【B. グランベルの到来】
轟音とともに、廃駅の静寂が裂けた。
月光の下、黒鉄の車体がホームに滑り込む。
軍列車――その灯は冷たく、まるで夜そのものを押し退けるように強く輝いていた。
蒸気が吹き上がり、鉄と油の匂いがあたりを満たす。
開いた車両の扉から、一人の男が降り立った。
鋼の外套を羽織り、背には古びた書物――“鉄道規範書”を背負っている。
国家交通庁長官、グランベル・カーディス総監。
その足取りは、まるで重い時代そのものを踏みしめるように、音を立てて近づいてくる。
「久しいな、悠真。……いや、“教え子”と呼ぶべきか。」
静かな声が、冷気の中で響いた。
悠真は唇の端をわずかに歪めた。
「先生――あんたが、まだその名を覚えていたとはな。」
二人の間を、風が通り抜ける。
その一瞬に、過ぎ去った年月と、崩れた信念の距離が見えるようだった。
かつて彼らは同じ鉄道学院で“鉄路の神学”を学び、夢を語り合った仲だった。
だが――ある日を境に、道は分かれた。
悠真は「鉄道は心の自由だ」と説き、
グランベルは「鉄道は神の秩序だ」と信じた。
今、その二つの思想が、錆びたホームの上で再び交差する。
「お前が説いた“自由の鉄道”は、民を惑わせた。」
グランベルの瞳が、氷のように光る。
「線路は祈りの道。人が勝手に引けば、世界は乱れる。」
悠真は一歩、前に出た。
「違う。鉄道は神のものじゃない。」
低く、だが確かな声。
「走る者が信じ、繋ぐ者が築く――それが、人の道だ!」
言葉がぶつかり合う。
次の瞬間、軍列車の蒸気が一斉に吹き上がった。
二人の間を、白い霧が覆い尽くす。
まるで――“神と人”を隔てる、見えぬ境界線のように。




