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「真実」

サボり気味だ…

28話「真実」



「はぁ…」


研究室の窓から外を眺めながら、アイシャがため息をつく。

太陽は、既に傾き、夕方になっていた。


(つまんないな…)


「ため息の数だけ幸せが逃げていくそうよ。」


本と睨み合いながら、アリアが反応する。


「だって…仕方ないじゃないですか…」


ボヤきながら、机の上に横向きに頭を載せる。


(ソフィー居なくなってから…)


「まぁ…そうね…」


そう言ってアリアは本を閉じて脇に置いた。

アリアもアイシャ程じゃないが、どこか上の空だ。


2人のせいで、部屋全体がどんより雲だ。

幸いにも部屋は他に誰も居ないが…


コンコンッ


扉をノックする音で、2人は、電源が入ったかのように、動いた。


「邪魔するぞぉ…ってなんだよこの空気は…お通夜かよ…」


ノックの返事も聞かずに、ズケズケと入ってきたレイモンドが、研究室の雰囲気に速攻ツッコミを入れる。


「少しは空気読みなさいよ、この脳筋ゴリラ。」


「ちっ、相変わらず口悪いな…ったく…どうせこんな雰囲気だろうと思って連れてきたんだがな…当事者を…」


「「えっ?!」」


後ろから、ジークフリートが、ゆっくり現れ、レイモンドの横に並んだ。


「…よ、よぉ。」


小さめの声で、右手をあげて挨拶した。

若干普段のやんちゃな様子と比べると、明らかに元気が無さげだった、


「えっ、ジーク、大丈夫なの?ってそれより!」


「なんで、ソフィーが、いなくなったのか、だろ?」


ジークはすでに聞かれるだろうと分かっていた。


「う、うん…」


戸惑い気味にアイシャは頷いた。


「待って、話し始める前に…防音結界…」


アリアの右手から金色の魔法陣が現れ、部屋を覆い尽くした。


「はい、大丈夫。ジーク、続けて。」


その言葉に頷いて、再び口を開く。


「あいつは…浮気してた。それだけだ。」


(えっ…ソフィーが?)


「そ、それは…ソフィーは浮気を認めたの?」


「あいつは、最後まで否定してた…俺に信じてくれと叫んでた。だが、俺は浮気相手が存在している時点で、もうあれだt…」


ジークが、言い終える前に、アイシャが、思いっきり胸ぐらを掴んでいた。

レイモンドとアリアが思わず身構える。


「バカなの!誰が庶民の出で、王子との結婚より優先したい事があるのよ!

知らないだろうけどね、あの子、本当に悩んで、苦労してたのよ!

毎晩、どうしたらあんたを喜ばせられるかとか、今日こんな話したんだとか、いっつもジークジークジーク。本当に、いっつも聞いてる側で大変だったわ、羨ましかったわ。

デートの時だって、前の晩から一緒に相談して、服選んでたのよ!

あの子、本当に服のセンス無くて呆れたわ。

浮気してた子がこんなに悩むと思う?初めて会った時から、好きだった相手を簡単に手放すと思う?」


「…」


「うぅ…どうして…どうして…あの子を信じてあげれなかったのよ…」


アイシャの瞳からボロボロと雫がこぼれ落ちた。

ゆっくりと掴んでいた手を離す。

アリアが彼女の肩に優しく手を置いた。


アイシャが泣き叫んだ後、部屋の中は、静まり返った。


「…赤ん坊で覚えていなかったが、お…俺の母は、亜人に殺された。あいつは、それを知りながら、黙っていた。」


その言葉に、レイモンドと、アリアが目を合わせる。


(まさか、聞かれた?)


2人は、心が通じてるのかと思うほど、全く同じことを考えていた。

本人たちは断固として認めないだろうが…


「も、もし仮に、ソフィーがその事を知っていたとして、あなたに言えるかしら?」


アリアが口を開いた。


「え…?」


「嫌われるかもしれない事を言えるかしら?彼女は自分の保身の為に言わなかったのかもしれないけど、怖かったんだと思うわ。それに、浮気をした原因は思い当たらないの?喧嘩をしたとかなら別だけど、初めて会った時から、恋心を抱いていた王子相手に浮気しようとする方が不自然じゃないかしら?」


