第六話∞最高で最悪の
お久しぶりです。
長らく書いていなかったのでキャラが絶対変わってるw
「ただいま」
◇◇◇
今日は特別な日だ。
バークレイ家にとっては、とてもとても特別な日。
良い意味ではない。
その証拠に、未だ変わらぬこの屋敷の空気はどんよりとしており、まるで葬式のようにじめりとしている。
ケインはそれが嫌いだった。
あの日以来、毎年毎年これが続けられている。
もう飽きた…………、ケインはそう言いたいのが山々である。
だが、そんな事言える筈がない。
ケインも同じく、その日だけは悲しそうに眉をしかめるのだ。
"アイツ"が眠った日だから。
───数刻前
「ケイン、どうした?」
「何がですか」
場所は『ミューズ魔法学園』の生徒会室。
ミューズ魔法学園は、ミューズ王国の最大にして最高の魔法学校。都市の近くに位置していて、学園都市となっている。
ケインはそこの高等部二年生で通っており、生徒会書記という大役を担っていた。
「今日は珍しくボーッとしてるぞ。寝不足か?」
「……そんなにボーッとしてましたか?それはすみませんでした」
「いや、謝ることはねぇけど……お前は溜め込むタイプだから、吐き出さなきゃいけないときは吐き出せよ」
「吐く?そんなこと人前でしませんよ」
ケインは眉間に皺を寄せながら、そっぽを向いた。
それを見て苦笑するのはマルク・デルヴェキオという、紺色の髪に吸い込まれるほど美しい黒曜石のようなの瞳を持つ男。
彼はケインの先輩であり、在校生代表の生徒会長でもあった。
「ケイン、お前って……ほんとツンデr…」
「は?」
「ほんとツンd」
「意味不明ですマルク会長。燃やしますよ?」
「……おっほん!何のことかね?ケイン君」
「…………」
ケインはジト目を向けながら、マルクに感謝した。
彼はケインの気を紛らわせるために、このような会話をしたのだ。
流石、人の上に立つだけの者である。
ケインは窓辺に立ち、外を眺めた。
そして思いを馳せる。
───あのまま眠らなかったら、今僕の隣に居たのだろう。
友を持ち、勉学に励み、日々を楽しんで。
グラウンドで遊ぶ生徒のように、アイツも──ディオラも遊びたいに違いない。
ケインは悔しかった。
ケインは表側として一人っ子となっている。
ディオラは存在していないと、戸籍上そうなっているのだ。
それを聞いたとき、本気で父上に怒り狂ってしまったのだが、高等部へ入る時に理由を教えてもらい何も言えなかった。
ディオラは病弱だ。
心臓が弱くて、とてもじゃないが走ることもあまり出来ない。
そのような者は刺客に狙われやすい。
仮にも上流貴族のバークレイ家なのだ。
すぐに狙われてしまうのがオチ。
だから父上は、ディオラを隠した。
情報が回らなければ、狙われるのを避けられる。そう思って。
「………会長」
ケインが出した声は、思いもよらず小声だった。
聞こえたか不安になったが、「何だ?」と返事が返ってきたので続けた。
「今日と明日……仕事、来れそうにないです」
「…………そうか」
「すみません」
「いや、問題ない。ラルフェに押し付けるから」
そう言ったマルクを振り返って、ケインは小さく苦笑いをした。
マルクのドヤ顔はいつもなら憎たらしいけど、何故か今は逞しく見えなくもなかった。
マルク会長、ありがとうございます。
何も聞かず、気持ちを掬ってくれるマルク会長への感謝を心の中で告げると、ケインは瞳を閉じた。
自然とディオラの顔が浮かび上がる。
『また今年も…目覚めないのか?』
その顔はまだ、幼いままだった。
そしてその日の夕方。
ケインは東の端にあるバークレイ家の屋敷まで足を運んだのだ。
ケインはダイスとアリアーナへ挨拶を済ますと、すぐにディオラの部屋へと行った。
今ではノックなんてしない。
どうせ返事も返ってこないのだから。
部屋へと入るとケインはいつものようにベッドの横にある椅子へ座り込み、ベッドへと視線を向けた。
そこには、ディオラが眠っている。
あの日から一度も目を覚まさず、眠りこけているのだ。
もう、11年だ。
不思議なのは、ディオラは成長し続けていること。
ディオラはもう少しで15歳。
年相応の身体付きをしている。
身長は平均より高いだろう。
体重はどうか分からない。細身だから軽い方だとは思う。
成長するのは別に良い。
医術師から、長く生きられないと言われていたディオラが、眠っているとはいえ成長しながら生きているのだから。
でも僕は、成長する人形なんていらない。
動いて、笑って、泣いて………生きているディオラが見たかった…。
