表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/85

異国の友人

 ヴィンはレイの手を握りしめていた。


「絶対に離さないでくれ」


「大げさな。たかが虫歯の治療くらいで騒ぐな」


 レイに呆れられようが、こればかりは怖い。


 アルジュンが連れてきた医者から、新しい治療法を聞いたレイが虫歯持ちを探したら、すぐ隣にいた。


「双子だってもっと大きく口を開けたよ」


「そうよ。ヴィンセントも頑張って。少しも痛くなかったわ」


 アナは先にぐらぐらの乳歯を抜かれた。

 新しい歯が生えるまで、口を聞かないと宣言していたが、女の子にそれは無理だった。


 ルーは抜けたところををみんなに見せに行ってしまった。

 頑張ったと菓子を山ほど持ち帰るだろう。


「治るまで酒は飲ませないから。それと……」


 耳元で「キスさせない」とレイが呟けば、ヴィンは目をぎゅっと閉じ、口を開けた。


「先生、よろしく。思い切り痛くして構わない」


「うぎゃ-」



 領主一家の昼食は今日もカレー。

 ヴィンだけ、噛まなくてもいいカレースープ。


「もういい加減飽きたなって思っても、食べたくなる。不思議な食べものだね」


「レイさま、クッキー。おなじ」


「アルジュンにも気に入ってもらえて良かった」


 お国にも似た菓子があるらしい。


「ところで王都へは案内しないのか?」


 ヴィンが口を開いた。やっとしびれはなくなった。


「いきなり知らない異国の商人を連れて行ったら、心配する者も多い」


 言葉が通じない。それは見えない壁だ。


 その点、ウィステリアは国境に近く、観光客も多い。領民は外から来る者を見慣れていた。


「しんぱい、わかる。でも、だいじょうぶ」


「先にアルジュン達が覚えるか、僕達が覚えて通訳するかだね」


 レイはゆっくりなら聞き取れるまでに。双子とオズワルドも、もう挨拶は話せるようになった。


「ダレン国では通じたのか?」


「あそこはわからなかったら、手振り身振りで進めちゃうから」


 アルジュンがうなずく。

 ヴィンも納得。


「さて。僕はそろそろ仕事に戻るよ。アルジュンはこの後どうする?」


「そめもの、みる」


「最近は染め物体験も出来るから、楽しんできて。セオ、案内を」


「よし。アルジュン、行こうぜ」


 言葉はわからなくても、セオは面白がって案内を買って出ていた。



 レイは、アルジュンからもらった地図を広げていた。


「海の向こうが気になるのか?」


「うーん。興味はあるけど」


「そうか」


 レイはそれきり黙って仕事に入ってしまった。


 ヴィンはてっきり、レイが行きたいと言い出すかと思った。


 まだここでやりたい事があるのだろう。


 いつかモリオン達のように、旅に出る日がくるかも知れない。



 レイはアルジュン一行を、王都どころか、自慢の騎士団に案内しない。温泉村も。


 領内でも商店街や工房など行けるところはわずか。あとは雑貨屋で時間を潰していた。


 それでもアルジュンは文句も言わずに、レイに従っていた。


「なぜだ? 歓迎すると言っていたよな」


 もし警戒しているなら、双子のいるソフィアの屋敷にも近づけさせないはず。そもそも滞在させない。


「してるよ。彼は商人と名乗った。それ相応の対応はしている」


「ただの商人ではないと?」


「さあね。飽きたら帰るだろうし、取引したいなら話は聞く。それだけ」


 鳩待ちか。どんな土産話がでるか楽しみだ。



 鳩とセオの元にいるクロウが連れてきたイスカールの諜報員達を見て、アルジュンはレイの執務室で素晴らしいと手を叩く。


 フェリシティ国周辺を探っていた。表の顔は商人。商談が済むまで、絶対に動かないと鳩達を困らせた。


「レイさま、ハリーさま。てき、したくなーい」


「それは良かった。そろそろ結果を教えていただけるのかな」


 レイは笑っている。


「私はこの国と取引を決めました。大きな港がないのは残念だが、川がある」


 突然、アルジュンが流暢に話し始めた。


 荷運びの安全性や、実際に商品が動いているかを見定められていた。


「決め手は?」


「こんな片隅の領でさえ、各国から品物が届けられている。情報もね」


 アルジュンがハリーをちらりと見た。


「ここで作られる商品も魅力だ。それに面白い領主がいた」


「ふふ。僕も見られていたか」


「あなたは不思議な人だ。少しも私から目を逸らさずに、話を聞いてくれた。そういう方は意外と少ないのですよ」


「信頼を得るには、まずその人を知らなくては」


「信頼ねえ。セオだけでなく、何人、私に付いていたんです?」


「正体がわからないんだから、護衛も見張りも必要でしょ。護衛料はもらうからね」


「おお。ここにも抜け目のない商人がいた。これは楽しめる」


 駆け引きこそ、この男の娯楽だった。

 アルジュンの目が輝き出す。


「もうひとつ。この大陸で、レイ様の手が届かないところはないようだ」


「僕が直接知らなくても、どこかでつながっている。知らない街で、僕達の作った商品が棚に並んでいるかもしれないね」


 ここが、中心か。


 ダレンの王子が、港もない内陸部へ行くように言った時は、何故だかわからなかった。


 アルジュンが、わずかに言葉を選ぶように間を置いた。


「私の国も――仲間に、いれていただけますか」


「イスカール国が良き友人であるなら」


 レイはまっすぐにアルジュンを見る。


 争いだけは持ち込ませない。すべてが商品というなら、当然危険なものも動く。


「もちろんです。我が国も平和を望んでいます」


「では、もう一度握手を」


 アルジュンは両手でレイの手を包む。


「これからは、どのようにお呼びすればいいか。 領主様? 公爵?」


「レイでいい。改めてようこそ。アルジュン」


 領主館の応接室に毛足の長い絨毯が敷かれ、金箔が貼られた家具が運び込まれた。


 すべてアルジュンのためのもの。


 王族でもここまで揃えることは難しい。それでもアルジュンは商人の息子だと言う。


 豪商たちが治める国。品物も情報も知識もすべてが商品。医術、薬は特に高い価値を持つ。


「ここ、僕が使うんだけど」


 レイが退かせといえば、これも商品だと値札を貼り始めた。


「この部屋をあなたの一番新しい友人にお貸しください。いかがですか? 早い者勝ちですよ」


 次々と商品が並べられ、商人達が身をのりだす。


 商会長がレイに頭を下げた。


「レイ様、私は彼らのことを知っていて黙っていた。お許しください。これほどの珍しい商品を逃したくなくて」


「マックス会長、気にしなくていい。ああ、香辛料は買っておいて」


「わかっていますよ。必ずレイ様ご一家もカレーを気に入ると思っていました」


 レイはカレー専門店を作ろうか、お悩み中。


「まんまと罠にはまった気分。でもいいよ。美味しいものは人をつなぐ。僕らのようにね」


「良き出会いに、感謝を」


 アルジュンはもう一度、レイの手をとった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