【B. 決意の乗車】
封鎖線の手前、ひときわ大きな影が雨の帳を抜けて浮かび上がる。
それは、時代に取り残されたはずの古い蒸気機関車――《リヴァイアライン号》。
だが、この列車だけは“止まったまま”では終われなかった。
悠真の手によって、幾度も修復され、再び息を吹き返した“反逆の機関”。
燃料は石炭ではない。
その心臓にあるのは、人々の想いを動力とする特殊な魂導機関――
すなわち、「心動炉」。
悠真が誰にも告げず、夜な夜な組み上げてきた結晶。
かつて国家の教義を否定した「自由の鉄路」の象徴だった。
列車のボイラーが低く唸り、雨を弾く。
その響きに呼応するように、ギルド員とアカデミーの学生たちが次々に乗り込んでいく。
彼らの顔には恐怖よりも、“走りたい”という衝動が宿っていた。
クラリス「ほんとに行くんですか? 戻れないかもしれないのに!」
クラリスが笛を握りしめ、リリアナを見上げる。
その声は震えていたが、瞳だけは消えない灯を宿していた。
リリアナ「戻る場所なんて、もう焼かれました。
なら――進むしかないでしょう?」
雨に濡れた金髪が揺れ、リリアナの表情に決意が刻まれる。
その姿は、まるで夜明けを前に立つ灯火のようだった。
悠真は最後尾の車両に残り、ブレーキを外す。
金属の軋みが響き、長い間眠っていた列車がゆっくりと身を震わせた。
運転室に入ると、壁に掛かった古い計器盤が淡く光る。
彼はかつて教壇で、そして今、再びハンドルの前に立った。
“教師”ではなく――“運転士”として。
悠真「目的地、確認。」
短く問いかける声に、リリアナが答える。
その手には、かつて“祈り”の象徴だった「時刻表の書」。
今やそれは、新しい時代の航路図。
リリアナ「“自由行き”です。」
その瞬間、エンジンが脈動を始めた。
轟音と共に、金属の鼓動が夜の雨を切り裂く。
蒸気の白が宙を舞い、まるで“夢の軌跡”が空へと昇っていくようだった。
列車の灯が一つ、また一つと点り――
鉄と想いが共鳴する。
《リヴァイアライン号》、出発準備完了。
行き先は、誰の地図にもない場所。
ただひとつ、リリアナが指差す“自由”という名の未来だけだった。




