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「レイ」

最近サボりすぎですね

27話「レイ」



あの日、私は誓った。

この人達に一生仕えると…


レイが8歳の時、住んでいた村を、狼の群れが襲った。

その時、炎に包まれた故郷、襲われる獣人達を、2人のエルフの男女が救ってくれた。

無駄のない動きで、矢を放ち、剣で首を跳ね、魔法を放ち、狼を蹂躙していく姿は、彼女の目に救世主として写っていた。


2人は両親を失い、一人ぼっちになってしまった私を家族として迎えてくれた。

血の繋がった家族かのように、愛し、育ててくれた。

だが、私はいつまでも甘えては居られないと感じてもいた。

救われてから6年後、私はメイドとして、ベネット家に仕えたいと申し出て、2人に恩返しとして、家事をする様になった。


そして、2年後、2人の間に、小さな命が誕生した。それがソフィーだった。

しわくちゃの顔になりながら泣き叫ぶ姿、小さな手、小さな尖った耳、全てが愛おしかった。

その小さな命を抱きながら、私はイヴァンとリーシャが、助けてくれたあの日誓った様に、この子のためにも生きていくと、一生かけて支えると自身の心に誓った。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「レイ…」


騒がしかった戦闘という名の虐殺が終わり、屋敷には静けさが訪れた。

外では何度も耳にした鳥のさえずりが聞こえる。


何故かソフィーの目からジワジワと涙が溢れてくる。


(なんで…)


ソフィーは必死に袖で涙を拭って誤魔化す。

だが、既に袖は汚れていたため、顔が更に黒く汚れてしまった。


「ソフィーお嬢様…?」


語尾が疑問形だ。

無理もない。しばらく会っていなかった訳ではなかったが、その時の面影はほとんど残っていない。

彼女の晒されている左目には、冷たい感情が溢れ、悲しげな表情を醸し出していた。

更に、先程の戦闘の返り血が付いていることにより、その姿は大量殺人鬼、正に悪魔だった


「うん…私…だよ…ソフィーだよ…」


レイはその返答を待っていたかの様に、彼女に駆け寄り、無我夢中で抱きしめた。

華奢だが、力強い腕だった。

これまで何度も抱きしめてもらった時に嗅いだ彼女の匂いに安心したのか、逃亡してから、初めて信用出来る人物に会い、心から安心したのか、更に涙が溢れてきてしまった。


「とーさまと…か、かーさまが…こ…こ、殺された…」


「えっ…?!」


「ごめん…私のせいだ…」


その後の事はあまり覚えていない。

ただ、彼女の涙腺に溜めていた涙と、声が枯れるまで、満足するまでソフィーは泣き続けた。

レイはその悲しみを、優しく包み込む様に受け止めてくれた。



【数十分後】



「ごめん…取り乱し過ぎた…」


「いえ、大丈夫です。それより…」


レイは廊下に倒れている死体を見る。

ソフィーは視線でその事に気付いた。


「ごめん…怖がらせちゃったね…」


「いえ、あのままだと、私が死んでいたと思うので…ただ…」


レイが何か言いかけた。


「ん?」


「以前のお嬢様なら、ここまでの事をしなかった様な気がしたので…あっいえ、すみません。言い過ぎました。」

若干申し訳なさそうに俯く。


「確かにね…これが正しいのか分からない…殺さなかったら、私や、レイが殺されてだと思う。私からしたら、彼らが悪人なんだろうけど…この人達の家族は、きっと私を死ぬまで恨むんだろうね…今更どうしようも無いけど。」


「お嬢様…何があったんですか、その右眼はどうしたのですか?」


「せ、説明しないとだめ?」


「はい、私は知っておく必要があると思っています。強要はしませんが…」


(アガレス、どっちがいいと思う?)


