第59話 「会議は踊る、さらば目論む」
「えー、この場を取り仕切らせてもらう、ツキト団のシューシュカちゃんです。皆さまよろしくお願いしますぅ」
シューシュカが、るん、というオノマトペでもくっつきそうなポーズで会議の開始を告げる。
参加者は全部で十人。
まず「ツキト団」の全員。
すなわち、
俺、
ニュト、
シューシュカ、
レモネット、
そして俺の傘下に入ってもらったブラーの五人。
ブラーはまだ傷が癒えていないが、動いたり喋ったりするのに支障は無いようで、参加してもらった。
すさまじい回復力である。
一方、ゾゾルの方からも五人。
ゾゾルのほか、
モヒカンのマッチョ、イシカン、
スキンヘッドのマッチョ、キヌエド、
そしてゾゾルの右腕である「ラインデッド」と、
同じく左腕である「レフティ」。
ラインデッドは、長い金髪にアゴひげの伊達男といった風貌だが、上半身が裸の体にはジャルバダールの神様らしいタトゥーが彫られており、なかなか凄みがある(余談だが、ゾゾルの両腕に彫られている神様とはまた別のようだ)。
しかもランゴは「99」と、二ケタ台。
レフティは、なんと獣人であった。
ロストグラフでもジャルバダールでも見たことがなかったが、そういう人種があるのは知っていた。
レフティの場合、正しくは「狼人」というらしい。
たしかに狼そのものの顔をしていて、体は人間だが毛深い。
狼人は力が強いだけじゃなく、二足歩行から四足歩行への移行が可能で、四足のときはマハランに次ぐほど速いそうだ。
ランゴは「108」。胸や太ももが大きく、長身で、しなやかな筋肉が見て取れる。
ラインデッドとレフティは、例のファッションショーのときは仕事で不参加だった。
だから俺のこともよく知らない。
今回の会議は互いの組織の親交もかねている。
場所はゾゾルの本拠地の中にある大部屋だ。
「さてさて、まず我らツキト団からの提案は、すでにゾゾルさんへと伝わっていると思いますが――」
「――……『ブトランテラ』を潰す、か。くっくっく……またまた無茶を言い出したもんでさぁ」
ゾゾルがおかしそうに笑った。彼が笑うと実に迫力がある。
「だがまあ、俺様はアンタの指示に従うよう命令されてんだ。聞かないわけにはいきませんや」
「今のランゴはお前の方が上だろう」
現在、ゾゾルは元々の「30」を、俺は「1202」を頭上に浮かべている。
「いいんですよ、俺様はアンタに惚れちまったんですから。だがね、どうにも文句のあるヤツはいるそうで……。悪ぃがそっちは、俺様が無理やり言うことを聞かせることも出来ねぇ。ツキト、アンタの腕の見せ所ってやつでさぁ」
文句のあるヤツ……尋ねるまでもなく、ラインデッドとレフティだった。
彼らはさっきから――いや正しくはこの部屋に入ったときから、疑惑の目線を投げてきている。
無理も無い。
自分たちが仕事に行っている間に、いつしか憧れのボスがどこの馬の骨とも知れない男に懐柔されてしまったんだから。
「まあ、信頼関係はこれから築いていきたいところだ。ラインデッド、レフティ、よろしく」
挨拶をしたが、二人は返事をしなかった。
ラインデッドは机に両足を乗せながらニヤニヤと俺を見て、レフティも黙ったまま頬杖をついている。
ゾゾルもにんまりと笑っているのを見ると、言葉通りお手並み拝見といったところなのだろう。
連合軍といえど、そもそも相手は無法者たちの集まりである。
これくらいの洗礼は大したことじゃない。
「あー……それじゃあまずどうやってブトランテラを攻略するかだが、先日うちに入団したブラーが、彼らの情報をいくつか集めている。その共有から始めたい」
俺が言うと、シューシュカがゾゾルたちの方を向いた。
「会議の流れとしては、我々ツキト団からブトランテラの情報提供をしたあと、ゾゾルさんたちから質問。そして最終決定をツキト様とゾゾルさんのお二人にしてもらうって感じですぅ」