ケインはディオラの手に自分の手を重ねた。
視界が歪み、ぼやけてきた。
「………この歳になって泣くとは……随分弱ったものだよ、僕は」
それも全部、お前のせいだからな。
ディオラ。
唇を噛み締めて、涙が溢れないように耐える。
それでも零れる涙が、ケインの頬を濡らした。
その時、僅かな声が聞こえた。
「にい様、泣かないで…下さいよ」
「え?」
聞き間違い、だろうか。
確かに今…ディオラの口が動いた。
ケインは信じられない思いでディオラを見つめた。
勘違いではないでほしい。
ディオラの手をギュッと握ると、それに反応してか、彼の顔がこちらへと向けられた。
「……───っ!?」
パチリと瞼が上へ。
ビー玉のような綺麗な瞳が、ケインを映している。
「にい様…どこか痛いのですか?」
ケインは堪らなく泣いた。
目覚めてくれたことが嬉しくて。
自分の心配をしてくれている姿が痛々しくて。
子供時代を一緒に過ごせなかったと、悲しくなって。
いろんな感情が混ざり合って、それが涙となり頬を伝った。
「……馬鹿ヤロー」
消え入りそうな声でケインは笑い、目覚めたディオラの頬をスルリと撫でた。
戻ってきた。
かけがえのない唯一無二の弟が、ここに。
そしてその日のバークレイ家は、一気に騒がしくなった。
「では、我が息子ディオラの目覚めを祝い………乾杯」
「「「乾杯!」」」
もう夜も更けたが、ディオラのためとディオラ以外の者全員で作り上げた宴が用意された。
この世界では何か嬉しいことがあれば、すぐに宴などを開くらしい。
なんとも贅沢な。
ディオラはそう思いながらも、その好意がとても嬉しかった。
右手のジュースの入ったグラスを傾けながら、少しだけ微笑む。
半分くらい飲んでグラスをテーブルへと置くと、テーブルの反対側に座っているダイスと目が合った。
「ディオラ、体調は本当に大丈夫か?」
「はい、問題ありません」
「本当に大丈夫?」
横からアリアーナが心配そうに窺ってくる。
ディオラは困ったふうに眉を下げ、扉近くに待機している医術師へと目配せをした。
それにいち早く気付いた医術師は、少し笑いながらささっと近付いてくる。
「奥様、旦那様。ディオラ様は以前にも増して体調は優れていらっしゃいます。今では人並みと言っても過言ではありません」
「それは真か!」
「えぇ。旦那様方はまだお聞きになっていないようですが、わたくしはディオラ様からあの魔法陣のことを教えて頂きました。それにたくさんの秘密が隠されていたのです」
「それは、どういう秘密で?」
ダイスやアリアーナ、ケインがキラキラとした瞳を向ける。
周りの使用人や兵士たちも思わず聞き耳を立てる。
ディオラはそれに口を挟んだ。
「それは僕がこのあと説明しますよ」
ニコリと言うと、ダイスの「そうだな」の一言で一瞬に宴の雰囲気に戻る。
変わっていない。
あれから11年も経ったが、全くと言っていいほど変わっていない。
ディオラは涙が出そうになって、溢れないようにと必死に微笑んだ。
今泣いては、この空間が崩れる。
またあの楽しい日常を送りたい。
せっかく命懸けで、人生を全う出来るような身体にしたのだから。
「ディオラ様、用意完了です」
「ありがとうございます」
宴が終わり、ディオラ達は大広間へと移動した。
カーペットの上には一枚のシーツ。
ディオラが魔法陣を描いて眠っていたものだ。
ケインはディオラの横に立ち、それを眺めた。
それは学校で"天才"と謳われるケインでも理解不能なものであった。
ダイスもこの11年間毎日少しずつ研究していたみたいだが、全てが分かったわけではなかった。
「まず、ぱっと見で分かるものを説明します。最初はこの2つの魔法陣」
ディオラは指で魔法陣をなぞりながら、教えを説くように説明する。
「これは初級の光魔法『ライト』。威力は少し高くして、肌が少し痛むくらいにしています。
そしてこれは転移の魔法陣。この『ライト』を転移させるためのものです」
ケインは唸った。
ワケが分からない。
言っている意味は理解出来る。
だが、何故その光魔法を転移したのかが分からなかった。
「次へ行きますね。これは睡眠の魔法陣。僕が眠るためのもの。
これは変化の魔法陣。植物になるもので、少し曖昧にしています。
そしてこの一回り大きいものが身体強化の魔法陣です。これを光魔法と繋げました」
ディオラは周りで聞いていた者たち全員に聞こえるように、少し声を張り上げる。
「僕はこの魔法陣を使って、心臓を強化しました」
ケインは耳を疑った。
身体強化?心臓を?