「うっ…」


アリアの言葉は正論だった。ソフィーはジークの権力や立場を理由に婚約した訳では無い。だが、浮気をして、他の人物に惚れ込む事の方が様々面でデメリットが多い。


「それにね、ソフィーだってちゃんと常識を持ち合わせている。王子と婚約しながら浮気していたのがバレた時、どうなるかくらいある程度は予想出来る子だと思うのよ。それより、浮気を告発をしたのは、誰だったの?詳しい状況が知りたいの。」


「わ、分かりました…」


そこからジークは、ソフィーに吹っ飛ばされて意識を失うまでの出来事を3人に事細かに話した。

浮気をした事による国家反逆罪。突然現れたジークの兄、アレクサンダーがソフィーの両親を用いて復讐をしたこと。殺した瞬間、魔導具で封じていたのにも関わらず、魔力で衝撃波に近い攻撃を受けて意識を失ったこと。


「意識が戻ると、ベッドに運ばれていて、後で、ソフィーが逃亡した事を知った。大勢兵士を殺した事も。色々教えて貰えない事もあったが…」


「くっ…あの時の魔導具はその時のためだったのね…」


アリアは、自身の魔導具が、ソフィーを苦しめる原因を作った事に罪悪感を覚えた。


「あ、あの時の…師匠が…」


アイシャも以前アリアが作っていた首輪の存在を思い出した。


「これからどうして行くのが正解なんでしょうね…」


アリアが素直な疑問を投げる。


「俺は…」


ジークに注目が集まる。


「もう一度話がしたい。何が真実で、何が嘘なのか、話して、仲直りする必要がある。もう恋仲には戻れないのかもしれない…だが…このままじゃ何も進まないと思う。兄上に関しても怪しい部分が多いから、何かしらの対応が必要だと思う。だが、まずはソフィーの捜索だ。俺が間違っていたなら許して貰えないかもしれないが、謝罪したい。」


「まずはあの子の居場所よね。」


「それについてなんだが…」


レイモンドがゆっくり手を挙げる。

今度はレイモンドに注目が集まる。


「何?居場所知ってるとか?」


「知ってたら真っ先に言ってるよ。俺が言いたいのは、もうソフィーは元のソフィーじゃない可能性が高いという事だ。」


「レイモンド、それはどういう事かしら。」


「ソフィーが逃亡したのと同じ夜、王宮で地下へと繋がる隠し部屋が見つかった。そして、そこに悪魔が使用していたらしき、人間のものとは思えない右眼の無い死体があった。更に、そこには、その悪魔とは別の眼球も転がっていた。」


「えっ、それって…」


アイシャの顔がどんどん曇っていく。


「アイシャ、まだソフィーの眼と…決まった訳じゃない…でしょ…れ、レイモンド…?」


アリアの声は今にも泣き出しそうな程震えていた。

珍しく感情的になっていた。


「その部屋に突入した最初の兵士の殺され方は、氷の棘だった。後、白髪のエルフの少女が、コウモリそっくりの翼で飛び立つのを30人近い兵士が目撃した…」


その言葉を聞いて全員黙ってしまった。


「それじゃまるで…」


アイシャがぽつりと呟いた。


「もし、仮に会えたとしても、それは今までのソフィーじゃない。その覚悟が必要だろう。兵士を大勢殺したのも事実。その事実だけは覆らない。…本当は、少し前から知っていたんだが、中々言い出せなかった。済まなかった。」


そう言ってレイモンドは頭を下げた。


「いや、顔を上げてくれレイモンド…悪いのは、彼女を信じないで見放した俺だ…申し訳ない。」


そう言って今度はジークが頭を下げた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




体が…超熱い…体のあちこちをバーナーで炙られているかの様だ。

或いは、自身がバーベキューの具材として、鉄板に焼かれている感じだ。

皮膚が溶け、骨の髄まで、熱が伝わる感覚がする。

皮膚、筋肉、内臓全てが焼き尽くされた。

………

……



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「お嬢様、ソフィーお嬢様…」


自身の名前を呼ぶ声と共に、体が揺さぶられる。


「…んうーん……」


「お嬢様、そろそろ起きてください!」


「んーーわあったぁー」


ゆっくりと上半身を起こす。


「おはようございます、お嬢様。大分うなされてましたけど、大丈夫ですか?」


昨日は、アガレスの住処に転移後、荷物を出した後、心身共に疲れきって、部屋の隅にうずくまって寝てしまった。

起きたら、知らぬ間に、体に毛布がかけてあった。


「うん、多分平気…レイ…おはよ…」


(アガレスも…)


“あぁ、ちゃんと休めた様で良かった。”


(悪魔でも気遣いとかできるのね。)


“失礼だな。これでも人間の事を色々学んだつもりだ。”


(あっ、そう…)


「お嬢様~」


“なっ、主、つれないではないか。”


(うるさい、寝起き弱いの。)


「お嬢様〜」


“やれやれ、強くなっても、苦手は存在するのだな。それよりメイドが呼んでいるぞ。”


(え?)