「それでいいか?」
「構いませんぜ」
「じゃあブラー、よろしく頼む」
呼び掛けると彼はコクリ、とうなずき、喋りはじめた。
なんとメモ書きのたぐいは一切ない。全て記憶しているらしい。
「まず――ブトランテラの本拠地から話そう。ヤツらの根城は三つの大きな建物からなる。
一つ目が、北東の御殿。門柱に虎の飾りがついているため、『虎の御殿』と呼んでいる。
二つ目が、同じく北東にある巨大な倉庫。
そして三つ目が、王を挑発するかのように王宮からほど近い場所にある北の御殿だ。こちらは門に『鬼人』の像が立っているので、『鬼の御殿』と俺は呼んでいる。
ブトランテラは千人の人員を、これら三つの建物に割り振っている。
内訳はこうだ。
『虎の御殿』に戦士が三百人。富豪が十人ばかり。戦士らをまとめているのは『ウルウェーテル』。
『大倉庫』にも同じく戦士が三百人、富豪が十人ほど。まとめるのは『クラッチマン』。
そして『鬼の御殿』には、戦士が四百人。富豪は三人と少ないが、特に金を持っている連中だ。ここを守るのが『ヴァルゴサ』。
奴らはこうして根城を分けることで、広い範囲に睨みをきかせている」
「中の人員が変わったりは?」
尋ねたのはレモネット。
「少なくとも俺が見張っていた一か月の間には無かった」
「つまり――」と、俺が口を開く。「――それぞれの建物をこちらから襲撃すれば、一度に強敵三人を相手にせずに済むと」
「そういうことだ」
「だがそいつは上手くねぇ策だな? ツキトのダンナ」
いかにも軽薄な声がして顔を上げると、頭の後ろで手を組みながら俺を見ているのはラインデッドだった。
「例えば『虎の御殿』を襲撃している間に騒動が伝わり、『大倉庫』から敵の加勢が来ることは考えられる。どちらも国の北東にあり、場所は近いんだろう?」
「もちろんそうだ」
と、ブラー。
「だとすれば敵さんは俺たちを挟撃できるってわけだ。そうなれば全滅の憂き目もある。じゃあひとつ離れた『鬼の御殿』を狙うのはどうか――こちらなら敵の加勢がすぐに来る心配は無いだろうが、非戦闘員も入れて三百の俺たちに対し、相手はガチガチの傭兵が四百だ。真正面からやり合って勝てるはずがねえ。つまり、各個撃破は無しだ」
「ふーむ」
俺が考えるように唸ると、ゾゾルもニヤリと笑った。自分の手下の発言が的を射ていたので嬉しいのだろう。
「それに私たちが欲しいのはそんな情報じゃない。もちろん今ので終わりじゃないだろう?」
こちらも喧嘩腰に訊ねてきたのはレフティ。
案外、というと失礼かもしれないが、ハスキーで綺麗な声をしている。もっと狼の吠え声みたいなのを想像していたが。
「奴らの所在や人数など、私たちゾゾル様の組織であれば一日で調べ上げるさ。肝心なのは個人個人の情報だ」
「――もちろん、あくまで所在は基本的な情報でしかない」ブラーは冷静に続ける。「ツキトの言うとおり各建物を襲撃する方法は俺も考えたが、そもそも数百人の戦士をまともに相手にすることが難しい。一番無難なのは、各建物を襲撃し、敵の戦力を削ってはすぐに逃げる方法だろう」
「けれどそれじゃ、こちらの素性が知れた瞬間にヤツらからの報復が来るぞ」とレモネット。「いくら連中が組織同士で睨み合ってるからって、明らかな敵対組織を放っておくはずがない」
「――そう。だからやはり、ブトランテラのトップである三人を叩くしかない」
ブラーが答える。
「それが出来てりゃ苦労はしねぇんだよなァ……。敵さん、ゾゾルの大将より高いランゴ持ちだぜ?」
ラインデッドはあからさまな溜め息をつく。
「うむ。だから俺は連中の身辺を探ったのだ。そして奴らの欠点とでもいうべき情報を得た」
このブラーの発言に、初めてゾゾルをはじめ――ラインデッドやレフティも真剣な表情を見せた。
「弱点ってことか? ヤツらにそんなもんがあんのか?」
ゾゾルの問いにブラーは返す。
