↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大好きな妻が亡くなった  作者: ゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/56

8日目 妻の葬儀と心境の変化


7月9日(木)

午前4時

「痛っ!」無意識に伸びをして足を攣った。

物凄く痛い。

やはり今日も妻の夢は見られなかった。

壁に設置した手すりに掴まり体を手繰り寄せ何とか立ち足を引きずりながら1階へ向かう。

トイレに着く頃には少々痛みも引いていた。

トイレを済ませキッチンに行き一杯の茶を飲む。

呆けながらソファーに座り脚を摩りながら痛みが和らぐのを待つ。


午前5時

寝巻きの格好で上着を羽織り燃えないゴミを集めゴミ置き場へ持って行く。


午前6時

準備

妻の葬儀に持って行くものを確認をする。

・ハンカチ

・ポケットテッシュ2つ

・小銭

妻と一緒に入れてもらう物として

・妻に贈る手紙

・妻の好きなふわふわタオル

・生前よく被っていたお気に入りの帽子

これらをバックに入れ礼服を着る。


午前6時半

鏡の前で寄れやシワで貧乏くさい礼服を改めて眺める。

自分の心情の様に情けなさがありその気持ちを醸し出している。

不思議とレンタル屋には怒りが湧かなかった。


ほんと今の自分だなこの服は…


電気を消し雨戸を開け外の空気を入れる。

薄明かりの中ソファーに座り外の風景を眺めていたら堪らなく寂しくそして恋しくなり胸がギュッと締め付けられる。

ムッチぃ寂しい…会いたいよ…

啜り泣く声で絞り出す様に妻を呼ぶ


そう言えば昨日姉から電話があり義父は葬儀には出席しないと言う話を聞いた。

それを聞き私は驚きと共に怒りにも似た感情を覚えた。


「えっ実の娘なのに…来ないの?」


あれだけ妻がお世話してあげたのに…何で?

子供の時から今まで沢山の思い出もあるだろうに…どうして?

悲しくそして愛おしくないのお父さんは?

姉の方も困っている様だった。


聞いた時点ではその様に考えていたが暫くして心を落ち着かせ義父側に立って考えてみた。

歳は98歳、目も見え難く腰も悪い最近では思考も曖昧になってきていたのでむつみを看取るのが難しいと考えたのかもしれない。

もしくは愛深き故に最後を看取れないのか?

98歳ともなればもうじき自身もそちらに逝くだろうと考えていたのではないだろうか。

所詮本人から聞けぬので意味の無い思考だ。

それにしても家族葬で長が居ないのはとても悲しい。


正直、悔しい気持ちがありとても残念に思う。

私にとって妻は特別な存在、実の父には看取ってもらいたかった。


午前8時15分

兄夫婦が迎えに来てくれた。

車に乗り込み葬儀場へ向かう。


葬儀場に着くと式場に通された。

祭壇の手前に妻が入った棺がある。

祭壇は妻の好きな色花で飾られていてとても綺麗だ。

棺の手前にお坊様がお経をあげる場所があり焼香台も設けられていた。

その後ろは参列者の椅子が並ぶ

式場の外はロビーがあり葬儀担当者と兄夫婦が会話をしていた。

現在、葬儀の場には私と妻だけの様だ。

棺の妻を見に行こうと棺に手を掛けた途端目眩と共に振らつきペタンッと膝を付きしゃがみ込んでしまう。

食べて無いのだから仕方ないと思うが、一瞬私を連れて逝ってくれるのかと期待した。

暫く立てなかった。

でも…立ててしまった。

連れて行かないのか

妻を見ると思わず涙が溢れて来る。


「ごめんなムッチぃ…ごめんよ」


暫く眺めていた。

私は咄嗟にスマホを取り出し妻を撮った。

多分首筋の死斑を見ては泣くのだろうなとも思ったが最後の一枚だ大切にしよう。


葬儀場の人に頼み妻の生前好きだったタオル生地(バスタオル)と最近毎日被っていた帽子を棺に入れてもらった。

バスタオルは直接彼女に触れる様に掛けてもらいその上から白い布地のシーツを敷かれた。

妻はタオル地の触り心地か好きで寝具は大体タオル生地で揃えていた。

帽子は生前私が買ってあげた深めのハンチング系の帽子だと思う。

この系統は私も好きで二人で出かける際はいつもお揃いで被っていた物だ。

本来ならいつも着ていた服を着させてあげたかったが金具が付いている物は一緒には入れられない決まりなので断念した。


式場集合

暫くすると妻側の親戚がやって来た。

私の家系は父の意向で50年前に絶縁状態になっており誰も居ない。

私が死んだら誰も来ないんだろうな…


親戚の方達と挨拶が始まる。

何を話したか全く覚えてはいない。

普段通り装うが気持ちが入らなかった。

お坊さまが来たらしく葬儀が始まるらしい。

皆それぞれの席に座った。


午前10時

葬儀式(開式)

