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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第3章 ビルネンベルクへ
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第23話 ビルネンベルクの生活2

 交易隊が町に着く前、ハンスの発案でフロリアの魔法については町の皆には黙っていることになった。

 魔法使い、それもレアな収納スキル持ちともなると、欲にまみれた人間を引き寄せる。大人の男でも下手をすると、拉致されたりしかねないのだが、身寄りのない少女ともなると……。


"ま、あいつらもフロリアの力を自分たちだけで独占したいという計算もあるのだろうがな"


 トパーズは冷めたことを言ったが、"だが、そうした計算もあまり度を過ぎなければ、別にかまわないのだ。完全に善意だけ、というのは逆に信用できない――とアシュレイは言っていたことがある"ので問題無いそうだ。


 リタが案内した「渡り鳥亭」はハンスの商会からそう遠くない場所にあった。このビルネンベルクの町は、ヴァルターランド王国の多くの町と同じように、町の大門を入るとすぐに大きな広場があって、広場からはメインストリートが領主館(代官の役宅)に向かって一直線に通っている。

 そのメインストリートの両脇には商会が集まるゾーンがあり、そのゾーンでも一等地には商業ギルドの支部が存在する。錬金術ギルドがある町では隣が錬金術ギルド支部建物である。

 

 冒険者ギルドは、町の広場の中の一角にあり、特徴的な形をしている。どの町でも大抵、同じような場所に同じようなデザインの建物になっている。


 その冒険者ギルドからほど近く、広場から一本入ったあたりに「渡り鳥亭」はある。

 リタは元気よく「渡り鳥亭」のドアを開けて、「たっだいまあ!」と叫ぶ。


 すぐに両親が出てきて、ひとしきり御定まりの帰還の挨拶があると、「あ、おじいちゃんは後で来るってさ。それと、お客さんを1人、連れてきたよ」とフロリアを紹介する。

「渡り鳥亭」の大将はマクシム、おかみはイシドラである。

 マクシムはクリフ爺さんの息子で、やはり若い頃には冒険者をしていたが、イシドラと結婚して落ち着いたのだそうだ。

 大柄で一見した印象はオークのよう。でも後で知ることになるが、料理の腕はかなりのものだった。おかみのイシドラは娘のリタ同様に元気で明るい女性であった。


 宿は、ソロ冒険者用の一人部屋は1つしか無いのだが、ちょうどそれが空いたところだということで借りる事ができた。

 一泊が3銅貨で朝食付き。夕食を宿で食べる場合には5銅銭(お酒が入ると、ぐっと高くなるがフロリアが頼むことはない)で、お湯はたらい一杯で3銅銭。

 ベッドのシーツなどは取り替える場合は、やはり3銅銭である。

 

"だいたい一泊朝食付きで3千円、夕食は酒抜き500円といったところか"


 いつもの癖で日本円に換算する。お湯は不要だし、寝る時には亜空間に引っ込むつもりなので、シーツはほとんど替えることは無さそう。


 これ以下の部屋となると、この宿にはない。他のもっと安い宿なら、ドミトリー(相部屋)形式の部屋や、食事や食材持ち込み可能の部屋もあるが、さすがにいきなりそうした宿には泊まる気になれない。

 そもそも相部屋に泊まってしまうと、夜に亜空間に引っ込むわけにはいかない。

 ともあれ交易隊の人たちはフロリアの魔法を知った上で、せめて「渡り鳥亭」に泊まることを推奨していたことであるし、とりあえずはここを本拠にすることにした。

 

 それで、10日分として3銀銭を支払った。

 夕食は宿で食べると、その都度、支払うことになった。

 もしかして、交易隊の人たちと親しくならなければ、これまで通り亜空間で寝泊まりするのだから、この宿泊代は不要だったかも知れない。


 一回、部屋に案内されて、ちょっと落ち着いて、旅用のマントや帽子をとって、靴も軽いものに履き替える。もっとリラックスした格好に着替えたいが、リタ以外にも収納魔法が知られてしまうし、さすがにひと目のあるところで、いつもの亜空間の格好はまずい、と思う程度の常識はフロリアにもあった。

 着替え終えたところで、リタが呼びに来る。


「お爺ちゃんも来たから、夕食にしましょう」


 大食堂に行くと、クリフ爺さんが奥の方のテーブルに既についていて、フロリアたちを手招きする。

 いつもは夕方には食堂のウェイトレスもしているリタだが、今日は他に手伝いも居るということで、同じテーブルについて3人で食事する。

 ただ、クリフ爺さんもリタも他のテーブルの他の常連さんと会話を交わしていて、賑やかな食事である。

 すぐに、「野獣の牙」の3人もギルドから戻ってきて、フロリア達とはちょっと離れたテーブルにつく。

 クリフ爺さん達には軽く会釈して、あとは彼らも他の常連たちと気軽に軽口を叩き合って酒と食事を楽しんでいる。フロリアに対する時とはずいぶん違ってくだけている雰囲気である。

