349 王子と王子
「――その拘束を解け」
静寂を切り裂く、冷徹な声。
…
今、この国で最も注目を集める。
次期国王と目される男。
「なっ……!?」
「っ!」
そこに立っていたのは、第一王子その人であった。
「兄上……!」
驚愕に目を見開くアレフ。
…
対照的に、先ほどまで息巻いていた貴族は目に見えて動揺し、滝のような汗を流し始めた。
「な、なぜ……こちらに……」
「……」
第一王子は答えず、ただ鋭い眼光で貴族を射抜く。
その威圧感だけで、貴族の心臓は跳ね上がり、思考は白く塗りつぶされた。
「誰の許可を得て、私の弟の……『友人』を拘束した?」
第一王子の視線が、一瞬だけトランに向けられる。
「こ、これは誤解です! 第一王子! 全くの誤解なのです……っ!」
必死に弁明を重ねる貴族。
それを見た第一王子は、短く言葉を返した。
「……。ああ、わかった」
その言葉を聞き、貴族の顔に安堵の色が浮かぶ。「理解された」と、そう信じ込んだのだ。
…
…
しかし、現実は残酷だった。
「連れて行け」
「はっ!」
王子の側近と騎士たちが即座に動き出す。
…
安堵の表情のまま、貴族は何が起きたのか理解できぬうちに、どこかへと連行されていった。
……。
静寂が戻る。
…
第一王子はゆっくりと、弟であるアレフを見つめた。
「……兄上」
…
歩み寄る第一王子。
彼は無骨な、しかし温かい手をアレフの頭へと置いた。
「強くなったな」
「えっ……?」
予想だにしない言葉に、アレフは言葉を失う。
.
一方、トランの周囲にいた騎士たちも、いつの間にかその場を離れ、拘束は解かれていた。
第一王子は、静かにトランへと向き直る。
「トランと言ったか……」
「はっ! 国王陛下!」
トランは最大級の敬礼を捧げる。本人は、文字通り命がけで必死だ。
…
「……王子だ」
「はっ! 王子! トランであります!」
慌てて言い直すトラン。
「弟のこと……感謝する」
第一王子は、周囲に悟られぬよう、わずかに頭を下げた。
「……」
それだけ言い残すと、第一王子は颯爽と去っていった。
その後ろ姿を、二人は眺める。
…
やがて、トランがアレフの方を向き、その頭をポンポンと叩いた。
「アレフ。……強くなったな」
…
「……はいっ!」
…
十三章終わり
こんばんは
いつもありがとうございます。
別タイトルで、「ベルグの夏休み」という
騎士学生時代の話しを書きました。
よければ見てみてください!