「いや、弱点というほどでもない。単に性格の欠点や、それに準じた戦い方が分かったというだけだ」
この返答にゾゾルたちは大いに落胆したようだが、とりあえず先を促した。
「――まず、ヴァルゴサ。
傭兵らしい傷だらけの男だ。パボニカ地方じゃ珍しい緑色の髪だからすぐに分かるだろう。
ヤツはひとことで言うと『弱い者いじめが好き』だ。アイツより強いヤツなどそうそういないだろうが、もちろん上には上がいる。
これはブトランテラの下っ端が口を滑らせたことだが、ジャルバダールの序列三位に当たる『絶炎のバルゲア』に対して、ヴァルゴサは一度だけ戦いを挑んだそうだ。
だが自分の実力が及ばないと見るや、すぐさま土下座して降参を示した。なんなら靴でも舐めかねない勢いだったそうだ。
よっぽどまざまざと力の差を見せつけられたのだろう、今でもランゴ『3』の数字はトラウマになっているらしい」
まあそういう姿勢は、生き残ることこそ重要な傭兵という生業には必要なのかもしれないが、バルゲアはそんなに恐ろしい奴なのか。
ブラーは続ける。
「その上で、ヴァルゴサは自分より弱い者に対し徹底的に非情だ。まあ俺の姿を見たら分かると思うが……。
集団を相手には出来ないと考えた俺は、無理を承知でヴァルゴサに決闘を挑んだ。意外にも、ヤツはそれに応じた。ぞろぞろと手下を連れていたが、手は出させなかった。おそらく俺がヤツ以上に強かったときに逃げるための保険だろう。
ヴァルゴサは棒術の達人で、魔法も使える。体躯は俺とあまり変わらない。一発でも入れられればヤツを倒す自信はあったのだが、棒のリーチと目くらましの魔法で結局一度も打てずじまいだった。
その後はお前たちの知るとおりだ」
「それってアンタが弱いだけだったんじゃねぇの?」
またもラインデッドが煽る。
「一発でも入れられればって、負け惜しみっぽいけどなァ」
「おい、聞き捨てならないな」
売られたケンカを買ったのはレモネットだ。
「ブラーのパンチはレンガを割るほど重いぞ。ロストグラフでもブリガンディに次ぐほどの格闘家だった」
「ブリガンディって、あの有名な『赤鬼』か? ははぁ、だとしたら二番目以降が弱っちいんだろう」
ガタン、と音を立ててレモネットが立ち上がった。
「ならお前が喰らってみればいい」
「あらら……カンベンしてよ、お嬢ちゃん。俺ぁ盗人よ? 根っからの戦士に勝てるわけないじゃない」
「……お嬢ちゃんだと?」
二人とも落ち着け、と言おうとして、先にイシカンがフォローを入れてくれる。
「ら、ラインデッドさん……さすがに失礼っすよ。俺たちゃ仲間なんすから」
だがラインデッドは姿勢を崩さない。
「ああん? なに俺に意見してんだよ、イシカン。
ツキトさんとやら、言っとくがな、俺はアンタのことまったく認めてねぇからな。ゾゾルの大将に女装趣味があろうが無かろうが、どうでもいい。この御人は、ジャルバダールが狂っちまったときにも全力で俺たちを護ってくれた。護れるだけの力があったからだ。俺が従うのは力と仁義がある人だけよ」
レフティもうなずく。
「まったくの同意見だな。この軽薄な男と同じというのが気に入らんが」
「気に入らんって……つれねぇなァ、レフティちゃん」
「私たちは皆、大なり小なりスネに傷のある者たちだ。ツキト殿やブラー殿のような、国に仕える大層な立場ではない。相容れるには難しいものがある」
そう言って彼女は俺を見た。ラインデッドもだ。
二人だけじゃなく、その場にいる全員が俺の反応を伺っていた。
「……あのー……いろいろと言いたいことはあるかと思いますが、まずはブラーさんの話を全部聞きませんか?」
そう促してくれたのはシューシュカだった。
「そうだな、続きを聞こう」
俺も彼女の進行に乗らせてもらう。
いいぞ、シューシュカ。それでこそ司会者だ。
会議は続く。
だが俺はすでに、ゾゾルたちがあっと驚くような“面白いこと”を考えていた――。




