面接無双
面接というものを、俺は完全に嘗めていた。
いや、正確に言えば、面接そのものは嘗めて正解だった。問題は面接以外の全部だった。
最初の一次面接。相手は若手の人事が二人。俺が椅子に腰を下ろした瞬間、二人の背筋がびくっと伸びた。まるで上司でも入ってきたみたいに。
「で、では……じ、自己PRをお願いします」
「学生時代に力を入れたことですね。二つあります。一つは、会計が不透明だった軽音サークルの帳簿の健全化。もう一つは、悪質なイベントサークルに引っかかった学生を、二十人ほど法的手段で救済したことです」
人事の二人が顔を見合わせた。二十歳の女子大生の口から出る言葉じゃない。当たり前だ。中身は営業二十四年のおっさんだ。
「な、なるほど……その法的手段というのは、具体的に」
「消費者庁への申告と、相手方の取引先への内容証明ですね。この手の会社は評判が商品なので。取引先が『関わるとまずい』と判断した瞬間に、指一本触れなくても勝手に崩れます」
沈黙。人事の一人が、ごくりと喉を鳴らした。
「……あなた、本当に二十歳ですか」
「戸籍上は」
嘘は言っていない。俺はしれっと答えた。四十六年ぶんの中身は、戸籍には載っていない。
*
面接の受け答えは完璧だった。営業で鍛えた「相手が次に欲しがる答えを、相手の顔色を読んで、過不足なく先回りして返す」技術。それを就活の面接でやる。そりゃあ無双する。俺は面接官が次に何を聞きたいかを、質問される前に話の流れで潰していった。面接官は用意した質問を、半分も使えなかった。
問題はそこじゃない。
俺が理路整然と喋れば喋るほど、面接官の顔が赤くなっていくのだ。有能さに、規格外の美貌が乗る。そのギャップに相手が勝手にやられていく。
「き、君のその……落ち着いた、大人びた雰囲気は、どこから来るのかな」
「苦労してきたので」
四十六年ぶんの苦労だ。リストラも借金も味わった。だがそれを聞いた中年の面接官は、なぜか目を潤ませて「いい……実にいい。最近の若い子にはない深みだ」と唸った。
俺はそれを「面接官の共感を得た」としか思わなかった。いい歳をした男が、若い女の苦労話に下心を少し混ぜてほだされている。その可能性は俺の頭には、やはり一ミリも浮かばない。
*
結果、俺は一次面接を全戦全勝で通過した。
だがその裏で、妙なことが起きていた。俺と同じグループで面接を受けた男子学生が、一人また一人と、就活そのものをやめていったのだ。
後日、相談サークルの後輩に、その理由を聞かされた。
「熊沢さんと同じグループになった男子、みんな心が折れるらしいっすよ。『あんな完璧で綺麗な人と横に並んで比べられたら、自分が惨めすぎてもう無理』って。ここ数週間で五人は、就活諦めてます」
「なんだそりゃ。俺はただ、普通に喋ってるだけだ」
「その『普通』が事故なんですって。核ミサイルの隣で手榴弾構えるようなもんですよ」
俺は面接会場でも、無自覚に人を潰し始めていた。サークルの次は就活戦線。舞台が変わっても、俺の破壊力は健在だった。
俺自身は何ひとつ気づいていなかったが。ただまっとうに就活をしているだけの、つもりだった。