“主に任せる。だが、彼女は信用して良いと思うぞ。”


(分かった。)


「数日前…王都で、婚約発表をした日…」


ソフィーは小さめの声で、ぽつりぽつりと何があったのかを話し始めた。

レイはその様子を、真剣に聞いていたが、両親を殺された所で、涙が溢れてきてしまった。

その姿を見て、ソフィーは自身よりも背の高い、大きな彼女の体を抱きしめた。


「ごめんなさい…」


「後…お嬢様のその隠してる眼は…」


(そうだった。アガレス、1秒くらい見せれる?)


“そのくらいなら…こっちで魔力を極力抑える。”


(分かった。)


そして、ソフィーは、眼を覆っている布に触る。


「その、逃げてる最中にね、ある人と出会ったんだ。」


指を布にかけて、ほんの少し捲る。

赤と黒の禍々しい瞳がのぞく。


「この眼の持ち主とね。」


「お、お嬢様…それは…一体…」


極力魔力を抑えたのにも関わらず、元々の見た目も相まって、恐怖に近い感情と寒気が、レイに襲いかかる。

恐怖で顔が引き攣る。


「王宮に囚われていた悪魔の眼よ。利害が一致したって言うのかな...色々私に賭けたいんだってさ。彼が私に右眼を移植してくれたの...」


「お、お嬢様、それで体大丈夫なんですか?」


(常に痛いけど…心配かけたくないよな。)


「うん、今は大丈夫よ。」


“(強がりやがって...はぁ...)”


「そ、その…悪魔の力の影響なんですか?さっき、躊躇うことなく殺せたのは…」


レイは気にしていたのは、悪魔の力が、ソフィーの人格に影響を及ぼし、残虐性が増しているのではないかと思っていた。


「倒さなきゃ、私が死んでいた。レイのことも護れなかった。悪魔の眼を手に入れてなかったら、多分、王都で死んでいた。」


「つまり、生きるための選択だったと…」


(お嬢様どうしたの…以前ならこんな言い方しなかった。)


「今の私は…面識の無い他人の心配が出来るほど、余裕が無い…裏切った国の兵士に気遣いなんて出来ない。今死んだら、私のせいで死んだら、とーさまとかーさまに顔向け出来ない。」


「…。」


今のレイには、その言葉に対して返事が出来なかった。

心の内側まで理解しきれない彼女には、本人の痛みを完全に理解する事が出来ないと分かっていたからだ。


「さてと、レイはこれからどうするの?」

真面目な顔でレイの瞳をじっと見つめる。


「わ、私は…」


(今のお嬢様について行って良いのだろうか…負担にならないだろうか…)


