二人(?)の格闘王
「こ、これは。」
現れたキックボクサーは・・・・、そのいわゆるカンガルーでした。
たしかにボクは、カンガルーについて聞いたことがあります。
カンガルーがサンドバッグを叩き、ボクシングをするという事を・・・・。
カンガルーがスタスタと歩いています。
その動物らしからぬ動きに、僕はドキドキとしていました。
そしてカンガルーは、サンドバッグの前に立ちました。
「おお・・・・。」
そのカンガルーは両腕を構え、ファイティングポーズをとっていました。
これから始まるのでしょう・・・。
このカンガルーのサンドバッグを叩く、トレーニング・ショーが・・・。
しかし・・・・。
~~~~ ピッ ピツ ~~~~
==== ガクッ ====
僕は拍子抜けをしました。
何故ならカンガルーはサンドバッグには向かわずに、いきなりラジオ体操に似た感じの準備体操を始めたのですから。
~~~~ クイッ クイッ ~~~~
「・・・・・。」
その小さな腕を上げ、人間じみた動作をしています。
でもカンガルーは、カンガルーです。
どこまでいっても、人間を同レベルの動作までには達しません。
「ん・・・。」
カンガルーの動作が止まりました。
やっと始まるのでしょうか。
==== ビシイッ バシイッ ====
サンドバッグが激しき音をたてています。
そのカンガルーはハメていたグローブで、サンドバッグにパンチ・キックを放っていました。
それはとても流暢なるアクションでした。
まさに噂にたがわない、一人のボクサーなのです。
確かに凄いです。
もしこのカンガルーが人間に生まれていたなら、きっと立派なプロボクサーになっていたことでしょう。
しかしこのカンガルーのアクションは、それだけにとどまらなかったのです。
「おっ。」
今までとは明らかに違う動きを、カンガルーは始めていました。
===== ガシッ =====
「う?」
僕は思わず疑問形の声を漏らしました。
それは打撃系の動作では無かったからなのです。
それはいわゆる組技系の動き・・・・・。
カンガルーはサンドバッグを抱え込みました。
それはまるで、人間の首を抱え込んでいるかの如くであった。
その小さな両腕でガッチリとサンドバッグをキャッチしています。
==== ズコン ズコン ====
そしてサンドバッグに、自分の膝をたたき込んでいるのです。
こ、これはまさに首相撲(※)・・・なのです。
(※)首相撲・・・格闘技の技術であり、相手を掴んでコントロールし、膝や肘、時には相手を転ばす技術です。
その様子は、まるでキックボクサーそのものだったのです。
僕は想像したのです。
もしもこの中に自分が入ったら、このカンガルーにサンドバッグにされるのではないでしょうか。
==== ゾクゾク ====
そんな事を考えるだけで、僕の背筋は凍り付いたのです。
もうこれだけで、このカンガルーを観察するのは十分でした。
しかしこのショーは、それだけでは終わらなかったのでした。
いえ、むしろ盛り上がるのは、これからなのでした。
「おわっ!!」
僕は思わず、驚愕の声を上げたのでした。
このカンガルーの傍に、ある人が現れたのです。
その人物は、動物園の職員とかでは無かったのでした。
ありきたりな状況では、僕が驚くはずはありません。
だからその人物は、それなりに驚嘆に値するのです。
「・・・・・。」
この人は服の上からでもわかるくらいの、屈強な肉体を持っているのです。
まさにこのカンガルーが、カンガルー格闘王としたら・・・、この人は人間界の格闘王といえるのではないでしょうか。
しかもこの人物を、僕は知っているのでした。
この人は世界的な有名人なのです。
この人の名は、ジャッカー・チン、中国系アメリカ人のカンフーアクションスターなのでした。
しかし何故この人が、此処に・・・・。
疑問は深まる一方なのでした。
しかし、そんな僕を差し置いて、事態は進行してゆくのでした。
「よし、始まるぞ。」
ヒートが期待をして様な眼差しで、カンガルーとアクションスターを見つめていました。
(な、なんだ・・・。)
「うおっ!」
またしても僕は、驚嘆の声を上げてしまいました。
それも仕方が無いのです。
==== ガシッ ガッシ ====
何故ならジャッカー・チンとカンガルーが、いきなりスパーリングを始めたのです。
腕と腕、脚と脚が交わり合います。
==== シュバ シュババ ====
速い・・・、とても速いのです。
二人(?)の掛け合い、攻防は非常に目まぐるしく、とても自分の目では追えないのです。
しかし・・・。
「しかっり見ようよ。」
ヒートが呟きました。
その一言で、ボクはハッと気が付いたのです。
今日ヒートは、ただ単に僕達を遊びに誘ったのでは無かったのです。
彼は動体視力を鍛えるために、わざわざここを選んだのでしょう。
それが分かった僕は、必死に二人(?)の格闘を目で追っていたのでした。
==== 見える 見えるぞ ====
次第に僕は見えてきたのです。
この二人(?)のアクションが・・・・。
そんな僕とは関係なく、二人(?)の格闘王は鎬を削っていたのでした。




