↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/100

第62話 「月の仮面が夜に舞う・中編」

 変わった部屋だった。

 ゾゾルが「趣味」に使っていた部屋に似ている。窓が無く、明かりは蝋燭だけで暗い。

 そこそこ広い。

 学校の教室ひとつ分くらいある。


 一番変わっていたのは、床、天井から四方の壁にいたるまで、全てに布が張り巡らされていたことだ。

 扉が三枚もあったことと合わせて考えると、防音(・・)のためだろう。

 ウルウェーテルの「魔光」は大きな音を伴う。そのための措置だ。

 あるいは、階下でバカ騒ぎする手下の声を気にせず、子供への虐待に没頭したいからかもしれない。


「んじゃ、俺らはこれで」

「おい、早く酒を呑みに行こうぜ」


 そう言って二人はそそくさと出て行き、この部屋には四人だけが残された。

 もちろん俺以外の人にとっては、三人に見えるだろうが。


 ウルウェーテルは、まるで極上のワインをテイスティングするかのように口をモゴモゴと動かし、それからスゥーッ、と鼻から息を吸い込んだ。


「ああ……――惜しい」


 ハマルとリリャはビクッと体を縮こまらせる。

 ウルウェーテルの威圧感に、すっかり平静じゃいられないのだろう。

 ヤツの頭上に浮かぶ、強者の証明、「21」のランゴ。

 対して子供たちは、どちらも最低の「100001である。


「惜しいなぁ……残りが二発だけ(・・・・)とは」


 そう言って山高帽を脱ぐと、恭しい手つきで横の帽子掛けに掛けた。

 ジャルバダールは帽子よりもターバンの方が多いため、あの帽子掛けは別の地方から自分で持参したものだろう。


 それにしても……「二発」とは?


「そっちの娘……覚えているぞ。三日前に私が壊して(・・・)やった子供だねぇ。ふふふ……懲りずにここへ来るなんて、私に虐められるのがクセになったのではないだろうね?」


 そんなふざけたことを平気で言う。

 指を差されたリリャは、ノロノロとハマルの後ろへ隠れる。

 ハマルは自分もガクガクと震えているにも関わらず、しっかりとリリャの前に立った。


 こんな立派な兄ちゃんは、そうそういないだろう。


「そっちの少年は初めてか……。んふふ。怖がる必要は無いよ。私の『魔光』はね、すぐに気を失わせてくれるから。でも、もし……私がうっかり失敗すれば、当たりどころが悪いと君たちも死んじゃうかもしれない。今日もね、五人の戦士を、この魔法で殺してきたのだよ」


 死ぬ、殺す――おそらく意図的にその言葉を使ったのだろう。ハマルとリリャはすっかり怯え、その場にへなへなとへたり込んでしまった。


「だが、そうだな……今日はもう五発使った……あと二発か。……さて、どちらからやるか、あるいは同時に……。いや、それでは片方の反応を見逃すことになるから勿体ないなぁ……」


 ぶつぶつと言っていたが、ようやく俺は理解した。

 ウルウェーテルは手下どもと帰ってくる途中、「魔光」に制限は無いのか、などという話をしていた。魔法を何発も撃っても疲れたりしないのか、と。

 そのときヤツは「当然無い」というようなことを言っていたが、やはり制限はあるのだ。


 ゲームでいうようなマジックポイントとか、そういう精神力的なものを使うのだろうか。

 分からないが、とにかく限界はある。

 そして、どうやらそれはあと二発らしい。


「――決めた。えーっと、そっちの少年は娘の兄だっけ? それじゃあね、まず君からやってあげよう」


 ウルウェーテルはハマルを指差した。

 彼は青ざめ、その体は凍りついたように固まる。


「娘を壊しきってからではつまらないからねぇ。兄が壊れるところを、妹がそのぼんやりした頭で理解できるのか興味が湧いたんだ。少年、前へ出ろ。そして見るのです。これが私の『魔光』だ――」


 ウルウェーテルが前方へ手をかざすと、野球ボール大の黒い光が――いや光が黒いというのもおかしいが、そう表現するのが一番しっくりくるような……さながらエネルギーの凝縮体とでもいったような球体が空中に現れた。

 まるで大気中のエネルギーを――この場合は「魔素」、か――吸い取とるようにして、どんどん黒くなっていく。


 だが、俺はウルウェーテルの表情に注目した。


 魔光が力を増していくにつれ、ヤツの顔からも生気が失われていくのだ。

 そのとき俺は、この世界の魔法というものにどうもイヤ(・・)な感じを覚えた。

 本人が魔法を使うというよりも、まるで人間が魔法に使われているようだと……そんな風に感じたのだ。

 上手く言えないが、あくまで感覚的なものとして。


 そしてヤツの魔法に限界があることは、その表情を注視すれば一目瞭然だった。

 少しずつ狂気じみていく顔。

 疲れているのにやめられない、とでもいったようなおぞましい顔だ。


「……ほら、前へ出ろ、少年。妹が巻き添えになってもいいのか?」


 ウルウェーテルはハマルを煽る。

 彼は固まった体を、それでも兄としての使命感からか、ゆっくりと動かした。

 じり、じり、と魔法使いの方へ這っていく。


「……お、おにいちゃ……」


 か細い声で兄を止めようとするのはリリャだ。

 一度ウルウェーテルに恐ろしい思いをさせらているにも関わらず、兄を想う姿は健気である。

 その光景に、悪党は恍惚の笑みを浮かべた。


 まったく――


 ――どこの世界にも、クズが多過ぎる。



「くくく……よろしい。それでは喰らいなさい!」


 ハマルはぎゅっと目を閉じた。



 ――ガンッ!