「僕が眠る間に、光魔法で身体強化の魔法陣を僕の心臓に焼き付けました。身体が成長したのは変化の魔法陣で植物のように光合成で生きれるようにしました。僕の部屋は日当たりが良くてとても好都合でしたので」
「ディオラ…お前」
「僕の中身が子供ではないのは、睡眠の魔法陣に空間魔法をねじ込んで、自分の精神の中で仮のバークレイ家で過ごしていたからです。本当は3年ほどで終わる予定だったんですけど、何故かこんなにも時間が経ってしまって……ご心配かけて申し訳ありませんでした」
ディオラはぺこりと頭を下げた。
大広間はしーんと静まり返っている。
ダイスはディオラから説明されたことを頭で整理していく中で、だんだんと理解してきたのか身体を震わせていた。
ギュッと拳を握ったダイスは、ディオラを見据えた。
「ディオラ、その行いはヘタすれば死ぬものだったんじゃないか?」
「………はい。もしいきなり光魔法の威力が大きくなれば心臓は破れ、もし睡眠の魔法が切れてしまったら痛みで死んで、もし変化がとければ栄養失調で確実に死んでいました。
それに成功する確率は低かったですし」
ディオラはさらりと言ったが、内容はとてもじゃないが軽いものではない。
「では何故お前はそれを実行したのだ!
死んでいたのかも知れないんだぞ?!」
「…………してなくても、どうせ僕は死んでいました」
「な、にを言って…」
「あの時の時点で僕の命は2年でした」
それを聞いてケインも冷や汗が流れた。
その事実はディオラには内緒だった。
誰も決して話さなかった。
でもディオラは、それを知っていた?
だからこの行動に出た?
「にい様と父上母上が話しているのを、僕はベットの上で聞いていました。あぁ…このままではダメだと、僕は思ったんです。それに………」
ディオラは瞼を伏せ、両手を心臓の近くへと当てた。
ケインにはその姿が神秘的に見えた。
「もし、の話はなかったんです。僕は無事目覚め、普通の人へと変われることが出来ました。
この身体強化の魔法陣は永久的のものなので、魔力切れにならなければ僕は人生を充分に全う出来るくらい生きれます。
それに僕は魔力が多い。魔力切れなんてものはほとんど無縁の事です」
ダイスもそれを聞いて何も言えなくなった。
それはディオラにとっては正しい行動なのかもしれない。
「…………最高だが、失敗すると最悪な魔法だな。
だが、お前は自慢の息子だよ、ディオラ。ケインもな」
「ありがとう、ございます」
「さぁ、今日はもう遅い。みな寝る支度をしよう。
積もる話もあるだろうから、私達は………4人で寝るとしようか」
ダイスはニッコリと笑った。
アリアーナもふんわりと微笑む。
あぁ……やっと元通りだ。
元の幸せな家族へと戻った。
やはり、1人でも欠けてはダメだ。
ケインは自分の遥か上をいっているであろう弟を見る。
─────……もっと頑張らなければ。
ディオラをいざという時、守るためにも。
XXXX年、11月。
ドデカいベットで、父母兄弟が仲良く寄りながら寝ている姿を、使用人たち(兵士含む)がにこやかに眺めていた。
ムリヤリ11年を経たせたので、ディオラくんはもう14歳ですね。
ケインくんは16歳。
ケインくんってば、私より年上になっちゃいましたw
まあもうすぐで追いつきますが。
では、またお会いしましょう(^O^)
遅いですが、メリクリでーす!