「新たな世界」
ここから異世界です!
2話 「新たな世界」
「チュンチュン」
どのくらい寝ていたのだろうか。どこからか初めて聞く小鳥の鳴き声が聞こえる。都会暮らしだった頃とは比べ物にならないくらい空気が美味しい。車の音や、騒がしい人の声もしなくて、息苦しさも全く感じなくて心地良い。
毎朝目を覚ますように、ゆっくりと私は目を開ける。
(ここは、どこ?森の中…?ってあ!そうだ!)
「あ゛っ」
その時、前世の記憶、女神との対話の記憶全てが彼女の頭の中になだれ込んで来た。
少しだけ頭がズキっとしたが、それ以外は何も問題は無かった。
そして、辺りを見回し、水辺が無いか探した。
(自分の顔が見たい!早く、早く見たい!)
近くに小さな池があった。
莉果は走って行き、直ぐに水辺に顔を近づけた。そして
「え…めっちゃ可愛い」
4、5歳だろうか、年齢的には、前世では幼稚園に通っていそうなくらいの年齢の美少女の顔が水辺に反射して写っていた。
白くてすべすべの肌、水色の澄んだ瞳。サラサラの綺麗な白髪の髪。
そして髪から突き出た横に尖った耳があった。要望通りのエルフであった。
(エ、エルフだ…本当にエルフだ、本当に美人だ。)
服装も初めて見るものだった。レースのヒラヒラが付いていて、ドレスみたいでとても可愛らしいが、動きやすい服だった。
(うわ、この服高そう…)
そんな自分の容姿にうっとりしていたのも束の間。
「バシャッ!!」
突如池から、魚が飛び出して来た。体の大きさに対して見たことも無いくらい大きな牙が生えていた。
「きゃぁぁぁあ!」
慌てて池から離れ、すんでのところで魚からかわすことが出来た。
(流石異世界ってところね…。やはり、魔物も居るのね。魔法があるなら当然よね。女神は何も言ってなかったけど。まぁ、全て知っててもつまんないよね。)
「大丈夫かぁ〜?!叫び声が聞こえたぞ!」
叫びながら超イケメンの男のエルフが駆け寄ってきた。前世の記憶が戻る前の4、5年のエルフの記憶のおかげで誰なのか直ぐにわかった。そしてこの世界での私の名前も。
「パパァーー!」
とその男に抱きついた。
そうこのイケメンが莉果の新しい父親であった。
(待って待ってお父さん超イケメンなんだけど、うち大人だったら惚れてたかも)
「ソフィー、ダメじゃないか、この森には魔物だって居るんだぞ?好きに散歩するのは良いが、パパの目が届かない所に行っちゃダメだぞ。気をつけなさい。」
ソフィー・ベネット、これが莉果の新しい名前だ。
(新しい名前慣れるの時間かかりそうだな。呼ばれても気づけなさそうだな)
「はーい、わかりましたー。」
「うむ、良い返事だな。じゃあ家に帰ろうか。」
そう言って私を抱っこして森を歩いて行った。元社会人からしたら恥ずかしさしか無いが、それでも、ほっとして、どこか安心するところがあった。
(あ、転生したらしたい事があったんだ!)
「ねね、パパ降ろして!もう離れないから。」
そう言って降ろして貰ってから、私は父親の周りを無我夢中で走り回った。たくさん走り回った。
体が弱く、体育も見学しか出来なかった前世からしたら想像も出来ない事だった。
(あぁ、私今、走ってる…走ってる!!)
「どうしたんだ、急に走り出して。また魔物に襲われるし、変な所に行くなよ?」
「うん、分かってるよパパ。だって走るのが初めt、ゴホン、とっても楽しいんだもん!」
(あぶな、走り回るの初めてって言いそうになっちゃったわ。流石にまだ転生した事を言うには早い気がするな…)
「そうか、そうか。だけど、転ばないようにな。いくら回復魔法があると言っても転んだら最初は痛いんだからな?」
「はーい!ねぇパパ!屋敷までかけっこしない?」
「おっ?この俺と勝負する気かー?良いだろう、行くぞ!!」
そう言って親子のかけっこが開始された。
前世だったら幼い子どもが、大の大人にかけっこで勝てるわけない。
だが、莉果、いやソフィー・ベネットは違っていた。
(私は使うのは初めてだけど、記憶が戻る前に教わってたみたいだから大丈夫よね)
そして、ソフィーは覚悟を決めて
『身体強化』
心の中でその言葉を唱えた瞬間、彼女は一気に加速し始めた。
(うわ、やっば速、これ前世の陸上選手よりも早いんじゃないかな。)
(走りながら、自分の記憶を整理しようかな。屋敷に戻ってから変に疑われるのも嫌だし)
私の名前は、ソフィー・ベネット、前世の記憶を持って転生した、代々エルフの里に暮らす一家の娘だ。
私が生まれた家は、代々魔力が強い血筋らしく、このエルフの里があるガイロニア王国という国のために仕える一家だ。
領内で暮らす事を許してもらう代わりに、長年、その力を国のために使ってきたんだとか。
父も母も今まで、強力な魔物や近隣国と戦う事になった時には、国のために戦ってきた。
まぁ、今は時々強い魔物が現れるくらいでかなり平和だ。
魔王も居るらしいけど、今のところは、人間には手を出して来ないらしい。
だから、両親も時々王都に行くくらいで、今は、ほとんどの時間をエルフの里で過ごしている。
ちなみに私もちゃんと魔力が強い血筋を受け継いでいる…どころか、超強かった!