「ぶぎゅっ!?」


 ボフンッ、と不思議な音を立て、空中にあった黒い光が掻き消える。


 鉄球に顔面をぶん殴られたウルウェーテルは、後ろにすっ飛んで地面に倒れた。


「ふぁっ……ふぁあっ!?」


 ビクン、ビクンと震える魔法使いを見下ろすと、俺はさらにヤツの両手と、両脚の膝を砕いた。

「ひっ、ひぎゃあああっ――!?」


 バスタークならまだ一度や二度は起き上がったかもしれないが、常人なら再起不能だろう。

 鎧さえ着ていない相手など、透明人間の敵じゃないのだ。

 殺してもいいと思っていたが、子供たちの新たなトラウマになっても良くないからな……。


 どれだけ強力な力を持つ戦士でも、勝てないもの――「不意討ち」と「急所」だ。

 透明人間になってから何度も感じていたことだが、改めて思う。

 強い戦士がなぜ強いのか。

 武器の扱い、練磨された技術、膂力(りょりょく)、体の丈夫さ、隙の無さ……色々あるだろう。

 だがそもそもそれらの要素を百パーセント発揮できるのは、彼らが“臨戦態勢であるとき”、という前提がつく。


 いわゆる不意討ちというのは、多くの要素を解除させてダメージを与えることだ。

 これが有効でないなら、暗殺者なんて職業はすでに廃れている。

 現代日本……というか世界的に紀元前から現代まで無くならない職業である。その事実こそが、不意討ちの脅威性を証明している。


 不意討ちを防げるとすれば、それは「狙いが外れる」、もしくは「頑丈すぎて効かなかった」の二つだろうが、どこまでも接近できる透明人間が狙いを外すことはあり得ないし、頑丈な体を持つ戦士も「急所」までは鍛えられない。


 つまり、相手が誰であろうと透明人間の一撃は防げない。


 俺が手に握っているのはメイス(・・・)である。「フンドウ・フレイル」よりも狭い場所で扱いやすい。

 ごく簡単に言えば、棒の先に鉄球がくっついた武器だ。これの素晴らしいところは、使い手が非力だとしても振り回せばある程度の殺傷能力が得られる点だ。

 中でも、軽量な割にダメージを与えられるものをレモネットに選んでもらったのだ。


 ウルウェーテルの強さは結局、魔法の力にある。しかしそれを使うためには、安全な場所、時間稼ぎをしてくれる手下、狙うべき相手の姿が見えていることが必要だからな。

 早いうちから手の内を知ることも出来たし、俺の敵じゃなかった。



 ヤツのランゴが「10080」に変わるのを見て、すぐに透明化している自分のランゴの数字を、「10080」から「21」へ変わるよう意識を移した。

 「21」という数字は自分と一体である、と強く思い込む。

 これで新たに変わった数字も「シェード・オフ」することが出来たはずだ。


 さらに部屋の壁から布を剥ぎ取ると、それでウルウェーテルの顔と体を縛る。

 どっちにしろ動けないだろうが、念のため。


 そして目を閉じたままのハマルが、どうも何か変なことが起こってるような……と不安な表情を浮かべたところで、声を掛けた。


「――ハマルくん、安心するんだ。君と妹を脅かしていたヤツは倒した」


 努めて優しく、柔らかい声で。

 自分が好きだったヒーローたちを思い浮かべて。


 ……ふえ? と震えた声を漏らし、少年はおそるおそる目を開けた。


 すでに俺は姿を現し、月の仮面を被ったまま立っている。

 さらに足元には、ぐるぐる巻きになった男が失神していた。


「……あ……あなたは……?」


「ツキト・ハギノ。君たちを助けに来た者だ。だがまだ、この建物から抜け出すのは難しい。きっと戻ってくるから、ここで待っていてくれないか?」


「え……えっと……」

 ハマルは後ずさる。


 まあ……急に現れて、怪しい仮面を被っていて、すぐに信じろという方が無理か。


「キャンディーは好きかな?」


 俺は懐から二つの包み紙を取り出すと、それをハマルに差し出した。


「大丈夫だ。必ず君たちを連れ出してやる。これはプレゼントだ。妹のためによく頑張ったね。二人で分けなさい」


 するとハマルは訝りながらも、コクリ、と小さく頷いた。


「いい子だ。また戻ってくる。これからひと騒動起こすから、誰もこの部屋へ来ようとはしないと思うけど……念のため、あの中にでも隠れていてくれ」


 俺は部屋の隅にある箪笥を指差した。


 これまで大人の暴力に脅されてきた彼らが素直に言うことを聞いてくれるか若干の不安はあるが、ハマルたちだって敵の根城にあって二人だけで逃げ出そうなんて思わないだろう。

 特に一度は無理をしてウルウェーテルの部下に突撃し、そのせいで自分と妹が生贄に差し出された後なのだ。


 俺は扉を出て、バタンと閉めると再び姿を消した。

 三枚も扉があるなんて透明人間に優しい造りだな。


 さて――と。


 ここからは、俺のアドリブ(・・・・)だ。

 ウルウェーテルを倒す……実はハナから、それだけで終わる気は無い。

 この御殿に巣食うゴミどもを掃除していく予定だ。


 そうすれば、

 捕らえられた子供たちを解放できる。

 ブトランテラの力を削ぐことができる。

 そこまでやるなんて思ってないであろうラインデッドやレフティに、より成果を見せつけることができる。


 一石三鳥なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いやぁ無双を期待してましたが、想像以上に瞬殺楽勝でニッコリ(*^_^*) 無双ゲーよろしく、ここから雑魚狩りですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。