お坊さま入場となり葬儀が始まった。

長い長いお経が読み上げられる。

焼香もお経の最中行われた。

ウチは宗教には入ってないがこう言う風に故人を見送る事はとても心が和むものだ。


お経も終わりお坊さまが葬儀場から退出となり次は喪主である私の”むつみへの手紙“を読む事となる。

これは妻に宛てた手紙、なので妻に向き合う感じで立ち手紙を開け読み始める。


遺族の挨拶

第一声と同時にフラつき涙が溢れ嗚咽しながらの読み上げとなった。


ムッチ(敢えて字名にした)、君と会ったのは〇〇会社と言う中小のデザイン会社だった

僕らはそこで出会い恋をした

とてもぎこちない始まりで那須の宿までツーリングし一夜を共にしたよね

それからは二人で色んなところへ旅をしたね

君へのプロポーズをした場所を覚えているかい

あの時も僕はぎこちなかった

あの日の夜、大したこともない新小岩の不動産屋の前で君にプロポーズをした

結婚してからも僕らは二人で色んな所に行った特に海外や国内と沢山旅をしたね

君と二人で旅するのはほんと楽しかった

覚えているかな?

僕らはよく死後どうするかを話し合ったよね

まず持病のある僕があの世に行って宇宙にある惑星のキャンプ地を探しムッチが来たら一緒に行こうと約束をした

そしたら君が直ぐに迎えに来るんだよって言って僕もムッチが先に行ったら直ぐに迎えに来るんだよって言った

言った

言ったのに…

何で迎えに来てくれなかったんだ

僕も連れてってくれよ

頼むから連れてってよ

君は急にこの世を去ってしまった

僕はどうする事も出来なかった

昔君を僕は二度ほど命を救ったことがあるのを覚えているかい

あれは海外での出来事、君は酷く酔い顔を赤くし堪えられなくなり僕に部屋に戻ろうと誘った

席を立ち上がった君は数歩ばかり歩いた時に隣に居た僕に「支えて」って言ったんだ

何事かと僕は君を見ると頭から地面へ倒れ込む君が見えたんだ慌てて君を抱き抱えた

あの時みたいに何で助けを求めてくれなかったんだ

言ってくれれば僕は動いたのに

でも君は逝ってしまった

残された僕はとても辛いし寂しいよ

君は今天界に行こうとしている

君が天界に行ったら君が宇宙キャンプ地を探すんだ

僕がそっちに逝ったらまた一緒に冒険をしようね

宇宙キャンプを楽しもう

それまでは天界で幸せに過ごすんだよ

愛してるムッチ大好きだよ


向きを変え参列者にまずは一礼をする。


「今回はむつみの葬儀にお忙しい中来ていただき誠にありがとうございました。」

「きっとむつみも皆さんの顔を見れて大変嬉しく思っているでしょう。」

「本日はありがとうございました。」



たぶん号泣状態の私は文章で書いてあるほど上手くは喋れていないと思う。

でも取り敢えず妻には思いの丈を伝えた。


ムッチぃ大好きだよ

天国で幸せになってね


閉式

その後棺内に花を飾るのだがスタッフが準備するのに一旦退場となり皆ロビーへ向かう。

当の私は放心状態だった。

その間親戚の方達と話をしたと思う。

色々話したが頭には入って来なかった。

平常心をと心掛けていたが中身は無かった。


別れの儀

準備が整い葬儀の場に入る。

皆に花が配られ妻の周りに花を並べてもらう。

私は花を置きむつみに話しかける


「良かったねムッチ花に囲まれて綺麗だよ」


とずっと話していた。


出棺の前に故人と最後のお別れが始まる。

私は妻をこれでもかと言うぐらい顔を触り軽く抱き抱え最後に皆に「これが最後なんでむつみの手を触らせて」と懇願しずっと手を触っていた。

その間私は泣き崩れ


「ムッチごめんなー」

「ムッチ…ムッチ助けられなくてごめん」

「ムッチいかないで、置いてかないでよ」


