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EP-021 SYNC ERROR: 何のために、わたしは

 イジェクト目掛けて廊下を走る真堂の姿に、わたしの心が凍りつく。


「な、なにやってんのよ! あんた!」


 勝てるはずがない。

 だって、真堂さんだよ? 相手はイジェクトだよ?

 真堂さん、殺されちゃうよ!

 そんな、わたしを逃がすために死ぬ気なの?


 でも本当のわたしは、充分戦えるのに――そんなわたしを護るために命を落とすなんて無駄死にじゃないの!


 真堂を追い掛けようと立ち上がる中、イジェクトが手にした大きなナイフで首を落とされる真堂を見た。

 いや、ちがう。これはイジェクトの動きを先読みした結果だ。わたしは先を見ているんだ。

 まだ間に合う!


 力の限り廊下を蹴り、天井へ飛ぶ。そして天井に手を付いて、腕で勢いよく地面に向けて身体を押し出す。考えてやったわけではなく、身体が勝手に動いた。


「あん?」


 イジェクトが、わたしの動きに気付いて攻撃の矛先をこちらに変えてくる。

 タッチの差で、天井から舞い降りたわたしの蹴りが、イジェクトの顔面にヒットした。


「げふっ!」


 イジェクトは蹌踉めいて、後退った。


「てめえぇ、なんて速さだぁ。このやろう」


「わたしがびっくりしたわよ。こんなに速く動けるのね」


 ほんとうに驚いた。真堂を助けようと思ったら、勝手に身体が動いた。 


「愛衣さん、君はいったい……」


 真堂に見られてしまった。これは言い訳できないよね。

 でもでも、命の恩人ってことで、見逃したりしてくれないかしら……


「真堂さん、下がって! 殺されちゃうよ!」


 何か言いたそうに真堂が、わたしに近付こうとしたので、強い声で制した。


 ここでわたしが戦わないと、真堂が死んじゃう。さっきの予見視でそれがわかった。


「これは、わたしも本気で行かないとやばいよね」


『愛衣様、お待ち下さい。それ以上の集中は、危険領域に入ります。自重してください』


「ごめんね、シンクロア。わたし解るんだ。さっきの蹴り程度じゃ全然だめだって。このままじゃ、みんなやられちゃう。だから――」


 ゾーンからさらに集中を上げていく。額にエネルギーが集まってくるのを感じる。意識をそこに合わせると、身体がすごく軽くなる。


『愛衣様、決して無理はなさらないように。動ける時間は――』


「シンクロア、黙って! 気が散る」


 わたしの意識が、シンクロアを飲み込んでいくと同時に、シンクロアからの応答が途中でプツリと途絶える。

 周辺の空気が消え、真空になったかのように張り詰める。甲高い耳鳴りが、キーンと聞こえる。


(想いは強い意志によって成し遂げられる)


 そんな言葉が、心の奥深くから湧き上がってきた。

 

「不意打ちとは、ちょっと汚くないかなぁ。まあ、きみにはそれぐらいしかできないんだろうけどさあ――」


 喋りながら立ち上がると見せかけて、途中でわたしに向かって、イジェクトは飛び掛かって来た。

 イジェクトが右手に持った大型のナイフを、わたしの首目掛けて振り切って来るのが予見視()える。

 

「こいつ、速い!」


 ダメ! 躱しきれない。


 左から来るナイフをギリギリ避けようと、身体を倒すが間に合わない。

 ゾーン超えの状態でも無理なの?!


 やられる!


 そう思った瞬間――わたしの左手がいつの間にか、イジェクトのナイフの刃を掴み取っていた。

 親指と人差し指で奴のナイフを挟んでいる。指で真剣白刃取りをしたような格好だ。


「「「えええっ?!」」」


 わたしとイジェクト、それに真堂も、同時に驚きの声を上げる。

 正直、わたしにも何が起きたのか解らなかった。


『愛衣様、危ないところでした。間に合ってよかったです』


「シンクロア?! 今の、あなたがやったの? あなた大丈夫なの?」


 いつもならシンクロアは、わたしがゾーン領域を超えたときは、わたしの中に統合されて反応できなるなるはずなのに……


「なんで反応できてるの?!」


『はい。大丈夫です。詳しい話は、後で。今は時間がありません。愛衣様のその超ゾーン領域も長くは続けられないでしょうから、速くケリをつけましょう』

 

 シンクロアの言うとおり、わたしが限界を超えた状態で身体を動かせるのはそう長い時間じゃない。


「離せよ、このやろう!」


 ナイフを掴まれたイジェクトが、癇癪を起こして、蹴りを入れてくる。

 それをシンクロアがわたしの身体を使って、イジェクトを掴んだナイフごとくるりと一回転させた。

 イジェクトは自分自身の蹴りの勢いも加わって、空中高く舞い上がり、そのまま床へ落下した。


『そのナイフはいただいておきましょう』


 わたしの左手は、イジェクトのナイフの刃を摘んでいた。


「愛衣さん、その力は、いったい」


 後ろで息を飲んで見守っていた真堂が乾いた声で問い掛けてくる。


 わたしは振り返って、彼に無言で微笑み掛ける。だって、何を言ったらいいかわかんないし。


 ああ――真堂にバレちゃったな。でもしょうがないじゃない。彼を見殺しにしてわたしだけ逃げるなんて、あの状況でできるわけない。彼を助けたことに後悔はない。ただこれからのことを思うと……

 いやいや、先のことは先のことよ。今考えても仕方がないわ。


 イジェクトが立ち上がる気配を感じて、真堂から注意を引き戻す。


『さて、愛衣様、どうしますか?』


「どうって? こいつを倒すんでしょう?」


『倒すということは、彼を殺すという意味でよろしいですか?』


 言われてみればそうだった。わたし、ちゃんと考えてなかった……

 倒すって簡単な言葉で言ったけど、それは戦って相手の戦意を奪うことだ。

 でもそのためには、相手を徹底的に叩き伏せなければならない。

 そして、相手はイジェクトだ。手加減して勝てる相手じゃない。

 わたしが本気で、あいつの戦意を奪うまで殴りつけたら――


 そのときイジェクトは無事で済むだろうか?


『愛衣様、時間がありません。奴が来ます』


 左手で摘んだままのナイフに視線を落とす……


「わたしが、人を殺す?」


 それをわたしが決断する?

 そんなこと……できるはずがなかった。

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