「虐殺と再会」
26話「虐殺と再会」
(えっ…鎌?)
“あぁ…クトル山脈の中腹にある洞窟を利用して作った住処に保管ある。それを回収して欲しい。”
(わ、分かった…方角だけ教えて。飛ぶから。)
ソフィーはまだ残っている足の痛みを堪えつつ、摩りながらゆっくりと立ち上がった。
“あぁ、方角としては…東のガイロニアと魔王領の国境付近の山脈だ。麓には100人程が暮らす村があるはずだ。今はどうか分からんが…”
(分かった…とりあえず、翼出して。)
“了解”
アガレスのその返事と共に、ソフィーの背中に、空中に現れた黒い粒子が集まり、漆黒の翼が顕現した。
既に空いていた背中の穴から生え、その翼はソフィーの意思で動いた。
(なんか…まだ違和感多いな…)
“仕方ない。闇魔力の負担も少ないし飛ぶ時は我が制御するから安心しろ”
(分かった。じゃあ行こうか。道案内よろしく。)
“分かった。記憶を頼りだが、無いよりマシだろう。”
ソフィーは地面を蹴り、飛び立った。
鳥の様に翼を上下に動かし、高度が下がらないように保つ。
特別意識しなくてもまるで、普段から使っている手足と同じように、自由に動く。
身体の一部となって、ソフィーの意志に従って羽ばたく。
ぐんぐん高度が上がって行き、気づけば、眼下には先程まで休んでいた樹海が広がっていた。
これまで出来たのは『風』を利用した飛翔よりも、ジャンプに近い縦の動きのみだった。
それが今、自由自在な動きが可能になった。
(鳥の気分ってこんな風なんだね…それより、ねぇアガレス。)
“なんだ主”
(今決まってるやる事を終えた後、私、どうしたら良いんだろ…)
“何だ、そんな事か。”
アガレスからは思っていたよりも軽い返事が返ってきた。
(そんな事って…分からないよ!こないだまで王国の魔法使いの1人だったのに…それが今じゃ、逃亡中の犯罪者で、行くあてもないんだよ!)
ソフィーは八つ当たり気味に心の内をアガレスにぶつける。
“確かにその通りだ。だが、今の主はこれまでとは違うだろ?”
(えっ?)
空を翔びながら2人は会話を続ける。
“これまでと違うというのはだな…我の力を使う事が出来る体になった今、そこらの兵士や冒険者相手では、負ける事など無いという事だ。”
(でも…出来れば傷つけたくない…)
“そう思うのは当然だ。我ら悪魔と違い、主は、先日まで人間達と共に過ごしていたのだ。”
(私の体ってもう…人間からしたら、呪われた存在だよね…)
“まぁ…そうだな…お前の内面を知らないものからしたら、エルフの姿で悪魔の力を手に入れた怪物に見えてしまうだろうな…”
(そ…そんなハッキリ言っちゃうんだね…まぁ、間違ってないけどさ…この体どうしても好きになれないな…もう嫌いだな…)
“こればかりは時間をかけるしかない。人間に見られるのが嫌なら、山奥に引きこもったっていい。これからどんな生活をしようと主の自由だ。そして、その行く道を我は共に行く。それだけは分かっていてくれ。”
(うん…しばらくは1人で過ごしたいかも…いざ会ってみたら人が怖いかもだし…傷つけそうで怖い…)
“ならそうすればいい。これからは好きにしていいんだ。阻むものが現れたら、その都度切り開いていけ。”
(うん、分かった…ありがと)
“ふっ…
(え、今笑った?)
