ダークネスウルフ
街道をゆっくりと馬車が進んでいく。馬車にはもう大分慣れたのか、俺は乗り物酔いをするという事もなく快適だった。行きの時に比べたらゆっくり進んでる事もあって、振動が少ないのも関係しているかもしれない。
タランドーさんに聞いた話だとゆっくり進んでいる分、帰るまでの日程が少し増えるらしいが、それは仕方のない事だろう。行きの時と同じように俺が夜の見張りをする事になり、今回はアペルも一緒だ。昼間はソフィアとシェリーが担当する。何もないとは思うが、《回復魔術》を使えるのが俺とシェリーだけなのでそれを分け、戦力的に考えるとこうなった。
俺とアペルは少し早い昼御飯を食べ、夜の為に仮眠を取る事にした。仮眠から目覚めた時には、辺りは既に薄暗くなっていて、他の皆は晩御飯を食べている所だっだ。
「護衛の仕事とはいえ、昼夜逆転の生活はやっぱり体に堪えますね」
「おう、起きてきたか。軽く何か食うか?」
俺はタランドーさんの言葉に軽く首を横に振る。起きたてで胃袋がまだ何かを受け入れるような状態じゃなかった。酒も見張りをするのによろしくないと考えていると、シェリーがお茶を用意してくれた。
そのお茶を飲んでいるとアペルも起きてきたようで、馬車の中から出てこちらに歩いてくるのが見えた。シェリーがアペルにもお茶を用意して、俺にもお代わりを注いでくれた。
アペルは起きたばかりというのに目の前の食事に手をつけ出した。寝る前に食べていたのにまだ食べるらしい。
成長期なのだろうか、でもシェリーと幼い頃に遊んでいるとなると、アペルはシェリーと同じ位の年齢だろう。シェリーは俺より年上という印象だが、でもアペルはそうは見えない外見なんだよなあ。年齢を聞いてみたいが、女性に年齢を聞くのはこの世界でも厳禁なのだろうか。相手の事を知る事は大切だと思い、思いきって聞いてみる事にした。
「アペル、ちょっと聞いてもいい?」
「なんです?」
「嫌だったら言わなくてもいいんだけど、アペルって今何歳?」
「今は17です。今年18になるです」
年下だった。あんまり年齢を気にする頃じゃないからかあっさりとした返事が返ってきた。となるとシェリーも俺の年下である可能性が高い。シェリーにも同じようにして聞いてみると18歳との事だった。同い年かと思ったが、詳しく聞いてみると18歳になったばかりらしい。つまりは1つ下でアペルと同い年だった。
ここで一番の驚きはソフィアが15歳だった事で、俺達の中で最年少である事が発覚した。15歳といったら中学生だ。外見だけ見るとアペルと同い年と言っても違和感がないくらいだが、まさかそんな幼いとは思っていなかった。そしてこれで俺がパーティー内で最年長なのが分かってしまった。
食事が終わり暫くすると、俺とアペルを残して他の皆は眠りに就いていった。今この場は俺とアペルの2人きりだ。俺は気になっていた事を聞いてみる事にした。
「アペルはさ、今更かもしれないけど俺達に付き合って家を出てきたけど、本当に良かったのかなって思って。ソフィアやシェリーはもう帰る所はないけど、アペルには両親やお兄さんも居る事だし、無理に俺達に付き合わなくても良いんだよ?」
「それは大丈夫です。兄さんはいいとして両親に会えないのはちょっと寂しいですが、しーちゃんと一緒に居るのも大切です。村へは気が向いた時帰ればいいだけです」
「そっか。それなら良いんだけどね」
俺は焚き火に薪を追加する。パチパチと薪の弾ける音が響く中、今度はアペルが俺に質問を投げかけてきた。
「ショージさんはその、えっと……勇者なんですか?」
「ああ、自分のステータス見れば分かるよね。良く分からないけど気付いたらこっちの世界に来ていたんだ」
「こっちの世界?」
「うん。シェリーに調べてもらったら、人族のラグゼニア王国が勇者召喚をしているらしいんだけど、召喚された勇者は皆この世界ではない異世界から召喚されているらしいんだ。つまり俺も元々は別の世界で暮らしていたんだ」
アペルは異世界がどういったものか分かっていなさそうだった。頭にはてなマークを浮かべているのが良く分かる。
「異世界をなんて言ったらいいかなあ。誰も辿り着けないような遠い所、この世界でいう海の果てみたいな所から来たって言えば分かり易いかな」
「それだと家に帰れないです?」
「うん、そうだね。帰る方法は今の所見当もつかないかな。あー、でも勇者召喚の目的は魔王と戦う事みたいだから、もし魔王を倒せたら帰る方法が分かるかもね」
「がんばって魔王倒すです!」
魔王を倒すって出来るのだろうか。そんな危ない相手と戦うより、今はダンジョン攻略の方が面白いと考えていると、《探知》に複数の反応があった。反応は次第に増えていき、俺達はいつの間にか7体の何かに囲まれていた。
「アペル、すぐに皆を起こしてきて!既に囲まれてる!」
アペルが馬車の中に消えていく。俺は焚き火を消して周辺を暗くし《暗視》を使って周囲を探る。《探知》の反応は少しずつ近付いてきているが、全方向抑えられていて身動きが取れない。俺はとりあえず馬車に被害がないよう《結界》を展開した。暫くして皆が何事だと起きてくる中、目の前に姿を現したのは漆黒の狼の群れ、ダークネスウルフだった。