「お嬢様と一緒に行きたいです。旦那様と、奥様が亡くなられた今、私がお仕えすべきなのは、お嬢様おひとりです。」


ソフィーはその言葉に対し、そこまで驚かず、まるで、予想していたかのような様子だ。


「危険だけど、良いの?命の保証出来ないわよ。国には追われているわけだからね。」


素っ気ない言い方だが、優しさの裏返しに近い。今の自分に巻き込みたくない思いゆえの発言だった。


「大丈夫です。最低限、自分の身くらいは守れます。国よりお嬢様を優先します。」


それは事実だった。猫族は、魔法に関して疎いが、その分身体能力は人間以上だ。

レイも、それを利用した護身術や、格闘術や、剣を鍛え、並の魔物相手には負けない力を持っている。


「それに…」


「何?」


「お嬢様、自炊出来ます?」


「あっ…」


王都では、軍務局の食堂頼みだった。何度かキッチンを借りて挑戦したものの、人に出せる物では無かった。

ジークと結婚を控えた時は流石に覚えないといけないと思っていた矢先の悲劇だったわけだ。


「私が居ないと、きっとダメですね。ご一緒させていただきます。」


そう言ってレイはソフィーに微笑んだ。


「じゃあ必要な物をまとめて。魔法で全部私が仕舞えるから、量は安心して。」


「かしこまりました。」


そう言って、レイは立ち上がって、スタスタ歩いて行った。

続いてソフィーも立ち上がり、自身が使っていた部屋に向かう。


少し歩いて、直ぐに部屋の前に着いた。

扉にはソフィーの名前が書かれた板が貼られている。

幼い頃から多くの時間を過ごしていた部屋だ。


ゴクリと唾を飲み込んで、扉を開く。


中は火事があったにしては、状態は良かった。

部屋の中には、本棚に入り切らなかった本が、大量の本が山のように床に積まれている。


開いたままのクローゼットには、ワンピースやローブ等、様々な服がハンガーにかけてあった。

異世界でも、ハンガーの形状はかなり似ている。

プラスチックは無いため、金属か、木で出来たのしかないが。


クローゼットの中を雑に漁る。


“主、何を探している?”


(背中の開いた服、翼出すとき困らないでしょ。)


“なるほどな。まぁ、無いなら仕方あるまい。”


(そうね…とりあえず、本は全部仕舞いたい。)


“了解だ。”


そうして、ソフィーは右手を本に向けて、どんどん収納していく。

先程漁っていたクローゼットの服や、魔導具、アクセサリー等も仕舞った。

気づけば、数分後には、部屋の中のほとんどの物が無くなっていた。


次に何を仕舞うか考えた時に、ふと気づいた。


(アガレス、あの住処って寝床ある?)


“無いな。悪魔は寝ないでも生活出来るからな。”


(一応ベッドも持っていくか…)


ソフィーは壁沿いに置いてあったベッドにも右手を突き出し、収納した。


その後は、本以外にも持っていきたい物を漁っていたが…


“そういえば、主よ、レイとかいうメイドにあの言い方で良かったのか。”


(何か、良くなかった?)


“はぁ…まぁ、今の主なら仕方ないとは思うが…いつかはこの質問の意味を分かってもらわねばな。”


(そう…分かった。)


ソフィーは自室から出て、階段を降りて居間に向かう。

1回の方が被害を受けていた。


庭向きの廊下の窓ガラスが割れ、床に散らばっている。

裸足だったソフィーは、切り傷程度回復出来るが、無意識に踏まないように気をつけながら、今に向かって歩いて行った。


扉を押しながら開け、居間に踏み入れる。

以前の記憶に残っていた家具の配置のままだった。

扉から見て右のレンガ造りの壁に暖炉があり、煙突が上に伸びている。

反対側には、台所が置かれ、その近くには、食事用のテーブルと、4つの椅子が置かれていた。

部屋の中心には、暖炉に向かって皮で出来たソファが置かれ、一緒にローテーブルも置かれている。


前世の雰囲気とはかけ離れた空間だったが、それでも、家庭感のある、落ち着いた雰囲気の部屋だ。


ソフィーは懐かしい思いを抱え、以前のこの家での生活を思い馳せながら、部屋を歩き回っていた。


すると…。


「お、お嬢様。」


レイが呼ぶ声がした。


「何?」


「金庫を開ける事って出来ますか?」


金庫??

まず、ソフィーの頭には、前世の金庫のイメージが脳内に現れた。

金属の、強固な箱の、回す円形の鍵の金庫だ。


だが、そんなものがこの世界にあるわけが無い。


ソフィーは、レイの声がした方に向かう。

声がしたのは、両親が使用していた寝室からだった。


開いたままの扉から、中に入る。

中はまだ両親の匂いがほんの少しぼんやりと残っていた。


レイはクローゼットの前にしゃがんでいた。

足音でソフィーに気付いた。


「お嬢様、これなんですが…」


レイは、クローゼットの中の見慣れない箱を指差した。

角を金属で補強した、木の箱だ。


「奥様から、金庫の存在は聞いていたのですが、開け方が全く分からないんです。」


確かに、その箱は、開け方が全く分からなかった。

正面に、蝶番があるため、開けれるのは分かるが、鍵穴等は、全く見当たらない。

あちこち触ってみたが、違和感がある所もない。


「確かに、何だろね、これ。」


“主の魔力を流してみたらどうだ?”