“いや、礼を言われたのは随分久しぶりだったからな…”
(そっか…じゃあこれからは沢山言われるかもね。)
“ふっ…そうだな…それより、そろそろ山脈だ。”
そう言われて下を見下ろすと、眼下には、岩だらけのゴツゴツした山々が広がっていた。
前世は医者として多忙な毎日で、旅行など行けなかったが、恐らくこれが絶景という部類に入る事はソフィーにも理解出来た。
“よし、降下しよう。何とか思い出せるかもしれん。”
(分かった。)
そう言って、ソフィーは体を傾けて、地上に降下して行った。
見慣れない数羽の小鳥とすれ違った。
向こうも見慣れないらしく、驚いていた様子だった。
“鎌の魔力を頼りに探す。しばらくこの辺りを飛び回っていてくれ。”
(分かった。)
そう言って、ソフィーはトビが旋回するのに似た感じで、上空を飛んでアガレスの反応を待った。
数分後…
“見つけた、あの大木の所だ。”
ソフィーの脳内に、アガレスが言っていた大木のイメージが流れ込んでくる。
そのおかげで彼が言っていた大木の実際の場所を直ぐ見つけることが出来た。
(分かった、あそこね。)
山の中腹に沢山の木が生えてる中に、1つ突出して、大木が生えていた。
ソフィーは、羽ばたきながら、木の傍に慎重に着地した。
(アガレス、翼仕舞って。)
“了解。”
瞬時にソフィーの背中から生えていた翼を仕舞った。
仕舞うというよりも、闇属性の魔力で生成している物のため、粒子に消えたという方が正しいが。
(それで、どこに住処が?)
ソフィーは辺りを見回して、アガレスに尋ねる。
“後ろの岸壁の方だ。”
(こっち?何にも無いけど…)
ソフィーの目の前には黄土色の、ゴツゴツとした岩壁が広がっていた。
どう見ても家や、洞窟等があるようには見えないが…
“岩の方に、我の魔力を流してみてくれ。調節は我がする。”
(分かった。)
そう言ってソフィーは岩壁に歩み寄り、右手を伸ばして、優しく触れた。
触れた瞬間、体から少し何かが流れ出ていく感覚がした。
ソフィーの体内にある2つの魔力のタンクのうち、闇属性の魔力のタンクの蛇口を、アガレスがまだコントロールが出来ない彼女の代わりに、ほんの少し捻り、魔力を出す。
ほんの少し腕がズキっと痛み、直ぐに収まる。
痛みが収まったのと同時に、目の前に、ソフィーの身長の2倍位の赤黒い魔法陣が現れた。
そして、頑強な金属の扉が現れ、魔法陣は薄くなって消え去った。
“ようこそ我が家へ。”
(今の魔法って…)
“隠蔽魔法だ。我の魔力にのみ反応する様に設定して隠していた。元は洞窟があった場所を利用して作った住処だ。閉めれば再び作動するから安心しろ。”
(わ、分かった…)
数年間アリアの元で魔法を学んできたが、それでも知らなかった魔法だった事もあり、驚きと不安が入り混じった感情を抱えて、金属の重めの扉をゆっくりと開ける。
軋んだ音を立てながら、その扉はソフィーを中へと招き入れる。
中は、暗闇に包まれ、扉から入る光で、若干何があるのか分かった。
中央に、食卓テーブルに似た机が置かれ、歪な洞窟の壁沿いに、本棚が置かれ、怪しげな本が並んでいた。
慎重に中に入り、机の中央に置いてある燭台に、指先につけていた火を灯す。
すると、一気に部屋が明るくなる。
部屋はアリアの研究室程じゃないが、散らかっていた。
見たことの無い色の鉱石や、魔導具等もあちこちに転がっている。
洞窟を利用した空間のため床は外と同じだが、数百年放置されていたにしては綺麗な部屋だった。
奥にもう1つ木の扉が付いており、開けると、最初の部屋の3分の2程の大きさの倉庫として使っている部屋があった。
中身の分からない木箱が30個ほど置かれている。
(これ中身何?)
