2. 時間逆行現象の発生
――音が、逆流していた。
カチ、カチ、と鳴る壁時計の針が、不自然な方向へ進んでいく。
それに合わせて、廊下の光景も変質し始めた。
磨き上げられていた床が、次第に埃を帯びていく。
掲示板のプリントが一枚ずつはがれ落ち、代わりに“昨日の予定表”が貼り戻される。
窓の外――工事用トロッコがガラガラと音を立て、逆走していた。
その周囲には、青白い光の残像のような“整備員の幽影”たちが浮かび上がり、
レールを敷く動作を巻き戻している。
まるで、時間そのものが編集されているようだった。
教室の方から、生徒たちの悲鳴が響く。
「な、なんで!? 授業が昨日の内容に戻ってる!?」
「えっ……ノートの文字まで消えてるんだけど!?」
「あ、あれ!? 昨日の私が隣に座ってる!?」
――時間層の重複。
“昨日の学園”と“今日の学園”が同じ場所に存在し始めていた。
リリアナは即座に魔導端末を展開し、干渉波を解析する。
スクリーン上に、複雑な時間軸のグラフが二重に重なって表示された。
「……校内時間層が二重化しています。“昨日”と“今日”が並行して存在してるわ。」
「要するに、過去と現在のダイヤが被ってるってわけか。」悠真が短く息を吐く。
リリアナは青ざめた顔で続けた。
「時間の印刷誤差……紙媒体で時空を巻き戻すなんて、聞いたことありません!」
「つまり――“過去行き切符”か。」悠真は苦笑し、肩をすくめた。
「やらかしたな、アルノ。」
その言葉に、アルノが顔を真っ青にして立ち尽くす。
「せ、先生っ……どうしよう! 僕、学園を昨日に戻しちゃった!!」
「お前、やっちまったもんは仕方ねぇ。落ち着け。」悠真が手を置く。
「修理する。線路がある限り、時間だって繋げる。」
その一言に、リリアナが思わず振り向く。
「あなた……“時間の線路”を敷くつもりですか?」
「当たり前だろ。鉄道は“過去と未来を結ぶ約束”だ。」
窓の外で、校舎の時計塔がゆっくりと逆回転を止める。
だが、止まったのは“昨日の朝六時”。
――この学園は、今、“昨日”のまま停止していた。
悠真は拳を握りしめた。
「行くぞ。時間を修復する作業――始発だ。」




