ストリップ麻雀
罠は、間抜けな顔をしていた。
内定先の一つ。その内定者の男たちが「同期の親睦を深めよう」と、俺を雀荘に誘ってきた。麻雀。中身のおっさんには、二十年通い詰めた馴染みの遊びだ。俺は二つ返事で乗った。
だが、卓を囲んだ瞬間、俺は嫌な予感がした。男が三人。全員、俺を見る目がやけにぎらついている。そして一人が、にやにやしながら切り出した。
「熊沢さん、せっかくだしちょっと変わったルールで、どう? 負けた人が一枚ずつ脱いでいくの。……ほら、そのほうが盛り上がるじゃん」
ストリップ麻雀。
俺は内心で深々とため息をついた。こいつら、最初からこれが目的か。中身はおっさんだ。この手の下心丸出しの「変わったルール」の魂胆くらい、透けて見える。俺を脱がせて拝みたいだけだ。
「……いいぜ。やろうじゃねえか」
俺は受けた。逃げも隠れもしない。売られた喧嘩は買う。それが四十六年変わらない、俺の流儀だ。
*
結果から言う。俺は負け始めた。
おかしい。俺の打ち筋に抜かりはない。なのに要所で、ありえない手が相手に入る。配牌が都合よすぎる。ツモが揃いすぎる。――いかさまだ。三人がグルになって、俺に負けを押しつけている。手つきに慣れがある。おおかた袖か卓の下に、仕込み牌でも隠しているのだろう。
だが俺は、まだそれを確信に変える証拠を掴んでいなかった。だからルールに従って脱いだ。焦りはしない。泳がせて尻尾を掴む。いつものやり方だ。
まず上着。ぱさ、と椅子の背にかける。この時点では男たちも、まだ余裕のにやついた顔だった。「余裕、余裕」なんて軽口も出ていた。
次はシャツだ。ボタンを上から一つずつ外していく。中身はおっさんだ。惜しむ気も恥じらう気もまるでない。ぷつ、ぷつと事務的に外して、肩からするりと滑らせる。
現れたのは、白いブラジャーだった。
レースもない。飾りもない。無地のまっさらな白。安売りコーナーで三枚まとめて掴んできたような、実用一辺倒の代物。だが――その素っ気ない白い布に、あの医者が「ホルモン調整の結果です」と言い訳した、凶悪なボディの上半分が収まっていた。
男の一人が、「ぐっ」と息を詰まらせた。
想像していたのは、勝負下着のけばけばしい色気。黒だの赤だのレースだの。それがまさかの、生活感満点の無地の白。作り込まれた色気の真逆。なのに、いや、だからこそ生々しい。まるでうっかり覗いてしまったような罪悪感すら伴う、無防備さ。一人目の男が早くも目を泳がせ、額に汗を浮かべ始めた。
だが俺は、まだ負け続けた。だから次を脱ぐ。
スカートのホックを外す。すとん、と足元に落として、片足ずつまたぐ。
現れたのは――やはり、白い無地のパンツだった。ブラとご丁寧にお揃いの、飾らない白。上も下もまるっと、素っ気ない白で統一されていた。中身のおっさんに、上下を揃えるなんて洒落た美意識はあるわけがない。ただたまたま、白しか持っていなかった。それだけの話だ。
二人目の男が、「うおっ」と妙な声を上げて牌を取り落とした。
上も下もまっさらな白。そのあまりに無防備で、あまりに無頓着な白の上下セット。それが規格外のボディと合わさって、二人目の理性をぐらりと傾がせた。「なんで、そんな普通の白が……」と、うわ言のように呟いている。
そして俺は、完全な下着姿になった。
上下、無地の白。凶悪な曲線。その凄まじいギャップの前で、三人の男はもはや麻雀どころではなかった。一枚脱ぐごとに段階を追って、確実に追い詰められ、そして今、最後の一人の理性まで根こそぎ刈り取られた。
一人は生唾をごくりと飲み込み。一人は鼻の下を押さえて天を仰ぎ。一人は拝むように両手を合わせて、何かに必死に耐えていた。三人とも汗だくで、息が荒い。
「な……なんで、そんな素っ気ない白が……こんなに破壊力あるんだ……!」
俺の無頓着な白い下着が、色仕掛けのどんな勝負下着よりも凶悪に、三人の男を悩殺していた。作り込まれた色気ではなく、飾らなさそのものが凶器になっていた。狙ってやれることじゃない。天然の無自覚が生み出した事故だった。
当の俺は。
寒さに腕をさすっていた。
「……なんだよ、じろじろ。冷房効きすぎだろ、この店。風邪ひくわ。誰か俺の上着、取ってくれ」
中身はおっさんだ。男たちがなぜこんなに動揺し、汗をかいているのか、まるで分かっていなかった。ただ寒くて面倒くさい。それだけだった。
だがその時――俺のおっさんの目が、卓の上のあるものを捉えた。
男の一人の袖口。そこからちらりと覗く、仕込み牌の端。
いかさまの動かぬ証拠。俺は口の端をゆっくりと吊り上げた。下着姿で寒さに震えながら、俺の頭は恐ろしく冴えていた。
――さあ。ここからは俺のターンだ。脱がされたぶん、きっちり利子をつけて脱がし返してやる。