「あっ、ごめん、レイ…」


「もう、ちゃんと起きてください。」


呆れ気味の口調で話しながら、、ソフィーがぐちゃぐちゃにした毛布を畳む


「ごめんごめん、許して。」


「はい、明日から気をつけてください。とりあえず食事の用意するので、お嬢様は、外で水浴びをして、着替えて、綺麗にしてきてください。」


そう言ってレイは、バスタオルに似た布を差し出した。


「このままじゃ…」


「ダメです。」


言い終わる前にレイは即答でソフィーの要望を蹴り飛ばした。


「うっ…」


「そんな、血と砂で汚れた服で食事はさせれません。」


そう言われて、体を見ると、確かに、悲惨な状態だった。

王宮からずっと着ている白いレースのワンピースは、元が白だったのか分からないほど砂ぼこりまみれで、自身の血や、交戦した時浴びた返り血で赤く染まっていた。

更に、あちこち引っ掛けたり、転んだりした事で破れてもはや、使い物にならなくなっていた。

その白いワンピースの上に羽織っていた灰色のマントも同様で、あちこち破れている。

服だけでなく、露出している綺麗な色白の肌も、様々な汚れがついてしまっている。

極めつけは、背中の大きな2つの穴だ。

王宮から逃げる際に悪魔の翼を出した事により、2枚とも、布を突き破ってしまった。

逃げ出して以来、ずっと裸足だった足の裏は、傷は回復魔法で癒せているが、薄汚れて、綺麗とは言えない状態だ。


「はぁ〜い」


そう言って、ゆっくり立ち上がり、レイからタオルを受け取り、住処の出入口に向かう。

金属製の重い扉の持ち手に手をかけるが…


「あっ、お嬢様。その扉なのですが、昨日の様子を見るに、開けられるのが、お嬢様だけのようなので、何か私にも開けられる方法が無いか考えていただく事は出来ますか?」


確かに、毎回レイが出入りする時にソフィーが居ないといけないのは効率が良いとは言えない。


「うん、分かった。何か方法無いか相談してみるね…」


「分かりました。食事の後、近くの村に買い足したい物があるのですが、御一緒して頂けますか?」


「うーん…私だってバレないかな…」


「あっ、そうでした…すみません。」


理由が理由なので、人里に現れることに対して警戒するのは当然だ。


(どう思う?アガレス。)


“これが王都だったらあれだが、ここは辺境だ。兵の練度も低い。主の事がここまで伝わっているかも分からない。簡単にはバレないだろうし、主に勝てる奴も居ないだろう。。一応フードだけ被っておけば安心だ。”


(うん、わかった。そうしよう。)


「でも、ここにいても暇だし、付いてく…私が気をつければいいし。」


「はい、分かりました。とりあえずお嬢様は体を綺麗にして来てください。その間に手持ちの食材で準備しておきます。」


「分かった…」


返事をしてソフィーは、体重をかける形で重い金属の扉を開けた。

明るい日差しが部屋の差し込む。


いちいち魔力を流して扉を開けるのも面倒なので、開けたままにしておく事にした。


聞きなれない甲高い鳥の鳴き声が聞こえ、そよ風が木々を揺らす。

視線を遠くに向けると、岩肌の山々がそびえ立っているのが見えた。

山頂には、雪が積もり、その寒さを体現している。


「さてと…」


近くの岩にタオルを置く。


(良い、アガレス?見ないでよ?)


“我にどうしろって言うんだ主よ。”


(んーーもー!私の裸見ても何にも言わないでよ?)


“承知した。”


(はぁ…本当にお願いね…)


そうしてソフィーは、身につけていたボロボロの服を脱ぎ始めた。

灰色のマントをするりと脱ぎ捨て、ワンピースのボタンに手を当て、手際良く、1個1個外していく。

正面のボタンを全て外し、ワンピースを頭から通して脱ぐと、ベージュのレースの下着が現れた。

中に着ていたこともあり、下着は他に比べて状態は良かった。


(見てないよね?)


