第8話 笛で告白事件:謎の恋愛ジンクス、拡散中
朝。
アカデミー・オブ・レールの寮棟に、けたたましい汽笛のような起床合図が鳴り響いた。
まだ眠気の残る生徒たちが慌ただしく制服を着て廊下に出る――その瞬間、校内放送が鳴る。
『――速報!昨夜、プラットフォーム裏で発車笛を吹いた二人が、手を繋いで帰ったとの目撃情報あり!
以降、“発車笛で想いを告げると両想いになる”という噂が全校に拡散中!』
ざわっ、と廊下がどよめいた。
女子寮の窓から顔を出す者、購買前で笛を取り出す者、男子は男子で「マジか!?」と笛を取り合う。
「おい、俺の笛どこ行った!?」「それって、恋愛用の笛?」「いや、信号笛!」
すでに混乱である。
中庭では“恋愛発車タイミングを合わせよう同盟”なる張り紙まで貼られ、
見知らぬペアが向かい合って同時に笛を構える、という謎の光景が展開中だった。
「3、2、1――発車ぁっ!」
ピィイイイィ――♡
……二人とも赤面して沈黙。
周囲の見物人が「きゃー!」と歓声を上げる。
校門前を通りがかった悠真とリリアナは、完全に時代に取り残された表情で立ち尽くした。
悠真「……なんだこれ。恋愛運行ダイヤでも組まれてんのか?」
リリアナ「“運行”というより“暴走”ですね。……見てください、“恋愛運行組合”とかいう腕章まで。」
悠真「軌道整備より恋路整備の方が早いな……。」
呆れながらも、悠真は人々の笛を見つめた。
――笛。
本来なら列車の出発を告げる“約束”の音。
だが今は、誰かの心を告げる“祈り”の音に変わりつつあった。
悠真(心の声)「……くだらない騒ぎだ。でも――悪くない。
誰かの想いで、鉄道が再び“心を運ぶ”なら。」
その言葉を飲み込むように、再び笛の音が空を満たした。
青空の下で鳴り響くその音は、どこか甘く、少しだけ眩しかった。




