↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大好きな妻が亡くなった  作者: ゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/56

7日目 湯灌と死化粧と礼服


7月8日(水)

午前4時頃

目が覚めてため息をする。

足攣りはそうでもないが気持ちは沈む、今日も妻の夢は見られなかった。

何だか力が入らない。

暗がりの中呆然とする。

2階の寝室から1階に降りトイレに座るとまた深くため息をつきそのまま項垂れた。

暫く立ち上がれずマットレスの一点を見つめ再び呆然とする。

その場所にどれだけ居たのかは覚えていないが知らぬ間に用は足せたと思う。

ふらふらと立ち上がりトイレを出るといつもの様に冷蔵庫にあるお茶を飲む。


妻に会えるのは今日と明日までと思うと実感が湧いて来なかった。

この時間なら妻は2階の寝室に寝ているはず、今も居る気がする。


午前5時

各部屋の雨戸を開け、ソファーに座りまた呆然とする。

今日は妻のお清め(湯灌)の日だ。

昔、結婚した当初に一度だけ経験した。

確か妻の養子先の母にあたる人だ。

妻は私と結婚する少し前、土地相続の手続き上養子先の名に一時だけなっていた事がある。

妻からしたら祖母の様な人で妻自身もおばあちゃんと言っていた気がする。

その祖母の身体をおくりびと(納棺師)が丁寧に洗っていたのを思い出した。

あの時、妻の実家家族全員が出席していた。

私は場違いとも思えるが妻に無理矢理連れて来られた気がする。

寝たきりだった祖母はガリガリで骨と皮だけになっておりとても見ていられなかった。

妻があんな大胆に洗われたら嫌だな

今回は義兄夫婦と私だけだが妻はきっと恥ずかしがるかもな


外も大分明るくなってきた。

そろそろ着替えよう。


午前10時

兄夫婦が車で迎えに来てくれた。

葬儀場へ向かう。


湯灌

葬儀場に着くと4畳半ぐらいの和室の部屋へ通される。

そこには白装束の妻が寝かされていた。

洗い場の様な台に乗せられており1枚大きめの白布が妻の身体を覆っていた。

納棺師だと思うが男女2名のスタッフから故人の横に並ぶ様指示を受ける。

足が不自由で正座は出来ないと先日の打ち合わせで伝えており座敷には座敷用の椅子が置かれていた。

この度は…納棺師から話が始まる。

もうこの時点で目が潤み出す。

お清め(湯灌)の順序を説明された。

話が終わると妻のお清めが開始され私らは横でその作業をずっと眺めていた。

その間私は耐えられなくなり泣いてしまう。

一番上の布はあまり動かさぬ様に白装束を脱がされ次にお清めの水で身体を洗ってもらう。

最後にお清めの水を私、兄、姉の順で優しく掛けお清め(湯灌)の儀式は終わった。

とても心が痛む

ギューっと胸が締め付けられる。

この表現を何と例えれば良いのだろう…綺麗にされているはずなのに物凄く哀れで可哀想になった。

彼女の身体に残る死斑が見え隠れし私の心に哀れみが感じられたのかもしれない。

涙はとくとくと流れ湯灌中枯れる事は無かった。

暫くお着替えと死化粧の時間らしく席を外すことになった。

待合所で兄夫婦と話しをした。

普段通りを装うも中身は空っぽの感じで何を話したか記憶が定かではない。


死化粧と着替えが済んだようだ。

また先程の部屋へ通される。

妻を見ると白地で薄桃色の模様がある白装束に変わっていた。

死化粧も済んでいる。

でもチアノーゼや死斑は隠しきれていなかった。

若干顔色が赤色に触れているし死斑のボツボツ感も隠しきれていない。

唇の紅は唇そのものが亡くなった事による状態変化なのかは分からないが異常に荒れているせいで紅が波打っていた。

