【D. 安全祈願の“発車式”】
陽が傾く頃、ついに“希望支線”の仮設レールが数十メートル完成した。
悠真は胸を高鳴らせながら、簡易トロッコを押し出す。
悠真「よし、まずは安全確認を――」
その瞬間、村の鐘が鳴り響いた。
カーン……カーン……と荘厳な音が山々にこだまする。
花びらが舞い、村人たちが列をなして集まってくる。
誰かが笛を吹き、誰かが旗を振り――もう完全にお祭り騒ぎだ。
悠真「……なにこれ?」
リリアナ「“発車祭”です。どうやら村長の号令で始まったようですね。」
気づけば悠真は壇上(※レールの上)に立たされ、
リリアナは正装の車掌帽を被って、式次第を読み上げている。
リリアナ「第一の儀――“鉄の祈り”を捧ぐ。」
悠真「ちょっ、ちょっと待って!? 俺、ただテスト走行を――」
村長「鉄の巡礼者よ、神の軌跡を走らせたもう!」
村人たち「おぉぉぉぉぉぉ……!!!」
歓声と花びらの嵐。
悠真の手にトロッコのレバーが無理やり握らされる。
リリアナ(小声で)
「観念して進行してください。もう神事になってます。」
悠真「いや、俺そんなつもりじゃ……」
リリアナ「“出発進行”って言えば、たぶん収まります。」
悠真「そんな呪文みたいに言うなぁぁぁ!!」
村人の合唱が高まり、トロッコがゆっくりと動き出す。
軋むレール、きらめく夕陽――そして、盛大に鳴り響く鐘。
悠真(心の声)
「この異世界……宗教と工学の区別どこいった!?」
村人「神の車が走ったぁぁぁ!!」
リリアナ(ため息)「……はい、完全に信仰になりましたね。」
悠真は頭を抱えつつも、ほんの少しだけ笑ってしまう。
レールの上を走るトロッコの音が――まるで昔の汽笛のように響いていた。