“魔導具や、魔物の素材が大半のはずだ。残りは空箱だったかな。主が部屋を使いたかったら、収納で仕舞えば問題ない。”
(じゃあ…)
“仕舞いたい物を意識して魔法を使うんだ。調節は我がする。”
(『収納』)
右手を木箱に向けて心の中で唱えると、手のひらから魔力が出ていく感覚があった。
木箱を赤黒い魔力が覆い、全体を包むと、手のひらに吸われて戻って行った。
(なんか、不思議な感じ…)
木箱を仕舞うのに使った右手を不思議な顔で見つめる。
“1桁の兄弟達は基本これが使えたはずだ。だが、皆何を入れていたか忘れてしまうから、出かける前や、貴重品だけ仕舞う事が多かった印象だ。”
(そうなんだ…)
“まぁ、安心しろ主。中身に関しては我が把握している。”
(そっか、それなら平気か。ありがと。)
“さてと、本題の鎌を回収するか…本棚の所だ”
(えっ…何にも無かったよ…)
本棚で長物の鎌を探す人なんて普通は居ないだろう。
“右下の、闇属性魔法操作論と背表紙に書かれた本を取り出してくれ。”
(えっ、あっ、うん…)
ソフィーはしゃがんで普段本を取り出すのと同じ動きで、背表紙の所に人差し指を掛けて、手前に引いた。
すると…
(えっ…)
本は予想以上に重く、ガコンと鈍い音がして、目の前の本棚が奥に凹み、砂を巻き込んで引きずる音を立てながら、横にズレて、隠されていた空間が現れた。
“この中だ。”
(う、うん)
最初以上に恐る恐る中に入る。
部屋の外のソフィーの後ろから薄明かりが差し込む。
隠し部屋の中は書斎に近い感じの空間だった。
勉強机に似た机が壁に向かって置かれ、その上に本が積まれている。
壁には最初の部屋と同じで本棚が並んでいる。
そして、部屋の端に宝箱に似た箱が置かれていた。
ソフィーの膝にも届かない高さの先程の木箱の半分程の箱だ。
その箱の隙間から、見えない何かが漏れているのを感じた。
“気づいたか、それだ。魔力を流せば空く。”
(うん…)
ソフィーは箱の前にしゃがみ、箱の上に手を置き、目を瞑って魔力を流すのに集中する。
数秒後、住処を隠していた魔法を解除した時と同じ感じで、魔力がほんの少しだけ手から出ていくのを感じた。
そして、小さな音でカチリと甲高い音が箱からした。
“開いたぞ。”
ソフィーは恐る恐る箱を開ける。
異世界でお決まりの宝箱の魔物のミ〇ックじゃないか不安だったが…
何も起きずに開いた。
古い蝶番が軋みながら、開く。
箱の中には、手のひらサイズの鉱石が幾つか入っていた。薄い灰色の表面が、時々流れるように鮮やかに虹色に近い色に輝く。
(これって…)
“オリハルコンだ。そのうち武器を作るのに使っていいぞ。”
(う、うん…)
そして、オリハルコンの中に一つだけ異質な物があった。
オリハルコンに隠れて見えなかったので、ソフィーは箱の中に手を突っ込んで気になったのを取り出した。
“それが目的の物だ。”
(えっ…でもこれって…)
そもそも考え直せば、宝箱自体が、鎌なんて入るサイズじゃなかった。
その時点でおかしかった。
しかし、ソフィーが取り出したそれは、アガレスと似た魔力を発していた。
“それが、ギルガゼイヤ様から頂いた、邪器、地獄之炎鎌だ。”
ソフィーは、壁のどこかに立てかけてあるか、或いは宝箱自体がアイテムボックス的な物で、そのまま入っていると思っていた。
が、アガレスが言ったものは、小石ほどの大きさの歪な形の赤い宝石であった。
人差し指と親指で宝石をつまんで、左眼に近づけてじっと見つめる。
だが、内にはオリハルコンなんて比にならない量の魔力を秘めていた。
(こんな宝石みたいなのが?)