(えっ?)


“家族の魔力にのみ反応する仕組みかもしれん。前に似た魔導具を見たことがある。”


(分かった、操作はお願いね。)


“了解だ主。”


頭の中で会話を終え、ソフィーは箱の上に手を置き、手のひらから少量の魔力を放つ。

すると、一瞬箱全体が光り、ロックが外れる、小さく軽い金属音がした。

正面のロックが外れ、蝶番がゆっくりと動く。


2人は、金庫の中を覗き込む。

中には、数十枚枚程の金貨の入った大きめのベージュの布の袋と、折りたたまれた紙があった。


ソフィーは袋を取り出そうとしたが…


“金庫ごと仕舞ったらどうだ?”


(あっ、それありかも。)


アガレスのひらめきを採用し、ソフィーは金庫を再度閉じて、魔力で包み、手のひらに吸い込んで仕舞った。


「えっ…お、お嬢様今のは…」


吸い込むように、決して小さくは無い箱を仕舞う姿に、レイは動揺を隠し切れなかった。その表情は、興味と不安が入り交じった顔だった。


収納(ストレージ)』って言うの。亜空間にいっぱい仕舞えるみたい。レイの荷物も仕舞う?」


「あっ、え、えっと…お願いします…玄関です…」


レイは、自分の荷物をまとめた玄関に彼女を案内した。

そこには、麻らしき袋と、革製の大きめのリュックがいくつかまとめて置いてあった。


「これで良いの?」


「はい、大丈夫です。元々そんなに持ってなかったので…」


「そっか…行先の麓に村があるらしいから、欲しいのがあったら買いなね。」


「はぁ…」


親切で言った言葉だったが、レイの返答は微妙だった。

アガレスも今のソフィーの感情が何なのかイマイチ掴めずに居た。

兵士を殺した事に関して聞かれた時は冷酷そのものだったが、今は気遣いもする優しい気持ちが、表に出ている。

感情が1つに定まらずに揺れ動いているかのように感じていた。


(お嬢様…やっぱり以前と違う…)


手のひらから自身の私物を吸い込む姿を見ながら、レイは、色々思い巡らしていた。


レイが知っている前のソフィーは、こんな風に、人を傷つけることを厭わない女の子では無かった。

魔法に疎い彼女でも、魔力は感じる事が出来る。

そして、ソフィーの体内の魔力の巡り方や、気配が以前と違う事にも気づいていた。


(原因は、やっぱりあの眼か…)


魔力は本来、心臓を中心に、血管や、神経を通して、身体中を巡る。

しかし、今のソフィーは、心臓と、右眼を中心に、それぞれ、違う魔力が全身を巡っていた。

2つの魔力が、体内で混ざり合っている。


(今のお嬢様に私は必要無いのかもしれない、以前と比べものにならないくらい、強いのが分かる。でも、今のお嬢様には、温もりと、休息が必要な様な気がする…)



そんな事を考えているうちに、ソフィーは荷物を収納し、身支度が整った。


「もう、大丈夫?」


「はい、お嬢様。」


「じゃあ、手、繋いで。」


ソフィーは、レイに右手を差し出す。


「え、あっ、はい…」


何の事か全く分からないが、レイは彼女に従って、手を繋いだ。


すると、ソフィーの魔力がレイに流れ込んで来た。

ほんのり暖かいなと感じていると…


足元に黒い魔法陣が現れた。


「えっ?お、お嬢様!」


いつの間にか視界は変わり、2人の周囲は魔力の膜に包まれていた。

レイには何が起こっているのか全く理解出来なかったが、何なのか分からず焦り、慌てているうちに、2人は、新たな、2人の家となる場所に転移して行った。


その心の中には、これからの生活に不安と、悲しみに包まれているお嬢様を支えたいという思いを抱えていた。


To Be Continued

イラストの方に重きを置きすぎて、こちらが後回しすぎております…

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