第16話 クライマックス ― 封鎖線を越えて 【A. 封鎖線の夜】
――夜は、まだ明けない。
冷たい雨が線路を叩き、濡れた鉄の匂いが空気を満たしていた。
首都外縁、グランノート防衛線。
そこは、国家が築いた“鉄道封鎖地帯”。
無数の軍列車が並び、空には魔導障壁が青白く揺らめいている。
まるでこの場所そのものが、「鉄道を信じる者」を拒む巨大な壁のようだった。
闇の中、ひっそりと列を成す影があった。
それは、鉄道ギルドの整備士たち、そしてアカデミーの学生たち。
彼らは灯を消し、雨に紛れながらひとつの線路へと集結していた。
その先には、赤く点滅する“封鎖灯”。
掲げられた標識には、硬い文字が刻まれている。
【国家鉄路以外、通行を禁ず】
――絶対命令。
それを越えた者は、“反逆者”とされる。
だが、その線を前にしても、誰一人として足を止めようとはしなかった。
機関車の影から、悠真がゆっくりと姿を現す。
雨に濡れた外套を翻しながら、彼は封鎖線を見据えた。
「列車は止まらねえ。
人の想いがレールを押す限りな。」
その声は低く、しかし確かな熱を帯びていた。
仲間たちの胸に灯をともすように。
リリアナは静かに頷き、「時刻表の書」を両手で抱えた。
古びた金文字が雨の中でわずかに光を放つ。
「……ここを越えなければ、鉄道は“祈り”のままです。」
その目は、もう迷っていなかった。
彼女の瞳の奥に映るのは――“次の路線”。
クラリスは操舵笛を構え、アルノは懐に“未来行き切符”を忍ばせる。
雨音の中で、彼らは互いの視線を交わした。
恐怖よりも、昂ぶりが勝っていた。
誰もが知っている。
この夜の発車が、世界の“終着”を越える一歩になることを。
――列車は、まだ走れる。
祈りではなく、心で。