情けなさい自分を皆に曝け出す

いい加減他の人がお別れ出来ない事に気づき後ろに下がった。


そしてむつみは出棺の為、棺に蓋をされた。


午前11時15分

出棺

霊柩車に運ばれる妻、白木の牌を私が持ち兄達が続いてゆっくりと歩いて進む。

皆で霊柩車に妻の入った棺を乗せる。

私だけ霊柩車に乗り込み火葬場へ向かった。


午後零時頃

火葬場到着

火葬場に着くと妻の入った棺が係りの人の手によってある部屋に運ばれる。

私は霊柩車を降り妻の入った棺が運ばれる様を見入っていた。


法要

そのまま火葬場横でお坊さまがお経を読み上げる様だ。

とても寂しそうな一画でお坊さまのお経が読み上げられた。

皆棺の前でそれを聞いている。


火葬

その後火葬場まで棺が運ばれる。

恐ろしくも頑丈な炉の前まで来ると何やら係の人が話していた。

全く頭に入ってこない。

暫くすると妻の棺が炉に入れられたのだろう。

この時点私の意識は飛んでいた。


むつみは火葬された。


昼食

私は魂が抜けた様になり放心状態だったと思う。

気がつけば古い施設内のお食事会場に座っており隣には妻の遺影が飾られていた。

妻と私の前には料理が並んだ。

参列者にも同じ物が配られていた。

贅沢な料理が並びとても高そうな料理だと感じる。

でも食べる気力が無い。

隣に居た兄さん姉さんが心配して無理にでも食べさせようとしてくれたので刺身を一切れ頂きつゆものだけ啜った気がする。


午後1時半頃

収骨

収骨場に行くと妻の痕跡はなく砕けた骨が散乱していた。

もうここまで来ると諦めにも似たやるせない脱力感だけで自身は動かされている感じだ。

言うがままに妻の骨を拾い骨壷に骨が回収されるのをジッと見守るしかなかった。


骨壷に白い布を巻かれ綺麗な白い箱に収められた。


解散

白い化粧箱を持たされ、何だろうコレは何だろうと自問自答しようとするも頭が上手く回らない。

呆然としながら会場は解散となった。


兄夫婦の車に妻の入った骨壷と一緒に同乗し葬儀社の人が車で私の家まで同行した。

家に着くと葬儀社の人が簡易仏壇棚を組み立ててくれた。

そこにむつみの遺影と香炉とお燐、蝋燭に線香が置かれ隣に骨壷が並べられた。

葬儀社の方が帰り兄夫婦も線香をあげ帰っていった。

妻の為にありがとうございました。


心境の変化

残された私はソファーで呆然とするしかなく何をするにも力が入らなかった。

何もせぬまま夜になる。

力無くレンタル礼服を脱ぎ明日返そうなどと思った気がする。


妻が火葬される辺りの事はあまりよく覚えてはいない。

ただ放心状態でたまに気がつけば目からは涙が溢れていた気がする。


気持ちの変化があった。


それは収骨の時だった。

もう生身で触る事が出来ない。

虚しさと物悲しさとやるせ無い気持ちだ。

初めてこんな気持ちになりあれだけ妻と触り合い戯れ合った日々がもう二度と叶わないと悟った時言いようの無い虚無感を経験した。


よく映画で死体を隠して保存し恋しさから主人公が愛する人を触るシーンがあるが当時の私はやり過ぎと思っていた。

だが今なら私にもその気持ちが分かる。

触れたいし摩りたいし抱きしめたい

キスもしたいし頬ずりしたいし二の腕も触りたい

胸も触りたいしお腹も触りたいし太ももだって触りたい

触れ合う欲求はもう二度と叶わぬ夢となった。


白い化粧箱を摩る。

摩れば摩る程涙の量が増え胸が締め付けられる。

泣いた…物凄く泣いた。

大好きなむつみに会えぬ悲しみと、もう二度と大好きな人を触る事の出来ない哀れな自分に泣く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。