生前こんなに唇は荒れていなかったのに…

首筋の死斑までは対応してはくれなかったんだ。

それらが痛々しく感じた。

無理と思うがせめて髪染めしてあげたかった。

それでもしなかった時よりは綺麗にしてもらえた。

ただ心の奥ではとても妻が痛々しく可哀想に感じて再び胸の奥がギューッと痛み涙が溢れた。


でもここで言ってあげないと…

本当にむつみが可哀想なだけになってしまう。


妻の手に私の手を重ね


「ムッチ良かったねー」

「綺麗にしてもらえて良かったねー」

「可愛い着物も着させてもらったんだね可愛いよ」

「ほんと良かった…ほんと…」


ぽろぽろと畳に音を立てて涙が溢れる。


「とっても綺麗だよ」



それが終わると納棺師スタッフ、私、兄夫婦で布に包まった妻を持ち上げ綺麗な棺に移した。


その後葬儀場へ妻を移動する運びになり大きいエレベーターに乗り込んだ。

明日の葬儀場に到着したところで妻に今日最後のお別れをして終了になる。


別れを惜しむ

ずっとここに居たいのに…


別なスタッフから今夜は故人と一緒に過ごされるか聞かれた。

過ごせるものなら過ごしたい。

でも今日はこれから礼服が来るし再び葬儀場へ行くにしてもまた兄に頼まなくてはいけないのでここまで妻に付き合ってくれた手前無理強いは出来ない。

なので丁重にお断りした。


午後2時頃

家に到着し、兄夫婦に深々とお礼をし別れた。


家に着きソファーに座る。

静か過ぎる室内にまた孤独が忍び寄る。

妻を完璧に綺麗に出来なかった罪悪感と自分に対する嫌悪感で物凄く胸が痛くなる。


午後5時頃

玄関に荷物が届いていた。

礼服が来たのか?

やっとか…


家の中に入り中を確認した。

靴やベルト、Yシャツにネクタイとここまでは良かったのだが…

はっ?、な、なんだこのスーツ!

シワ寄りまくりじゃないか

特に酷いのは腹部のシワが唐草模様みたいな複雑な感じになっていた。

これ冗談だよな

こう言う物を送りつけてくるものなの?

これ商売があこぎ過ぎないか

明日の朝だよ葬儀は

人の弱みにつけこみすぎだろ

これ回収して終わりって出来ない流れを巧みに利用した詐欺紛いの犯罪じゃないの?

うぅぅぅぅどうする…

電話したら回収で終わりだろうし…

詐欺行為を考えても仕方ない。

どうにかシワを解消しないといけない。

スチームで何とかなるかまずは試してみた。

全然ダメだ。

布をあてアイロンを軽く当ててみる。

腕の部分と襟元はちょっとマシになった。

でも腹部のシワはコレ絶対取れない奴だ。

胸ポケットの深い寄れはどうする?

何か黒い厚手のハンカチでもあれば…いやハンカチぐらいじゃ寄れは取れない。

どうしたらいいのだろう。

2階にそう言えば黒い厚紙があった、あれを使おう!

黒い厚紙を綺麗に切り揃えて折り込みハンカチの様に見立てそれを胸ポケットに投入してみた。

シワと寄りが消えた。

取り敢えず腹部の複雑なシワは絶対無理なのでこれは諦めたが他は何とかなりそうだ。

及第点とはいかないが何とか格好はついた。

でもハンカチ厚紙がさすがに貧乏くさい。


午後11時

気がつけばこんな時間になっていた。

まさかレンタル礼服にここまで奔走させられるとは思ってもいなかった。

ただでさえ何も食べられずフラフラなのに早く寝ないといけない。

寝床につくと先程のレンタル服の状態が思い出される。

礼服、10万円でも買っておけば良かったな

ごめんなムッチ、こんな情け無いダメな夫でほんとごめん。

ブツブツと言っているうちに目を閉じ知らぬ間に泥の様に眠った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。