“あ、あぁ、見てないぞ…(我にどうしろって言うんだ…視覚は共有されているのに…)”


背中に手を回し、慣れた手つきでブラジャーの留め具を外し、下半身の下着も脱ぎ、全裸をさらけ出した。

先程まで布で覆っていた程よい大きさの胸をさらけ出す。


一糸まとわぬ姿で、天に手のひらを向けて、魔法を頭の中でイメージした。


(綺麗な水を…頭上出す!)


すると、手のひらに水色の魔法陣が現れ、空中に大きなシャボン玉の様な球体の水が現れ、

自身に落下した。

シャボン玉に似た水球は、ソフィーの体に当たったと同時に、破れ、彼女の体を濡らした。

水が体の汚れを洗い流すのと同時に、水の冷気が骨の髄まで伝わる。


「つっめた!」


思わず声を上げて両手で二の腕を掴んでしまう。


「うぅ...」


(さっさと終わらせよっと…)


……


それから水球を出して、流す工程を何度も繰り返すうちに、王宮から逃亡してからそのままだった体はある程度は清潔になった。


「もういっか…」


そう言って、少し離れたところの岩に置いてあったタオルで、上から順に濡れた体を拭きながら、歩いて住処に戻った。


「レイ〜終わったよ。」


「あっ、はーい。こっちも準備出来てます…ってお嬢様!なんですっぽんぽんなんですか?!」


全裸で、部屋に入ってきたソフィーに対し、素っ頓狂な声を上げるレイ。


「外に服持ってかなかったから…別に平気でしょ、一緒にお風呂入ったこともあるんだし。」


「そうですけど!ちがっ、そうじゃなくて!裸じゃ風邪ひいちゃうので、早く服着てください!ほらこっちにお嬢様のありますから。」


そう言ってレイは、持ってきた荷物が置いてある部屋の端を示した。

木箱の上にいくつか畳まれた布が置かれ、上には、下着が雑に置いてある。


(この体、風邪ひかないんだけどな…)


ソフィーは、レイに言われた通りに、下着から順番に服を着始めた。下着の上に着るものは気分で決めた。

手元にあった、白い襟付きのシャツに袖を通し、慣れた手つきでボタンをかけ、膝より少し上くらいの丈のえんじ色のスカートを履く。

最後に椅子に座って、黒のストッキングを履いた上にブーツを履いた。


「ん、出来た。」


「はい、じゃあ食事にしましょ。」


この間まで本や魔導具が乱雑に置かれていたテーブルだったが、レイが片付けしてくれたおかげで、綺麗になり、食事に使うのに抵抗を覚えることは無くなった。


テーブルには、2人分のパンと、ハムエッグが盛られた皿がテーブルを向かい合う形で置かれていた。

中央には部屋を照らす燭台の隣にジャムの詰まった瓶がスプーンと一緒に置かれている。


「「いただきまーす!」」


それぞれ食べ始めた。

思い返せば、逃げ出して以来、食事を摂ったのが、これが初めてだった。


ソフィーがジャムを塗りたくったパンをかじっていると、フォークを皿に置いてレイが話しかけてきた。


「お嬢様、村で何か買いたい物はありますか?」


ソフィーは、噛んでいたパンを飲み込んで、口を開く。


「えっと…背中のあいた服が欲しい…後、眼帯が欲しい…丈夫な革のやつ。」


目を覆っている布は、外せないため、付けたまま水浴びした事で、食卓に座った今も、ポタポタと水が滴っている。


「えっと…眼帯は分かるんですが…背中のあいた服って…寒くないですか?」


「理由は…そのうち教える…もしだったら、自分で探すよ。レイは、何買うの?」


理由は無論、翼を出すのに干渉しないからだ。


「私は、この部屋を一通り確認して、これから生活していく上で必要になりそうな物を書き留めたので、村で揃えられるだけ揃えようかと思ってます。」


「そう…分かった。」


「お…お嬢様…?」


「そ、そのお嬢様って…もうやめようよ。もうあの屋敷にも帰れるわけじゃない…とーさまとかーさまも居ないんだし。レイがここを出ていったっ…」


大きな音を立てて、レイが立ち上がって、ソフィーの方を睨み、ほっぺをつねった。


「んぐっ、なになになに?」


「私が、嫌々一緒に来たと思ってるんですか?勘違いしないでください!私にとって、ソフィーお嬢様は、仕事として仕える対象以上の大事な存在なんです!分かりましたか?」


「わ…分かった…ごめんなさい…」


「すみません、私も強く言い過ぎました。」


「いっ…良いよ…大丈夫…私が悪いし、どうせなら、このくらいはっきり言ってくれた方が、私は良いかも。これからもいっぱい間違えると思うしさ…」


「お嬢様…辛気臭いので、とりあえず、この話は終わりにしましょっ、食べ終わったら準備して、村の方に行きましょ。」


その後は、会話をしながらもテキパキと食事を口に運び、2人とも満足して、食事を終えた。


「では、そろそろ、準備してきます。」


そう言って、レイは、椅子から立ち上がり、流しに皿を運んだ。


「うん、先に外で待ってる。」


「分かりました。ところでお嬢様、村への道はご存知ですか?」


“我が知っている。大丈夫だ。”


