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中身がおっさんの女子大生、無自覚に就活戦線を潰し続ける ―最強のクラッシャー、内定を取りまくって社会に出る―  作者: らび


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後輩への答え

 就活がひと段落したある日。俺は田淵を公園に呼び出した。


 告白の答えを伝えるために。あれからずっと保留にしていた、答えを。


 田淵は緊張した面持ちで、ベンチの隣に座った。真っ直ぐに俺を見る。その混じり気のひとつもない目が、また俺の胸の一番柔らかいところをじくりと刺した。逃げたくなる。だが逃げない。


 中身は営業二十四年だ。一番言いにくいことほど、相手の目を見て逃げずに言う。それが筋だ。


 「田淵。お前の気持ちは本当に嬉しかった。世辞じゃない。生きてきて、あんなにまっすぐ人に想われたのは初めてだった」


 「……はい」


 「だが、俺はお前とは付き合えない」


 田淵の顔がこわばった。俺は言葉を選びながら、ゆっくりと続けた。


 「理由は詳しくは言えねえ。言っても信じられねえだろうし、信じたらもっと傷つく。……だが一つだけ本当のことを教えてやる。お前が惚れてる『熊沢先輩』ってのは、お前が思ってるような綺麗なもんじゃねえ。中身はひでえもんだ。お前がその中身を知ったら、百年の恋も一秒で冷める。それくらいひでえ」


 「そんなこと……! 俺、熊沢さんの中身に惚れたんです! 優しくて、頼りになって……!」


 「その優しさの正体が、四十六年ぶんのおっさんのお節介だ、って言ってもか」


 俺はつい口を滑らせて苦笑した。田淵はきょとんとした。冗談だと思ったらしい。それでいい。真実は冗談の顔をして、そっと置いておく。それがこいつへの、精一杯の誠実さだった。


 「お前はいい奴だ。真っ直ぐで、不器用で。だからこそお前には、お前にふさわしいまっすぐな相手がいる。俺なんかにその、生まれて初めての大事な本気を使うな。もったいねえ。宝の持ち腐れだ」


  *


 田淵はしばらく俯いていた。膝の上で拳を握って。そして顔を上げたとき、その目には涙が滲んでいた。だが泣き崩れはしなかった。ぐっと奥歯を噛んでこらえて、頷いた。


 「……分かりました。でも俺、熊沢さんのことを好きになったこと、後悔してないです。熊沢さんにいろいろ教わって、就活を乗り越えて……俺、ちょっとは変われたから。だからこの気持ちは、大事にしまっときます」


 「そうか」


 俺はそれしか言えなかった。柄にもなく胸がいっぱいで。


 「はい。……だから、これからも先輩でいてください。同期で、先輩で。時々、飯付き合ってください」


 俺は頷いた。


 「おう。困ったことがあったら、いつでも来い。愚痴でも相談でも聞いてやる。……ただし飯は割り勘だぞ。もうお互い就活生じゃねえんだ。社会人の先輩後輩だからな」


 田淵が涙目で、ぐしゃっと笑った。それから深く頭を下げて、走っていった。振り返らずに。強がって。その背中が、少しだけ大人に見えた。


  *


 田淵が消えた公園で。俺は一人、暮れていく空を見上げた。


 四十六年からからに乾いていた俺の心を、二度目の人生であの若造の好意が、確かに一度潤した。それを俺は自分の手で突っぱねた。正しい選択だと思う。あいつの未来のためにも。だが少しだけ、寂しくもあった。灯った火を、自分で消したのだ。寂しくないわけがない。


 「……ま、悪くない寂しさだ」


 誰かに本気で好かれた。ただそれだけで、四十六年ぶんの報われなさが、ほんの少し埋まった気がした。二度目の青春ってのは、案外こういうしょっぱくて後を引く味も味わわせてくれるらしい。契約書には書いてなかった、おまけだ。


 さて、と俺はベンチから立ち上がった。膝を叩いて。


 感傷はここまでだ。片づけなきゃならない汚れ仕事が、一つまだ残っている。あの就活生を食い物にしてきた卑劣なOB。あいつの落とし前を、きっちりつける時が来た。


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