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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第3章 ビルネンベルクへ
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第24話 ポーション販売

 さすがに森の浅い場所は他の採集者に荒らされていて、如何に薬草がよく採れるビルネンベルクでもまとまった採取は出来ない。

 だが、周りに広く探知魔法を掛けてみると、ソロや2人組、3人組程度の未成年の見習い冒険者は、その浅いところを回っていて森の奥にはいかない。

 見習い冒険者の中には7~8人前後の大きなグループが2つあって、彼らは比較的深いところまで行っているようである。


 この大きなグループのことが気になったので、数日掛けて、シルフィードに2つとも調べてもらった。

 いずれも犬を連れていて、魔物が近寄ってくると、この犬が吠えるので、それを合図に引き上げるという方法で安全を図っているようであった。なかなか頭が良い。

 

 町の大人たちに余計なおせっかいをさせないためにはエッカルトの言うように何処かのグループに入るが良いのだろうが、2~3人組のグループはもとより森の奥に行かないので、入っても意味がない。

 大人数のグループは、それぞれに情報収集した結果、密かに「町の下町グループ」、「孤児院グループ」と名付けることにした。

 孤児院グループはその名の通り、町の孤児院の子供たちの集団で、フロリアが入れるはずもなく、町の下町グループはちょっと不良じみたお兄さんが仕切っていて、近寄りたくない相手であった。


 ソロでは、町の大人たちと摩擦を起こさずに森の奥に行けそうにない。

 かと言って、浅いところでちまちま採取していても、たかが知れている。探知魔法を使って薬草を探し、採取方法や町までの保存も薬効を最大限に高めるためにどうすれば良いのか知っているし、そもそもソロなので仲間と報酬を分け合う必要もない。だから、他の駆け出しよりは稼げては居るのだが、それでもこの調子だと早晩、「渡り鳥亭」で暮らすことは出来なくなるだろう。


 他の宿も調べて見たが、とても泊まる気になれない。

 リタは「それだったら、宿で一緒に働こうよ。お父さんもお母さんもフロリアのこと、気に入ってるから、頼めば大丈夫だよ」と誘ってくれるが、薬草採取をやめてしまったら、何のためにビルネンベルクに居るのか分からなくなる。


 町に自分を気にかけてくれる大人が誰も居なければ、どこの宿にも泊まらずに、夜になれば亜空間に引っ込めば良いだけの話なのだが、今の状況ではそれをやると騒ぎになりそうである。


 町を出るといって、下町グループや孤児院グループよりも、ずっと森の奥深くまで単独行で入るのはどうだろう。

 何しろアオモリでは、人跡未踏の場所まで単独で採取行していたのだ。安全面では特に問題はない。だが、そうした深いところは大人のパーティ、「剣のきらめき」や「野獣の牙」が何日も泊りがけで魔物の素材確保などの目的で潜ってくる。簡単に見つかるようなヘマはしないのだが……。


「フロリアはまだパーティでの活動出来なかったのだな」


 トパーズが今更ながら、驚いた、といった口調で言った。


 彼が、交易隊を見つけた時に接触を勧めたのは、ずっと昔、アシュレイが冒険者パーティと行動をともにしていた時、それなりに楽しそうにしていて、パーティメンバーは色々とアシュレイを気にかけていたのを覚えていて、あのメンバーたちと同じような匂いをさせている連中を見つけたからであった。

 だから、フロリアもアシュレイのように仲間に入れてもらえば良いのだ、と思ったのだ。

 未成年、という言葉は知っていたが、それが何を意味し、どういう制約を生み出すのか、そうしたことに考えが回らなかったのだ。


「餌が取れて、おのれの縄張りを守れれば一人前だろうが。年齢で分けるとは、なんと人間とは愚かな考え方をするものか」


とはトパーズの弁である。


 実は成年パーティに、未成年や実力的に心許ない冒険者を見習いメンバーとして加入させる制度もあるのだが、フロリアはそのことをよく知らなかったし、「剣のきらめき」のリーダーもフロリアの実力を見誤っていて、魔法は大したものだが大人の冒険者と同じ苛酷な遠征に耐えうると思っていなかったので、誘わなかったのだ。

 後の話のなるのだが、リーダーのジャックがフロリアの実力の一端を知って、大人並みの冒険が出来る等という程度を遥かに越えていることを知ってまもなく、パーティーに誘うタイミングが来る前に、フロリアは町を去ることになるのだった。


「とにかく……。このままじゃ、面白く無いことになる。「渡り鳥亭」はなんだかんだ言っても、リタが色々と教えてくれるし、助けてもくれる。このままもうしばらく居着いていたい」