「えっと…うん、知ってるよ。大丈夫。先に外で待ってるね。」


(アガレス、道案内よろしく。)


“主は知らないからな…仕方あるまい…”



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



住処から、外に出たソフィーは、水浴びしていた時に、タオルを置いていた岩に座って、空を眺めながらレイを待っていた。


生い茂る緑の木の葉の隙間から青空が覗いて見える。

鳥のさえずり、遠くからはオオカミの遠吠えが聞こえる。


「まさに田舎って感じね…」


「私たちが暮らしてたのも、十分田舎でしたよ?」


準備を終えたレイが、隣に並んでソフィーの顔を見て微笑んだ。

着ているのは普段と変わらないメイド服の上に茶色いマントだが、腰には、準備してきた荷物を入れてたと予想される茶色い革のアイテムボックスが下げられている。


「確かに…こことはまた違う雰囲気だけどね。」


「確かに、屋敷の周りはこんなに山に囲まれてなかったですもんね。」


ソフィーが生まれた頃から過ごしていた屋敷の周りが木々が生い茂る森林だったのに対し、今いるのは、ゴツゴツとした山肌に木々が生えている、気候も変わりやすい、山脈だ。


「さてと、お嬢様そろそろ行きましょう!」


「うん。」


そうして2人は並んで麓の村に向かって歩き始めた。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



山を下ってしばらく経った。


(良いなぁ…里に住んでた頃を思い出すな…)


ソフィーは、当たりを見渡して、昔の生活を懐かしんだ。


「どうしたんですか、お嬢様?」


「ううん、何か、良いなって…」


レイは、少し驚いた表情をしたが、何となく言っている意味を察した。


「そうですねっ」


(良かった。連れ出して正解でしたね。昨日より元気そうですね。)


「ねぇ、レイ。」


「ん?どうしました?」


「ご飯の時は酷いこと言っちゃったけどさ、なんか、このまま2人でのんびり生活出来たら良いなって…」


(あの住処でのんびり過ごして、色々狩ったりして生計立てて…悪くないかもな…)


「ふふふっ、そうですねっ」


そう言ってレイは逃亡以来、中々笑えなくなった、ソフィーの分まで更に微笑んだ。


「あっ、そうだ…村で屋台あったら何か買って。」


「はいはい、分かりましたよ〜」




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




体感だと、1時間くらい歩いて、やっと村の入口が見えてきた。

山道で、本来なら疲労困憊かもしれないが、今のソフィーと、獣人という元から高いポテンシャルの肉体を持つレイには、50m走を全力で走った程度しか疲れていなかった。


既に、遠くから、何軒も家が建ち並び、ガヤガヤとした声が聞こえ、屋根の煙突からは煙が立ち上っている。


「やっと、着きましたね!」


「うん…そうねっ?!?んぐっ…」


村の入口に差し掛かって、中を歩く数人の人間を見た瞬間だった。

ソフィーの胸を内側から何かが締め付ける様な感覚がして、立っていられず、膝を着いてしまった。

頭痛と目眩、耳鳴りがして、気づけば、涙まで流れ落ちた。


「お嬢様?!どうしたんですか?」


「わ…わからな…い…はぁ…はぁ…嫌だ…怖い…苦し…い…」


(アガレス、何これ…なんで…)


“分からぬ。今主の体をこちらからも調べている。少なくとも何かの攻撃では無いのは確かだ。”


「お嬢様…??」


「なんか…怖い…怖い…」


気づけば、両手を肩に当ててガクガクと震えていた。


「怖い?何がですか?」


(どういうこと?さっきまで普通だったのに…)


“主!とりあえず落ち着け!”