“普段はその見た目だが、使う時、自身の魔力を流すと、瘴気が鎌へと実体化する。”
(魔王が使ってた魔剣も似た感じだったよね…)
“あぁ、だが、今のお前には使うにはまだ負担が大きい。まずは身につけて、武器の魔力に慣れるのが先決だろう。鎌の使い方も今度教える。”
(じゃあ、何かアクセサリーの金具見たいの買わないとだね。)
“あぁ、とりあえず主、無くしたり盗まれたりしないように『収納』しておいた方が良い。”
(うん…)
今度は先程よりも一瞬だった。
手のひらの上の小石は直ぐに手のひらから出た魔力によって吸い込まれて行った。
“さてと、次は、主の番だったな。実家のメイドか…”
(うん…レイを助けないと…)
“転移魔法で一瞬で行く。発動は我が行うから、主は実家を思い浮かべてくれ。”
(うん…)
返事をしてソフィーは、数年前まで両親と暮らしていた、豊かな自然に囲まれた家を頭の中で、思い出す。
だが、今の不安定な精神状態の彼女は、家の事よりも、自分が原因で亡くなった両親の事を思い出して、後悔してしまい、心を強くキュッと締め付けられるのを感じた。
“流されるな、後でいくらでも話を聞いてやる。今は家の事を思い出すんだ主。”
アガレスの言葉で、我に返ったソフィーは再び家の事を思い出すことに集中した。
森林の中のオアシスのように建つ館、様々な野菜が植えられた庭、蔦が伸びている外壁、1日のほとんどを、時にはそのまま寝落ちまでしてしまった大好きな本で埋め尽くされた部屋。4人で共に過ごした居間と、食卓。
今思い出すと、彼女にとって本当にかけがえのない時間だった。
(私が…自ら幸せを…壊してしまった…)
気づくと、彼女の左眼から涙が頬を伝い滴り落ちていた。
“出来たぞ、転移魔法発動。”
その言葉に対し、ソフィーは何も返事しなかった。
ただ、ボロボロの灰色のマントのフードを頭に被った。
足元に黒い魔法陣が現れ、ソフィーの身体が魔力の粒子に包まれて、魔法陣と共にその場から消えた。
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転移魔法、太古の昔から存在する魔法で、本人の記憶にある場所、或いは視界に入っている場所に瞬時に移動出来る魔法だ。
使用者の記憶や視覚に依存しがちだが、戦闘や様々な移動等、汎用性の高さで、昔から使用されていたが、長い年月の中で、その魔法は失われ、それに関する書籍も無くなってしまった。
現代で使えるのは、魔王ギルガゼイヤの配下の悪魔のみだったが…
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鎌を回収した住処から、ソフィーの実家まで転移するのにかかる時間はほんの一瞬だった。
だが、ソフィーとアガレスは一つだけ見落としていた。
それは、脳内イメージで転移する場合、転移先の状況がこちら側から見ることが出来ない事だ。
そして、今回まさにその状況だった。
ソフィーにとって初めての転移魔法だったが、アガレスの制御のおかげで無事に実家に着いたが、なんと。ソフィーの目の前には、ガイロニアの王国軍の兵士が建っていた。
その後ろには、火の手の上がった、ソフィーの実家があった。
周囲には焦げ臭い匂いが広がっている。
1番近くに居た兵士が直ぐにソフィーに気づいた。
兵士達にとって、完全に奇襲攻撃だった。
「なっ、お前!エルフ…」
その兵士は、言葉を言い切る前に、眉間に氷の棘が突き刺さっていた。
半悪魔になって以降の氷はやはり、中心が芯のように黒くなっていた。
最初の兵士の声で、直ぐに周りの兵士もソフィーの存在に気づいた。
1人と分かったのもあり、ゴリ押しでこちらに迫る。
“良いか、絶対に容赦するな、その甘えが、主、或いは助けに来たメイドの命に関わる可能性がある。”