 きっとこっちの方が彼らの本質なのだろうが、若い女性をどう扱って良いか分からなくてつっけんどんになるのも、まあ本性といえば本性なのか。ウェイトレスとか売り子とか娼婦とかが相手なら、若い女性でもそれほど意識されないのかも知れない。


 ちなみに「剣のきらめき」は、4人でギルドハウス(安い借家)を借りていて、いつも自炊しているのだそうだ。その方が宿に泊まり、食堂で飲み食いするよりもよほど安上がりなのだという。


 食事は美味しかった。高価な和の調味料はつかってないので、たとえなんちゃってでも醤油を味のベースにしていたフロリアやアシュレイが作っていた料理とは味付けの方向性が違っているのだが、申し分の無い味であった。

 野生のハーブや(多分)オークの油、そして比較的高価な塩もしっかりと使ってあって、丁寧に下ごしらえした材料を時間を掛けて調理していた。

 しかし、お酒を呑まないフロリアは、食事を終えるともうやることがない。

 しばらくはクリフ爺さんに付き合っていたが、先に部屋に下がって休むことになった。この辺、子供の特権を活用させてもらおう。

 なお、常連客たちは子供のフロリアが1人で旅してきたということに興味を覚えていたが、その辺はリタがガードしてくれた。でも、リタもいつもフロリアに付き合っていられないだろうし、好奇心に満ちた常連客対策は考えなくてはならないだろう。


「また、明日」


 リタと分かれて、部屋に戻り、それから久しぶりの亜空間に入る。

 すると、ブラウニーが酷く拗ねていて、フロリアに顔を合わせようともしない。

 そういえば、何も言わずに5日間もブラウニーを放置していた。トイレの為に戻る時以外は亜空間に入らず、そのトイレもあっという間に戻っていたことに気がついたフロリアは、慌てて謝り倒し、どうにか1時間掛かりで機嫌を直して貰わなくてはならなかった。


***


 翌朝。

 フロリアは早めに亜空間を出る。うっかりリタが部屋を覗いて、誰もいないとなると騒ぎになりかねない。一応、鍵は掛かる部屋ではあるのだが、ちょっと心許ない鍵であった。

 階下に降りて、朝食を食べていると、「野獣の牙」の3人もおりてきて、フロリアの近くのテーブルに着く。

 彼らはすぐに運ばれてきた朝食を急いで平らげると、すぐに立ち上がり出かける様子だ。と、リーダーのエッカルトがフロリアに近寄り、「あ、そのなんだ。どうせ最初はソロで活動するんだろ。薬草採取するときには絶対に森の奥には行くなよ。このあたりは魔物の領域が近いんだ。できれば、どっかのグループと仲良くなって一緒に行け」というと、すぐに立ち去っていった。


 これまで「野獣の牙」と話をする機会がなかったもので、驚いている間にサッと踵を帰して、宿を出ていってしまったので、せっかくアドバイスを貰っても礼をいう暇も無かった。

 

 フロリアは常時依頼の薬草採取なので、早いものがちで良い依頼を探しにギルド支部に行く必要はない。

 ゆっくりとご飯を終えて、お茶まで飲んでから、リタに挨拶して宿を出た。リタも昨晩、戻ってきたばかりだが、すでに平常運転に戻って、朝から給仕で飛び回っていた。

 クリフ爺さんの顔は見えなかった。


 宿を出るとすぐに大門に向かう。


「お、昨日の嬢ちゃんか」


「はい。夕方には戻ります」


と言いながら、冒険者証を出すと、「ああ、薬草採取か。1人で行くんなら森の奥には行くなよ。浅いところはなかなか薬草が無いから、つい奥まで行きがちだけど、このあたりは魔物が出るからな」


「野獣の牙」と同じアドバイスをされる。きっと、見習い冒険者の事故が多いのだろう。荷馬車で旅をしている時に聞いた話では、ビルネンベルクが栄えた礎とも言えるハオマの群生地は焼けてしまったが、それ以外の薬草も比較的豊富に採れるのだそうだ。

 何故か、薬草が良く採れる場所というのは、魔物の縄張りに近いという傾向がある。もしかすると、魔物が魔物たる所以の魔石は、特別な薬効のある薬草の生育と関係が有るのかもしれない。アシュレイが以前、そんなことを言っていた。

 あの「アオモリ」――魔法金属であるコバルトの鉱床があって、森の地面や木の色がどことなく蒼い色をしていた――も大概、魔物は多かった。

 そこで、トパーズと一緒に何日も採取行ができるだけの能力があるフロリアにしては、このあたりの森(やはり町に近い森はチカモリと呼ばれていた)は物足りない限りであったが、まあ初日ぐらいは様子見で、言われた通り、森の浅いところを回ったのだった。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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