首都への召喚 ――「言葉で守るレール」
朝霧の差し込む教官棟。
リリアナの机の上に、黒い封筒が置かれていた。
表には、黄金の封蝋――《国家交通庁》の紋章。
それは、いわば“召喚状”であり、“警告”でもあった。
封を切る音が、静かな室内に響く。
紙の匂いとともに、冷たい文面が現れる。
『アカデミー・オブ・レール学監 リリアナ・クロウベル殿。
貴殿の発言は、国家秩序に重大な影響を及ぼす恐れあり。
速やかに首都管理局へ出頭されたし。
――国家交通庁・グランベル・カーディス総監』
職員室が、一瞬で凍りついた。
風が窓を叩く音だけが響く。
リリアナは無言で封筒を閉じ、瞳を伏せる。
震える指先をぎゅっと握り、深く息を整えた。
リリアナ「……これは、信仰ではなく、“心”の裁判ですね。」
その声には、怯えよりも静かな覚悟があった。
隣で整備服の青年――悠真が、ゆっくりと顔を上げる。
油で汚れた手に、彼はスパナを持ったままだ。
悠真「行くのか。」
リリアナ「ええ。線路を、言葉で守るために。」
リリアナの背筋はまっすぐだった。
かつて学園で誰よりも列車を愛し、誰よりも人の想いを信じた彼女。
今、その信念が国家の法と正面から衝突しようとしている。
悠真は黙って工具箱を掴む。
金属の音が小さく鳴った。
窓の外――鉄道ギルドの若者たちが、裏路線の整備を始めている。
まだ見ぬ“自由の線路”を開くために。
悠真「なら俺は、“裏の路線”を整備しておく。
もし国家が閉じるなら、俺たちが開く。」
リリアナはその言葉に、わずかに微笑んだ。
互いに何も言わず、ただ視線を交わす。
決意の光が、ふたりの瞳の奥で静かに燃え上がった。
――その日、彼女は“心の鉄道”を言葉で護る覚悟を固めた。
そして彼は、“魂の線路”を再び繋ぐため、闇の作業へと向かっていった。
朝の汽笛が遠くで鳴り響く。
それは、彼らを分かつ音であり――同時に、未来を告げる始発の合図だった。




