蟹
ソフィアに合流して《治癒》を使って傷を癒し、先程の素晴らしい斬撃を褒めた。そしてアペルにも巧みな盾捌きを褒める。盾を持った事がないから分からないが、あんな芸当できるとは思えない。当たる瞬間を見定める動体視力も必要じゃないだろうか。流石は獣人といった所か。
ソフィアもフライングフィッシュの速度に慣れたのか、次に遭遇した時には問題なく初撃を回避していた。そして俺もフライングフィッシュの軌道に合わせてツインエッジを振るう。軌道の読みとタイミングさえ合えば何とかなるものだ。他にも剣を振らなくても軌道上に置いておくだけで、自らの速度とツインエッジの切れ味で真っ二つになっていった。
俺とソフィアがフライングフィッシュを斬り伏せていると、アペルも真似をして盾での防御からカウンターに動きをシフトしていった。盾の時はある程度面積があったので突撃の位置に合わせられていたが、剣で斬るという事は相手の点とこちらの線とを合わせなければいけない。最初は何度か空振りしていたがタイミングも合い始めたのか掠り始め、そしてすぐに真っ二つにまで出来るようになっていた。
フライングフィッシュとの戦いは慣れるとバッティングセンターみたいで楽しくなってきた。飛んでくるフライングフィッシュの場所目掛けて剣を振るい、速攻で倒してしまうので戦闘時間は短い。しかしその代わり飛んでくる数は多く、そのおかげかアペルも結構レベルが上がったみたいだ。
しかし魚を見ていたら魚を食べたくなってきた。いつも基本はパンなのでたまには魚とかお米も食べたいよね。モンスターは灰になってしまうから食べたりする事はできない。へスペル王国は海も近いみたいだし漁をしていないのだろうか。巨大なモンスターの件で海に出る人が居ないのかもしれない。帰ったらシェリーに聞いてみよう。
ホワイトゲートを見つけて休憩を取るのと同時に、次の階層は何層にしようか相談する。案外アペルが戦えるので10層の守護者は無理だろうが9層までならいけそうだった。
「2人と一緒なら9層でも大丈夫だと思うです」
「うん、アペルなら多分行ける」
アペルもソフィアも了承っと。それじゃ次は一気に9層へ行ってしまいますか。9層で戦ってレベルを上げて、ラグゼニア王国に帰る前に10層で守護者に挑戦しよう。後はアペルが《剣術》をレベル10にして《剣聖術》を取得したらしい。魔法等の他のスキルを取得せず《剣術》のみレベルを上げていった結果だ。魔法とかは取得しないのか聞くとまずは《剣術》を極めてからだと言われてしまった。ただ覚えられるようになっておいた方が良いと思い、元々取れる《火魔術》以外の魔法で覚えたい属性があるか聞くと、魔法の内容から《イリュージョン》の使える《闇魔術》が良いと言われた。アペルに《イリュージョン》の詠唱を教えて9層へ向かう為にホワイトゲートに入る。
9層のフィールドは洞窟みたいだが、今までのとは違ってじめっとした空気が肌に纏わり付いた。地面には海水らしき水溜りがいくつもあり、洞窟は洞窟だが海底洞窟みたいな所だろう。
このダンジョンはあんまり長居したいフィールドがないなぁ。砂漠だったり、潮風が吹く浜辺だったり、湿度の高い洞窟だったり快適な所がまったくない。強いて言えば浜辺が一番マシかな。草原と森と洞窟のダンジョンに帰りたくなってくる。
海底洞窟で最初に出会ったモンスターは大きな黒い蟹だった。名称をダークサイズクラブといい、両手が鋏ではなく鎌になっていた。単体行動をしている所から稀に出る方のモンスターっぽく超強そう。これは両手の鎌をどうやって防ぐかだな。アペルの装備では紙のように引き裂かれそうなので、俺がダークサイズクラブを受け持つとして、ソフィアに後方で魔法を使ってもらって、アペルは今回は相手が悪いのでソフィアのフォローに入ってもらおう。
二人に指示を出し俺が駆け出すのと同時にダークサイズクラブが横向きで向かってくる。まぁ蟹だし前には歩けないよな。しかし横向きに近付いてくるのがなんというか間抜けっぽく見えてしまう。
ダークサイズクラブが俺の所まで辿り着き、振りかざした両手の鎌を振り下ろしてくる。それを俺は走っている勢いのまま前方へ飛び込み、その先にある足の1本に《スラッシュ》を叩き込む。鎌の動きは早く鋭いが足のほうは疎かだった。俺とダークサイズクラブは向かい合う事で、ソフィア達がダークサイズクラブを背後から攻撃できるようにした。
足を斬られたダークサイズクラブが怒り、左右の鎌を交互に振るって攻撃してくる。それをツインエッジで防御していると、奥の方からソフィアの《ウィンドトルネード》が放たれてきた。それは俺に当たらないように狙いをつけたのか、ダークサイズクラブの切り落とした方とは反対側の足を根こそぎ奪っていった。
移動が出来なくなり仰向けに倒れているダークサイズクラブの鎌は、上空を切り裂くだけで周囲に居る俺には届かなくなっていた。