 という訳で、とうとうフロリアはポーションを売ることにした。

 アシュレイはあまり良い顔をしないかも知れないが、十分に効能を落として初級ポーション程度に抑えておけば問題ないだろう。


 フロリアがハンスの商会の門を叩いたのは、ビルネンベルクに来て10数日後であった。


「いやいや、お待たせしましたね」


 すぐに奥の部屋に通してくれたがハンスは別の商談中で、しばらく待たされた。


「いえ、こちらこそ急に訪ねてすみません」


「それで、今日は?」


「実はポーションを買って欲しくて持ってきました」


「そうですか。それは良かった。早速見せて貰えませんか?」


 フロリアはとりあえず収納から一番薬効の低いポーションを5本出してハンスにわたす。


「ふむ。失礼ですが鑑定させて戴いても?」


「はい」


 ハンスは鑑定の魔道具を出してきて一個ずつ丁寧に鑑定していく。

 さすがに商人だけあって顔には出さないが、内心は驚いていた。あるいはフロリアがポーションを作れるかもとは思っていたが、その品質は予測以上だった。

 持ってきたものは初級ポーションなのだが、品質容量がピッタリと同じ。現代日本の常識が残るフロリアが聞けば、薬の品質がまちまちでは問題じゃないか、と思うのだが、この世界ではそうではない。

 まるで工業製品のように同品質のもので揃えるというのはかなりの実力が無いと出来ないのだ。

 本気を出せば、中級ぐらいは平気で作れそうだな、とハンスは思ったが、そこを追求して嫌われると困るので、まずは何も言わずに初級を引き取ることにした。

 この先、お金が必要なことが出てくれば、そのときは中級を持ってくるだろう。それに初級の方が売り捌きやすいという事情もある。


「そうですね。一本5銀銭で、合計2銀貨と5銀銭でどうですか?」


 ざっと、25万円。交易隊で色々と魔法を使った代金と同じである。

 これが高いのか安いのか、やっぱりフロリアには判断が難しかった。だが、とりあえずは「渡り鳥亭」に泊まるのに支障はなくなりそうである。


「ええ、それでお願いします。――あと、この先も、ポーションを作ったら持ってきても良いですか?」


「それはもちろん。ああ、そうだ。それでしたら、口座に入金という形にしませんか?」


「口座?」


「ええ。商業ギルドの私の口座から、フロリアさんの口座にお金を移すという形にするのです。今回のポーション買い取りは、前回の魔法の提供に対する謝礼とは違って、商取引なので、税金が掛かるのです。個別取引をしていると、それをいちいち申告しなければなりませんが、ギルドの口座を使えばギルドが勝手に税金分を徴収してくれるので、余計な手間が省けますし、何と言ってもギルドが取引の秘密を守ってくれますよ。いちいち、代官所の窓口に払いに行くと目立ちますし」


 目立つのはフロリアとしても避けたい。

 だけど……。


「だけど、私は商業ギルドの口座は持っていません。商業ギルドはかなり会員になるのにお金が掛かるって……」


「それなら、問題ありませんよ。ギルド間のお金のやり取りが可能ですから。フロリアさんの場合は錬金術ギルドでも口座を作った方が良いかもしれませんね」


 そんなこんなを話した後で、連れ立って商業ギルドに行くことになった。

 商業ギルドは商会が固まっている地域にあるので、ハンスの店のすぐ近くである。


「おや、ハンス。今日はずいぶんと可愛らしい娘を連れているじゃないか」


 かなりの年齢の女性がハンスを見つけて声を掛けてくる。


「ギルマス。お久しぶりです。ちょっと相談があるのですが、個室を借りられませんか」


 そして、ハンスとギルドマスター(名前はイザベルさんというそうだ)がひそひそ話をしていたが、そこにフロリアも呼ばれて、「それじゃあ、3番の部屋をお使い」と言われてそちらに移ることになった。


「あ、それから私もすぐに行くからね。商談はそれからにしてちょうだいな」


 イザベルが一声掛け、それを聞いたハンスは内心、ヒヤリとした。やはり商業ギルドを一枚噛ませて正解だった。

 地獄耳のイザベルはやはり何処かからフロリアの情報を聞きつけていたのだ。

 ハンスの発案で、交易隊のメンバーにはフロリアの魔法は内緒にしておこうと約束させたのだが、いずれはどこかから漏れるだろうとは思っていた。

 その時に、魔法使いを自分だけで囲い込もうと画策した、しかもポーションを作れる薬師を、となると、イザベルから酷い不興を買うことになる。

 多少、自分の利幅が減じても、商業ギルドを噛まして置くほうが利口である。

 商業ギルドは基本、商人たちの互助組織なので、必ず商業ギルドを通さなければならないという訳でもない。

 だが、大きな商いになりそうな案件に、商業ギルドを噛まさなかった場合、トラブルになった時に助けてもらえなくなるのだ。

 そして、ポーションという"商品"は、儲かることは間違いないが、とても面倒事を起こしやすい商品なのである。


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