(そんなの…人を殺すのなんて…王都で既にしたんだから、大丈夫。)
“なら良いが…”
(アガレスは、魔力探知でレイを探して。)
“了解”
2人は脳内で作戦会議を終え、ソフィーは兵士の前に飛び出した。
1人目の兵士の振り下ろされた剣を素早く交わし、手のひらから氷の棘を生成し、それを兵士の顔面に押し当て、グサリと突き刺す。
ほんの少し痙攣して兵士は動かなくなる。
2人目の攻撃をかわしていると、アガレスが話しかけてきた。
“見つけた。屋敷の2階だ。兵士は全員で15人、庭に10人、館の中にレイを追っているのが5人だ。”
(なんで、全員で追わないんだろ。)
ソフィーは素朴な疑問を覚える。
確かにその通りだ。確実に捕縛するなら、全員で追うのが先決だ。
“おそらく、サボりか何かだろう。1人捕まえるのに15人全員動かなくても良いだろうと上官が判断し、下っ端を中に行かせたんだろう。”
(そっか…)
“だが、決して油断するな、殺るぞ。”
(うん。)
兵士達は、ソフィーが手練と認識したのか、1人ずつ順番に来ていたのが、打って変わって一斉にソフィーに向かってきた。
それも、ソフィーから見て右側から。
“ふっ…こいつら主が右眼が見えてないと思ってるぞ。”
(まぁ、自然な判断よね。)
どう倒すか数秒考えたが、ソフィーは1番手っ取り早い手段を選んだ。
(アガレス、全員の顔をロックオン。)
“了解”
「了解」という言葉から1秒も経たずに、ソフィーの目の前に10人の兵士が転がっていた。
全員の氷の突き刺さった顔面からどんどん血が流れ出し、地面に染み込む。
(あっけないね。)
“相手側も死を覚える暇も無いな…主、屋敷に入ろう。”
(その前に…)
ソフィーは両手を、燃えている方に向ける。
すると、手のひらがホースの先のようになり、水が勢いよく飛び出した。
30秒程で全て鎮火した。
(行こう…)
“あぁ”
ソフィーは、『周辺探知』と魔力探知、両方を使いながら館の方に走る。
猫族のレイは人間よりも魔力があるため、兵士とは直ぐに区別がつく。
レイは2階の窓際に5人の兵士に追い詰められていた。
(アガレス、翼!)
“了解”
1秒もかからずに、背中に漆黒の翼が現れ、地面から飛び上がり、レイの近くの窓に迫る。
外からも、茶色い髪と耳の女性が、外で殺したのと同じ装備の兵士に追い詰められているのが、視認できた。
「レイ!伏せて!!」
詳しく説明する暇は無い。
簡潔に、そして、彼女に怪我をさせないために、彼女に叫ぶ。
彼女の声に反応してレイは、窓の方に振り返り、すぐさま床に伏せる。
ソフィーは、背中の翼を身体の前面に持って来て、窓ガラスから顔を守る体勢を取る。
勢いよく、窓ガラスと木枠を破壊し、甲高い音を立てながら、館の中に転がり込む。
前転を2回したが、直ぐに起き上がり、目の前の兵士に向かう。
(『氷柱短剣』)
ソフィーの右手に、『氷柱剣』の半分も満たない長さの短剣が生成される。
やはり中心には棘と同じで黒い芯がある。
眼を手に入れるまでと明らかに違う事に疑問に覚えたが、今はそれどころでは無い。
すぐさま、目の前の兵士の腹部にその短剣を刺そうとする。
ミスリルと、鉄の合金の鎧相手に、氷で出来た短剣では勝てないはずだが…
短剣は、クッションに突き刺すかの様に、兵士の腹部に刺さった。
直ぐに、腹部から引き抜いた事で、返り血がソフィーの既にボロボロの様々な原因で汚れた服に飛び散る。
1人目に刺したタイミングで横から斬りかかってきた2人目に対しては、左手を顔に向け、氷の棘を発射し、空中でその兵士は、回避する暇もなく絶命した。
残りの3人は30秒もかからずに最初の2人を片付けたソフィーに警戒し、距離を取って向き合う。
