているんだ。

 いつの間にか、こらえていたものが溢れていた。

 タオルで顔を隠し、嗚咽しそうになる自分を抑える。

 

 春日部先生が、わたしの背中を優しく撫でてくれた。

 

 わたしは弱いなあ。解っていたけど、シンクロアと一緒ならと思ったけど、やっぱり弱いわ。

 それを痛いほど自覚する。

 それをアイツが突き付けて来たんだ。

 アイツは何者なんだろう。

 シンクロアは影崎君の関係者かもしれないって言ってた。

 じゃあ、影崎君は何者だったのだろうか?


 嗚咽が収まった頃、柳先生が戻って来て、母が迎えに来ると教えてくれた。


「保健室に居ると伝えておいたので、此処にいらっしゃる予定だ。来られたら一緒に帰りなさい」

「ありがとうございます」


 やっと解放される。

 祐の事は気になるけれど、保健室は落ち着かない。何故だか凄く不安になる。

 いや、ちがう。わたし、きっと、そうだ。

 シンクロアと話がしたいんだ。

 でも、此処では出来ない。だから、話が出来るところに早く行きたいんだ。


 少しナイーブになってるのかな。

 こーいうときは、落ち着かないとね。

 

 ゆっくりと大きく深呼吸して、気持ちを鎮める。


 すると保健室の窓の外、グラウンドの方角から、微かにジャリっと足音が聞こえた気がした。

 視線を向けると、誰かの姿が見えた。しかし、確認出来ない速さで、その姿はすぐに消えてしまった。


 あれは――見間違いじゃなかった、よね?

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