ご老人の団体様をダンジョンにご招待
「さて、今日こそ資産を減らしますわよ」
金子社長は、休憩時間に外を散歩していた。
町中を歩き回り、着いたのは綺麗な海が見えるシーサイドだった。
(何か良い方法はあるのかし……ら……)
「はい。皆さん一列に並んでくださいね〜。秀治さんは列から離れないで。山子さんは……」
「それよりもガイドさんや……。儂はトイレに行きたいんじゃが……。トイレはどこかの……」
「儂は喉が渇いたんじゃが……」
「お腹が空いたのぉ……」
金子社長の目に映ったのは、ご老人の団体がガイドさんを振り回して観光している光景だった。
道を塞ぎ、列が中々動かず、ガイドさんがおどおどとしている。
「そ……それですわ!」
『プルルル……プルルル……ガチャッ』
「もしもし秘書。確か先日、下級ダンジョン権を国から買いましたわよね。ダンジョン探索者を始めたばかりの方を育てるというプロジェクトで」
「確かに買いましたけど……金子社長。いったい今度は何をするつもりですか?」
「良い案を思いつきましたわ。早速、今からわたくしが言うプロジェクトのとおりになさい」
「は……はぁ」
「そのプロジェクトは……」
〜3日後〜
京都府京都市にある初心者御用達のバイウダンジョン1階層内には、何軒か家が建っていた。
「金子社長。なんかこのダンジョン……畳のような……線香のような匂いがしませんか?」
「あぁ。それは、あちらに行けば分かりますわ」
家から離れ、少し開けたこのダンジョンの広場。
ダンジョン内の広場には、齢80歳を超えるじいさんや、ばあさんが集まっていた。
「ばあさんや……入れ歯を忘れたんじゃが」
「じいさん。入れ歯はしっかり付いてますよ」
「……ほんとじゃ」
「じいさんはどこいったんじゃ……」
「隣じゃよ」
あまりの光景に秘書は絶句した。
「金子社長……これはいったい何がしたいんですか? もしかして、このご老人達を探索者にするつもりじゃありませんよね?」
「良く分かりましたわね。この方達は老人ホームに通っている方達なのですが、家庭の事情で生活が苦しく、通い続ける事ができない人達ですわ」
「……また社長が意味分からないことしてるよ」
(そう。わたくしは、未来ある若者にダンジョン探索者になってもらうのではなく、生活に困っている老い先短いご老人にやってもらうのですわ)
「皆さんはこのダンジョンで自由にしてください。あの家で生活してもらっても構いませんし、モンスターを倒してもらっても構いませんわ」
「社長……あのご老人方は本当にモンスターを倒せるのですか? 転んだり、何かにぶつかっても骨が折れるかもしれませんよ?」
「大丈夫ですわ。それにここは食用ダンジョン。転んでも、地面も壁も柔らかくなってますの」
(そう。このダンジョンの1階はモンスターが出ない。モンスターが出るのは3000歩ほど歩かないと着かない3階以降。命の危険はありませんわ)
「はぁ……なら良いのですが……」
(さぁ、ダンジョン権の費用と、ここに建築した家の住宅費、光熱費とガス代と水道代……その他諸々加味して資産を減らせますわ!)
「楽しみですわ〜!」
〜1週間後〜
金子社長は、バイウダンジョンに向かっていた。
この1週間は順調に資産が減っており、絶対に上手く行ってるのだと思い、ルンルンな気分で視察に来たのだ。
「さぁ。あのダンジョンはどうなって……え?」
「しゅうちゃんが取った梅干しは美味しいのう」
「やまちゃんや。米はどこかね?」
「それが、無いんじゃ」
「儂が今から取りに行こうとしてたんじゃよ」
―――チャット欄―――――――――――――――
『このじいさんばあさん強すぎやろ』
『とても80代後半には見ぇねぇw』
『これが老後の楽しみとかエグいって』
『これは、老後のスローライフ……なのか……』
―――――――――――――――――――――――
「は……一体何が……起こってますの?」
「あっ……金子社長じゃ」
「みんな。金子社長が来たのじゃ」
―――チャット欄―――――――――――――――
『何かと思ったら……コンクリートの人か』
『この人、この前も地下駐車場作ってたよな』
『なんでこの人がここに……』
『まさか……』
―――――――――――――――――――――――
「あれ……なんか……人が増えてません? 前はもっとご老人の人数が少なかった気が……いったい、この1週間の間に何が起こったんですの?」
「……金子社長のおかげじゃ!」
「……あなたのおかげじゃ!」
「へ?」
―――チャット欄―――――――――――――――
『顔w』
『ぽかんとしてんな』
『この人……どこまで本気なんだ?』
―――――――――――――――――――――――
「あなたが連れてきてくれたこのダンジョン。食用ダンジョンじゃったから、儂らにも落ちている物を拾って食べて生活することができたんじゃ」
「それだけじゃないんじゃ」
「儂らは日頃から道端に生えている植物を採ってたから食べれる植物の見分けができたんじゃ。それで、採った植物を売ってお金を稼いだんじゃ」
「そのお金でこの3日間は配信をしてたんじゃ」
―――チャット欄―――――――――――――――
『この人救いすぎだろ』
『すげぇな』
『今来たけどなんでコンクリートの人がいる?』
『この人が生活に困ってた老人を救ったんだよ』
『この人らって生活に困ってるのか? そんなふうに見えないぞ?』
『前の配信で言ってたぞ。このダンジョンに来なかったら、飢えてたって。貯金が2万で年金も20日後だったららしいから』
『マジか……』
『そう考えたら、食用ダンジョンに生活に困ってる老人を集めたのヤバすぎねぇか?』
『ただ支えるだけじゃなくて自分の力で生きれる環境を作る。その環境を作るためにお金を使って全面サポート。現代で費用を除いて最適解だろ』
―――――――――――――――――――――――
「これは、儂らを救ってくれた分とここ数日で儂ら約800人で稼いだ分のお金……。6億円じゃ」
金子社長にお金が手渡された。
流石に断る事もできず、金子社長は受け取ることしかできなかった。
「そ……そんなのありですの〜? なんでダンジョン内でも、年の功を発揮してるんですわ!?」
〜2日後〜
「社長。以前のプロジェクト……老人ダンジョンからのお礼品が届いてます!」
「はぁ……一体何の品が……」
「社長に感謝の意を伝える為の社長似顔絵です」
「………………やって良かったですわ」