生まれた瞬間魔力測定をしたら一族最強の魔力だったそう。後々両親が教えてくれた。
そんな家庭でソフィーは、幼い頃からの両親によって、少しずつ魔法の教育を受けながら成長し、無属性、水、炎、風、土の6つ中5つの属性の魔法を使う事が出来る(後1つの属性は後々)
一般的には扱えるのは2、3種類の属性らしい。
ちなみに私が好きなのは水魔法を活用した氷魔法。
理由は簡単、綺麗だから!!!
それに便利だ。夏場は重宝する。涼しいし、気軽にかき氷作れるし。
ちなみに、先程の『身体強化』は自身に付与する無属性魔法。
戦闘に限らず様々な場面で使えるのでこの世界では重宝しているらしい。
そんなこんなで父親を置き去りして、突っ走っていたら屋敷が見えて来た。
(あれ、そーいえば、この魔法ってどうやったら止まるんだっけ?)
肝心の大事な事を思い出せていなかった。
(やばい、どーしよ、どーしよ)
目の前には屋敷の塀が迫っていた。
(あっ、そうだ!)
そして、ソフィーは再び心で念じ、両手を正面に突き出した。
『風』
次の瞬間手のひらから風が吹き出した。
(とまってぇぇぇええ!)
目の前に塀が迫る。
「あぁぁああ!」
(私がぶつかるのはいいけど、塀壊したら怒られちゃうぅ)
更に両手に魔力を注ぎ、風を強めた。
そしてやっと減速し、停止した。
「はぁ…はぁ…」
魔法を使用して少し息が上がってしまった。
(良かった何も壊さずに済んだ)
実感は無いが、記憶の中には魔法で色々やらかしたのがあったのだ。
目の前には、レンガ造りの屋敷があった。庭にはたくさんの草木が植えられ、良く手入れされている様子だった。
(前世の昔の王様の宮殿程じゃないけど、素敵な屋敷ね、ここがこれからの私のお家なのね。)
自然と頬が緩んでいたのもつかの間。
「もぉーまた無茶したわねソフィー!」
上の方から女性の声がした。視線を上げるとテラスがあり、そこには大人の綺麗なエルフが眉間にしわを寄せて立っていた。そう彼女はソフィーの母親、リーシャだ。
「直接見てはいなかったけど、魔力探知で全部バレバレよ!魔法は便利だけど、ちゃんと使い方に気をつけなさい!怪我したらどーするの!」
(こーゆー時は多分素直に謝るのが正解だな。)
「はい、ごめんなさいママ。次からは気をつけます。」
「はい良く言えました。今そっちに行くわね。」
そう言うとリーシャは、ベランダからふわっと飛び立ち、そのままゆっくりとソフィーのすぐ近くに着地する。
「あなたのその類まれな魔力は本当に素晴らしいです。ですが、まだ、魔力にあなたの体が追いつけていない部分がたくさんあります。絶対に魔法の使い方は間違えてはいけませんよ?前に教えたことを覚えていますか?」
「はい、ママ、魔法は、この世界とこの国と人々のためにです!」
(良かった、頭の中から直ぐに出てきた)
「はい、よく出来ましたね」
リーシャはソフィーの頭を撫でる。
「ふぅ、やっと追いついた…」
そう言いながら、先程のソフィー以上に息の上がった父親がやって来た。
父親の名前は、イヴァン・ベネット、魔法だけでなく、剣や弓矢にも長けた、ベネット家の大黒柱だ。
「俺も『身体強化』したはずなんだがな…ソフィーには勝てんな。」
「えへへ、私の方が速いもん。」
「かけっこするのは好きにしていいですが、魔力の制御に気をつけなさい。」
「はー…」
元気に返事をしようとしたその時だった。
突如強力な魔力のオーラを感じ取った。
一気に全員の表情が固くなる。
(え、何これ、絶対やばいでしょ。)
(とりあえず、周りの状況とか、どこに何が居るのかとか知りたいな。)
幸い、この状況に相応しい魔法が存在した。
『周辺探知』
一気に周囲の情報が頭の中になだれ込んで来た。
魔力のオーラの正体は大きなクマの魔物だった。近くに馬車と人が4人居る。武装している人も居るが、勝てるか分からない。
考え込んで時間を無駄にしている場合では無かった。