「お嬢様、落ち着いて深呼吸してください!あっ、お水飲みますか?」


レイは、ソフィーを支えながら、道沿いの岩に座らせて、腰のアイテムボックスから、革の水筒を取り出して、ソフィーに渡す。

それをソフィーは、震える手で落とさないように気をつけながらゆっくりと、栓を開けて、中身を口に流し込んだ。


「はぁ…はぁ…少し落ち着いたかな…」


「本当に大丈夫なんですか?」


「うん…なんとか…先に村の中入ってて…こ、ここで待ってるから…」


「えっ…でも…」


レイは、昔から心配性だった、転生時の願いのおかげで、病気や風邪にはならずにすんだ。だが、屋敷の近くを走り回って転んだり、魔物と戦って怪我は何度もして、その度にリーシャと2人がかりで何度も手当てをした。


「大丈夫…だから…買い物済ましてきて…」


「ですが…」


「良いから、行って…大丈夫だから」


これ以上言い合っても無駄と判断したのか、ため息をついて立ち上がった。


「直ぐに買い物済ませて、戻ります!そこで大人しく待っててください!くれぐれも面倒事を起こさないでくださいね!」


そう言って小走りで、村の方に走っていった。


「はぁ…」


ため息をついて両手を顔に当てる。


(もうやだ…)


“大丈夫か、主?”


(一体何なのこれ…)


“我の見立てでは、主は人間に対し、恐怖を抱いてしまったのではないだろうか…”


(つまり…パニック障害みたいな…?)


“それが何なのかはあまり分からないが、原因は主の、頭や心にあると、我は予想する。”


(私、そっち系は分からないや…精神科とかじゃなくて、普通の内科だったし…)


“ナイカ?は知らないが、とりあえず今はレイが戻るまでここで休むのが先決だろう。”


(分かった…)


……


“落ち着いたか?”


(さっきよりは平気。だけど、中には入りたくない。)


“だろうな。それより、主達が来た方向から馬車が来ているぞ。”


「えっ?!」


アガレスの言葉に反応して、思わず声を上げて、レイと並んで歩いてきた道の方向を見る。

そこには、アガレスが言った通り、1頭の馬が引く幌馬車が木を切り開いて作ったと思われる道をゆっくりと村に向かって走ってきていた。


(やばい…また変になりたくない。とりあえず…)


ソフィーは、着ていたマントのフードを深く被り、向こうからも、こちらからもお互いに見えない様にした。


(早く通り過ぎて…)


馬車の音が近づくのに比例して、ソフィーの鼓動が早くなる。


(早く…早く…)


馬車の車輪の音、馬の蹄、息遣い、様々な音がソフィーに近づく。

思わず、目を瞑って、フードを被った顔を下に向けてしまう。

その様子を御者は、怪訝な顔で一瞥したが、その後は気にせずに通り過ぎて行った。


やっと通過したのを見て、ソフィーは、顔を上げて、ほっとして、ため息をついた。


「はぁ…やっと行っt…」


「きゃあぁぁぁ!!!」


突然子どもの叫び声が聞こえ、村の方から、ソフィーの目の前に、2人の獣人の少女が駆け寄ってきた。

双子だろうか…金色に近い髪の毛に、レイより若干長い茶色の混じった、可愛らしい白いケモ耳が生えている。それぞれ、蒼と翠の瞳をし、おそろいの白いワンピースを着ていた。


「お姉ちゃん助けて!」

「変な人達が…」


翠の瞳の子が指さした方を見ると、お世辞にも優しい人とは思えない容姿をした、ソフィーよりも、身長も体格も上の男が5人、こちらに早歩きで向かってきた。


「おいごら、そこのガキどもさっさとこっちに来い。」


ドスの効いたテンプレとも言えるセリフだったが、2人は、ソフィーの背後に回って、ぴったりくっついていた。


「捕まったら、どこかに連れてかれちゃう…」


「パパとママがお仕事でいないのに…」


「そういう事か…」


もしかしたら、この助けを求めてきたのが、獣人ではなく、人間だったら、ソフィーは関わろうとしなかったのかもしれない。

裏切られたのに、再び相手を信じるというのは簡単なことでは無い。

正しい事と思ってした事が、恩を仇で返す様な形になってしまったら余計だ。

だが、自分より幼い少女が、目の前で助けを求められて何もせずその場を去れる程、ソフィーは優しさを捨てては居なかった。


「さてと…アイツらをボコせばいいのかな??」


(ごめん、レイ…面倒事起きちゃったわ。)


“はぁ…”



To Be Continued

別にロリコンって訳じゃないけど、獣人の双子の登場は、悪魔の眼を移植されるシナリオと同時期に思いついてました。

サボり魔をどうにかしたいです。

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