どうやって倒そうか思案していると、足元に居た1人目の兵士が腹部の激痛に悶えながらソフィーの右足を掴んだ。
そのタイミングで残りの3人がソフィーに襲いかかる。
「チッ…」
ソフィーは無意識に舌打ちしてしまい、右足を掴んだ兵士を振り払って、そのまま顔面を蹴り飛ばす。
壁に後頭部をぶつけ、一瞬呻いた後、息絶えた。
そのまま、3人目の兵士が振り下ろした剣を何も付けていない左手で、掴む。
無論、傷がつかない訳が無く、切れた手のひらから床に若干黒い血が滴り落ちる。
が、ソフィーは気にも止めず、相手の首にまだ血の滴る短剣を、勢いよく突き刺す。
兵士は、痛みに耐えられず、剣を手放し、甲高い音を立てて床に落とす。
両手で鮮血が滴る首を抑えながら床に倒れ、呻く。
気道に穴が空いたのか、ヒューヒューと息の漏れる音がした。
最後は、空中に出した氷の棘を胸に突き刺してトドメを刺した。
残忍なソフィーの殺り方を目の当たりにして、残りの2人はどんどん顔が青ざめて行く。
まだ、若い兵士で、ソフィーとも年齢はさほど変わらなそうだ。
だからこそ、余計に恐怖しただろう。
同い年くらいの容姿の女の子がこんなにも残忍な殺しをするのかと…こんなにも強いのかと。
フードの中から不気味に1つ赤く光る目が更に恐怖を掻き立てた。
ソフィーがゆっくりと一歩、一歩2人の方へ歩み寄ると、恐ろしさで叫びながら踵を返して逃げようとする。
“主の事を目撃されてしまった。逃がさない方が良いだろう。”
(うん。そのつもり。)
そう言って、ソフィーは、まだ傷口の塞がっていない左手を、背を向けて逃げる2人の兵士に向ける。
氷の棘が空中に現れて、1人は後頭部に、もう1人は、右膝裏に突き刺さった。
後頭部を刺された方は一瞬で絶命したが、もう1人は、膝裏を抑えて、呻きながら転がっている。
ソフィーは拾った短剣を、唯一生き残った兵士に向ける。
「答えて、誰の差し金?」
「い、い、言わない…い、言ってたまるか…!」
「はぁ…」
ソフィーは溜め息をついて、短剣を兵士の肩に突き刺した。
叫び声を上げながら、今度は肩を抑える。傷口から、血が流れる。
「答えないなら…殺す…」
「ひぃ!どうか命だけは…」
「じゃあ、答えて、誰の命令でこの屋敷に来たの?」
「だ…だ…ダンタリオ…」
最後まで言い終えることなく、兵士は口から泡を吹いてソフィーの目の前で息絶えた。
“ちっ…奴か…”
アガレスが舌打ちをする。
(知ってるの?)
“後で話す。”
(分かった。)
ソフィーは魔力探知を用いてこれ以上敵が居ないか確認をする。
そして、敵の殲滅を確認した。
「ふぅ…」
敵を殲滅し、ほっとして一息つく。
ふと、左手を見ると、まだ傷口が開いたままだった。
“手のひらに魔力を集中しろ。そうすれば治る。”
(うん。)
ソフィーは目を閉じて、言われた通りに魔力を左手に集める。
数秒後、ゆっくりと目を開けると、先程まで赤黒い血が出ていた傷口は、ほんの少しの痛み諸共消え去った。
しかし、既に付いていた血の汚れまでは消えなかったので、マントの袖に擦って拭った。
その時だった。
「お、お嬢様…?」
その声に反応してソフィーは後ろに振り向いた。
そこには、薄汚れたメイド服の茶髪で茶色い耳の蒼い瞳の獣人が、兵士が居なくなってほっとした様な、床の死体や、先程の残虐な殺しに怖がっている様な、複雑そうな顔をして、ソフィーの方を向いて立っていた。
そして、彼女が、ソフィーが生まれる前から、身辺の世話を初め、様々な事を通して、ベネット家のために仕えてくれた女性だった。
「レイ…」
ほっとして安心したからか、裏切られた後、初めて、心を許した人に会えたからなのか、自然とソフィーの左眼からは大粒の涙が溢れていた。
To Be Continued
獣人メイドって良いよな…なんか良いよな(語彙力)




