ヘルグミルの街のダンジョン
翌朝ソフィアを起こして宿を出た。朝なかなか起きないソフィアに耳元でダンジョンに行くのに置いて行っちゃうぞと囁くと、効果は抜群みたいで一瞬にして起きてきた。次からはこの手で起こせるかもしれない。
アペルと合流して街の北にあるダンジョンへと向かう。大体の場所はシェリーから聞いていたが見つけるまで少し時間が掛かった。アペルをパーティーに加え昨日買い揃えた装備も渡しブラックゲートに入る。
アペルのレベルは1だそうで《火魔術》が取得できる状態だが、取得せずにスキルポイントを残していたらしい。視界にウィンドウが出てきて何層に入るか確認してくる。そこには11層まで選べるようになっていた。ダンジョンは攻略した階層までなら別のダンジョンでもその内容を引き継がれるみたいだ。ただ今回はアペルの事もあるので1層を選ぶ。
1層に転送されると視界に入るのは砂の地面がどこまでも続いているだけで、所謂砂漠が一面に広がっていた。ダンジョンの習性からすると近場に砂漠があるらしい。アペルに聞いてみると獣人の領地の大半を砂漠が占めていて、アペルの家も砂漠の中の草木が生えている場所に村があって、そこに住んでいるそうだ。
辺りを見回してそれ程遠くない場所に狼っぽいシルエットが見えたのでそちらに向かう。砂と同じ色合いの毛並みをした狼の名称はデザートウルフ、1層だからか単独で行動していた。
「それじゃアペル、試しに戦ってみる?」
「やってみるです」
試しにやらせてみたが、獣人の身体能力の為せる技なのか、デザートウルフの攻撃を盾で防ぎ、片手剣を振り下ろしただけで終わってしまった。装備とかそんな良い物じゃなかったのに、一撃で倒すとかどんな腕力しているんだ。レベル1だから能力値もオール1のはずなのに、そうとは思えないくらいに強い。これが種族の差という事なのであれば、単純に能力値だけで強さを判断出来なくなる。
その後もアペルはデザートウルフ相手に何度か戦闘をするが、凄く安定した戦いぶりであった。アペルにしてもヘスペル王国から旅立った後の事は考えていたみたいで、冒険者になろうと訓練はしていたらしい。冒険者として戦えるようになれば、お金を稼いだり暮らしていくのにある程度不自由はなくなるだろうと、強くなるのにやる気を見せている。そのおかげかソフィアと意気投合してアペルの戦闘の指導をソフィアがしていた。俺はイレギュラー対策に周囲の警戒をしつつ二人を眺めていた。しかしハーフエルフの女の子と獣人の女の子が並んで傍にいるなんて異世界に来て良かったと思える光景だ。
アペルはレベルも順調に上がり冒険者になる為に訓練していたおかげか、すぐに《剣術》が取得できるようになっていた。アペルは迷いなく《剣術》を取得してレベルも5まで上げたらしい。そういえばアペルに《鑑定》をしてみるとやはり称号に勇者の仲間と記載されていた。つまりアペルもスキルポイントを多く貰っているという事だ。パーティーに入れたのは不味かったかなぁ。まぁソフィアとも仲良くなっているし信用も出来そうだから良いか。再びデザートウルフ目指して歩き出したその時。
「下に何か居るです!」
突然アペルが叫ぶと同時に地面の砂が盛り上がり、蚯蚓のようなモンスターが飛び出してきた。俺達はその場を飛退き臨戦態勢を取る。砂の中から出てきた蚯蚓のようなモンスターは、細長いとはいえ幅1メートルはありそうな胴体の先端にある大きな口を開けて襲いかかってきた。俺はそれを回避するが再び砂の中へと潜られてしまう。
どうやら砂の中に潜られているときは《探知》が反応しないらしく、最初の奇襲もまったく気付かなかった。アペルが気付いてくれなければ危なかったかもしれない。だがまだ蚯蚓のモンスターは砂の中に潜ったままで、どこから襲ってくるか分からない。
「アペル、どこから来るか分かる!?」
「今は深く潜っているせいか臭いが消えているです。あ、ショウジさんの所に来ますです!」
アペルの合図の後、俺の足元の砂が盛り上がり蚯蚓のモンスターが飛び出してきた。俺はその大きな口をツインエッジを交差させて受け止める。
「ソフィア、援護頼む!」
「アイスランス!!」
ソフィアの放つ氷の槍が蚯蚓のモンスターの胴体を貫き、地上に縫い止め動きを封じた。流石ソフィア、魔法の選定がナイスだ。アペルが胴体に《クロススラッシュ》を放ち、俺は頭に《クロスインパクト》を叩き込む。頭と胴を斬られた蚯蚓のモンスターはしばらくうねうねしていたが、次第に動かなくなり灰になっていった。
「アペル、モンスターの位置を教えてくれてありがとう。助かったよ。ソフィアも魔法の判断が冴えてて良かったと思う」
「どういたしましてです」
「次会ったら私が倒したい」
今回の蚯蚓のモンスターはマッシュルームと同じでちょっと強めのモンスターのようだ。でも普通の冒険者だと出会ったら即死しそうな強さじゃないだろうか。ちゃんと人数も居てしっかりとしたパーティーだったら、マッシュルームは毒が厄介なだけだから大丈夫か、蚯蚓は……厳しそうだな。マッシュルームもまだ2回しか遭遇していないし、出会うこと自体が稀なのだと思っておこう。




