第6話 車掌学校への招待 1. プロローグ ― 希望支線の余韻 ―
初夏の風が、線路の上をやさしく撫でていった。
かつて真新しい鉄の帯だった希望支線は、今では緑の蔦に包まれ、どこか生命の温もりを感じさせている。
列車が通らない昼下がりの線路は静かだったが、その静けさは“終わり”ではなく、“定着”の音だった。
悠真はスパナ片手に、緩んだボルトを締めていた。
油の匂いと草の香りが混ざり合い、汗ばむ額に陽光が反射する。
線路脇では、子どもたちが“トロッコまつり”の準備をしており、紙製の列車を引っ張って笑っている。
村の駅舎には新しい看板が掲げられていた。
《希望支線・ルミナ駅》――この村の誇り。
観光客が増え、駅前の屋台では「鉄道まんじゅう」「線路焼き」など妙な名物が売られている。
そんな穏やかな風景の中、リリアナは村役場で書類にペンを走らせていた。
手元にあるのは、“鉄道教義”の改訂版。かつて“神の道”とされていた鉄路を、“人の努力の象徴”として再解釈するための文書だ。
リリアナ「……“信仰から希望へ”か。言葉にするのは簡単じゃありませんね。」
小さくため息をつき、窓の外を見やる。
線路の上で作業している悠真の姿が見える。
その背に、風が吹き抜ける。
やがて、リリアナが静かに声をかけた。
「静かになりましたね。線路って、音が止まると急に寂しく感じます。」
悠真は工具を置き、額の汗を拭いながら笑った。
「でも、あの音はもう“消えた”んじゃない。今も誰かの中で響いてる。」
その言葉に、リリアナは一瞬だけ手を止めた。
風が窓を揺らし、遠くで子どもたちの笑い声が響く。
かつて“信仰の道”だった線路は、いまや“暮らしの道”となった。
人々の心に、確かに“鉄の音”が根を下ろし始めている。
――それが、すべての“次の物語”の始まりだった。
汽笛のような風の音が、静かな村に、やさしく鳴り響く。