『身体強化』
思念でそれだけ唱えて魔物がいる方向に飛び出して行った。
「ソフィー待て!1人で…」
イヴァンがその言葉を言い終わる時には既にソフィーは居なかった。
「1人じゃ流石にやばい。リーシャ!」
「えぇ、行きましょう。」
『身体強化』
2人ともソフィーと同じ魔法を自身に付与し、彼女を追って走り出した。
「レイ!屋敷の事は任せたわ!結界は貼ってあるけど、気を抜かないでね!」
リーシャがレイと呼んだのは、この屋敷のメイドだ。可愛らしい耳と尻尾がある。猫族の女性だ。ソフィーがまだ産まれる前の頃、孤児で行き場を失っていた所を両親が助けたのだ。自分を救ってくれた2人に恩を感じ、成長した今は、メイドとして仕えている。
「かしこまりました。旦那様、奥様。お気を付けて。」
と、お辞儀をして2人を見送った。
一方、ソフィーは森の中を走りながら不安に襲われていた。
(どうしよ。かっこよくパパとママの前を飛び出して行ったのはいいけど、クマとなんか戦うの初めてだよ…記憶によるとウサギとか小さめの魔物とは戦った事あるらしいけど。)
「えぇい!今更後になんて引けるわけないでしょ!」
と自分に言い聞かせ奮い立たせた。
「あっ」
奥にクマの姿が見えた。幸いにもこちらに背中を向けている。
(よし、このまま、パパとママから教わったこの魔法で)
そして心の中で、魔法を唱えた
『氷柱剣』
その瞬間ソフィーの右手から氷で出来た一振の剣が生成された。大きさも彼女の体に丁度あっている。
(この魔法、綺麗だし、便利だけど、持つと冷たいんだよな…何か新しい使い方考えないとな。)
そのままクマの首に向かって斬りつける
「おりゃぁぁああ!!」
確かにクマに命中した、首からは血が出た。その痛みでクマは大きく吠えた。
そのままクマは絶命してくれたら良かったが…
「ちっ、浅い!」
首に斬りつけれたのは良かったが、浅く、即死とはならなかった。
ソフィーは体制を立て直して、もう一度攻撃しようとしたが、
「あっ、やば…」
攻撃するのに集中していたあまり『身体強化』の方の制御を怠り、地面から突き出ていた石につまづいて転んでしまい、そのまま近くの木の根元までゴロゴロと転がってしまった。
「痛たた…ってあっ」
頭を抑えながら目の前を見るとそこには先程斬りつけた事で怒っているクマが仁王立ちしていた。そして、ソフィーに手を大きく振りかざした
(あぁ、もしかして、新しい人生もう終わり?流石に早くない?まぁ魔法制御怠ったうちに問題あるけど…。女神様、この命無駄にしてしまいごめんなさい。)
ブルブルと震えて、恐怖でソフィーは目を瞑ってしまう。
「グワァア、クワァァ」
「えっ…」
薄らと目を開けると、クマの胸から剣が突き出ていた。傷口から血が噴き出し、ソフィーにも降りかかる。
「うわ、気持ち悪い。」
そのまま、クマは目の前に倒れて動かなくなった。
(あぁ、助かった…でも誰が?)
「大丈夫だったかい?」
混乱しているソフィーに1人の少年が声をかけてきた。
その姿にソフィーは目をまん丸にした。
そこには、高級そうな防具と、先程、クマに突き刺した剣を手にした、自分とさほど変わらなそうな年の美少年が立っていた。
「え、えぇ大丈夫よ。この血は全部このクマのだから。」
「そうか、はぁ〜良かった〜」
少年自身も怖かったのかへなへなとその場に座り込んでしまった。
その時、
「勇者様〜」 「王子〜」
等と、様々な名前で呼びながら数人の大人が駆け寄って来るのが見えた。
ソフィーは、一瞬頭が真っ白になり
「えっ…ゆ、勇者?」
少年は立ち上がり言った。
「おう!俺が未来の最強の勇者、ジークフリート・ガイロニアだ!」
その言葉にソフィーは呆然と見つめるのであった。
To Be Continued
読んでくださり、ありがとうございます!人名や魔法の名前や設定を考えるのが本当に大変ですね。有名な作者さん達はどうやって決めてるんだろ…