大手内定ラッシュ
内定が出始めた。
それも一つや二つじゃない。俺がエントリーした大手は、片っ端から俺に内定を出してきた。誰もが名を知る商社、メーカー、金融。就活生が喉から手が出るほど欲しがる企業が、俺に「ぜひ来てくれ」と頭を下げてくる。
異常事態だった。
普通、大手の内定はそう簡単には出ない。何度も面接を重ね、絞りに絞られ、最後は数パーセントの椅子取りゲームだ。なのに俺の場合、二次面接あたりでもう役員が出てきて、その場で「内定でいいよね?」と話が決まる。ひどいときは面接の途中で、役員がほかの選考日程を勝手にキャンセルさせようとしてきた。
「なんでこんなに簡単に決まるんだ。そんなに景気がいいのか」
俺は素で不思議がっていた。中身はおっさんだ。バブルの頃の売り手市場を、なんとなく思い出していた。
違う。景気じゃない。俺だ。
完璧な受け答えに、規格外の美貌。役員面接に出てくるようないい歳をした重役ほど、そのコンボに無抵抗にやられた。「こんな人材、逃す手はない」という立派な建前の下で、正直、手元に置いて眺めていたいだけの下心も混じっていた。
だがその下心を、当の役員たち自身もうまく自覚できていなかった。俺が優秀すぎたせいで、口説いているという自覚すら「有能な人材の早期確保」という綺麗な言葉に上書きされていた。
俺と役員たち。互いに、自分が今何をやっているか分かっていない者同士。地獄の噛み合わせだった。
*
就活界隈で、俺はちょっとした伝説になっていた。
「大手を全部落とす女がいる」――落とす、とは二つの意味だ。一つは内定を次々ものにするという意味。もう一つは、比較された周りの就活生の心を次々へし折るという意味。
合説の会場で俺の姿を見た男子就活生が、ざわめく。
「出た……クラッシャーだ」
「クラッシャー?」
「あの人と同じ選考に入ると詰むんだよ。実力も顔も次元が違う。あの人と比べられて心が折れて就活やめた奴、もう両手じゃ足りない」
俺はその噂を風の便りに聞いた。そして心底憤慨した。
「人聞きの悪い。俺がいつ誰を落とした。俺はただ、まっとうに選考を受けてるだけだ。妨害なんぞ一度もしてねえ」
まっとうに受けて、まっとうに全勝する。それが一番周りに効くのだと、俺はやはり分かっていなかった。手を汚さず、ただ圧倒的である。それが無自覚なクラッシャーの真骨頂だった。
*
ある日、内定先の一つから内定者懇親会の案内が来た。同じく内定した学生たちと顔合わせをするらしい。
行ってみると案の定だった。男の内定者たちが、俺を見た瞬間そわそわし始めた。飲み物を取ってくる。椅子を引く。話しかけるタイミングを計る。会場の空気が俺を中心に、妙な熱を帯びていく。
俺はそれを「同期の結束が固いな。いい会社だ」と受け止めて、隅で缶ビールを手酌で飲んでいた。中身はおっさんだ。内定者懇親会なんぞ、俺にとってはただの無礼講の飲み会だった。
だがその懇親会の場に――俺の二度目の人生を、少しだけ揺らすことになる一人の後輩がいた。
いや、正確には後輩ではない。相談サークルの後輩だ。就活の相談にさんざん乗ってやっていたあの不器用な男が、なぜかその企業の内定者として、缶コーラを片手に俺のほうを見ていた。




