【C. クラリスとアルノの救出】
爆ぜる炎の向こうから、二つの影が駆けてきた。
「リリアナ先生っ!」
煤けた声が、轟音を裂いて響く。
振り向いたリリアナの視界に、見慣れた二人の姿が飛び込んできた。
――クラリス。小柄な少女技師。
――アルノ。無骨な青年整備士。
煙の中で、クラリスは涙と汗に濡れた顔で叫ぶ。
「先生、こんな場所に……!」
「クラリス、笛を!」
リリアナの声は、焦げた空気を切り裂くほど鋭かった。
「“発車信号”を鳴らして!」
「了解!」
クラリスは胸元から銀の笛を取り出す。
それは、アカデミーでリリアナが授けた“旅立ちの証”。
小さな息が吹き込まれる。
――ピィィィ――
高く、澄み渡る音が、炎の街に響いた。
音が空気を震わせ、周囲の炎が一瞬、息を呑むように揺らぐ。
その瞬間――
燃え上がっていた無数の切符が、ふわりと宙へと舞い上がった。
赤い火の粉の中で、金色の紙片が光の粒に変わっていく。
まるで、人々の想いが炎を越えて天へ還っていくかのように。
リリアナは立ち止まり、抱いた《時刻表の書》を胸に、そっと目を閉じた。
(燃えるのではなく……還っていくのね。
人の願いが、空の線路へ……。)
アルノがリリアナの腕を取り、叫ぶ。
「退避路、確保した! 今のうちに!」
「ありがとう、アルノ!」
三人は燃え盛る庁舎を抜け、夜の通りへ飛び出した。
背後で切符庁が崩れ落ち、最後の光の粒が星のように舞い上がる。
その光は、いつまでも空に残っていた。
――まるで、誰かの旅立ちを見送る光のように。




