2. 授業崩壊:笛の音が乱れ飛ぶ
午前十時、アカデミー・オブ・レール第一講義室。
悠真はチョークを走らせながら、静かに黒板へ線を引いていた。
悠真「――これが、列車ダイヤの基礎だ。一本の線路に複数の想いが乗る。だから、正確に――」
その瞬間。
どこからともなく、やたら甘い音色が響いた。
ピィイイイィ……♡(※恋の音)
教室の空気が一瞬で凍る。
次の瞬間、ざわめきが爆発した。
「いまの音……発車笛!?」「誰か、告った!?」「どこ!?誰と誰!?」
「ちがう!風紀委員が聞いたって!」
悠真の額に青筋が浮かぶ。
悠真「……授業中だぞ。笛の発車は禁止――」
が、その言葉より早く、
教室の隅でクラリス(呪笛少女)が立ち上がった。
顔はりんごのように真っ赤、手に持つ笛は震えている。
クラリス「せ、先生っ! その……笛、ちょっと試してみてもいいですかっ!」
悠真「授業中に!? 誰に告白すんだよ!?」
クラリス「えっ、その……線路に!」
悠真「対象おかしいだろ!!」
だが、クラリスはすでに吹いていた。
ピィイイイィィ――!!
その瞬間、窓の外が急に光り、虹と小雨が同時に発生。
机の上のチョークが震え、リリアナの髪が静電気で逆立つ。
リリアナ「……また天候変化!? 教室内でマルチ気象現象を起こさないでください!」
悠真「笛を置け!笛を!!」
しかし、生徒たちの感情はもう止まらなかった。
次々に笛を取り出し――
「試しにハーモニーしてみよう!」
「恋愛合奏タイムです!」
「3、2、1――発車♡」
ピィィィィィィィィィィィィ――――!!
音階が交錯し、空気が震える。
教室どころか校舎全体が低く共鳴し始めた。
そして――魔導鉄道管制システムが誤作動を起こす。
【警告:誤発車信号検知。構内トロッコ、発進準備――】
廊下の奥で、無人トロッコがガコン、と音を立てて動き出した。
悠真「おい待て! 本当に発車してんじゃねえか!」
リリアナ「停止信号送信!停止信号!……あっ、誰ですか“恋愛運行モード”に切り替えたの!」
生徒A「だって響きがロマンチックで!」
悠真「どんな制御思想だよそれ!?」
トロッコは花壇を突っ切り、廊下を滑走。
乗ってもいないのに車掌アナウンスが流れた。
《次は――恋の終点前、想い出駅~♡》
悠真「もうやめてくれぇぇぇっ!!」
笛と悲鳴とトロッコ音が入り乱れ、講義室はもはや戦場。
だが、リリアナはそんな混乱の中で、ふと微笑んだ。
リリアナ「……でも先生、皆、ほんの少しだけ“想い”を運び始めましたね。」
悠真「いや、今は人とトロッコがぶつかる方が先だろ!」
――それでも。
誰かの笛が、確かに小さな“心の発車音”を響かせていた。




