観光
ヘルグミルの街には馬車で日中移動し続けて予定通り5日で辿り着いた。護衛の任務も一旦ここで終了し、1週間程この街に滞在して帰り道でまた護衛の任務に就く。とりあえずタランドーさんが商談の為その間俺達は自由時間だ。まずは寝床を確保しにタランドーさんに紹介された宿へ向かう。宿で1週間分のお金を先払いし、部屋に案内されて中へ入る。ソフィアとシェリーを呼んで、さっそく1週間どうやって過ごすか相談する事にした。
「こっちのダンジョンに行きたい」
ソフィアはそう言うと思っていた。5日間もモンスターと戦っていなかったので、戦いたくてうずうずしているのだろう。仕方がないから後で冒険者ギルドへ行ってダンジョンの場所を聞くか。って冒険者ギルドってヘスペル王国にもあるよね。宿を出る時宿の主さんに聞こう。
シェリーの方はやはり宿で待機しておくらしい。タランドーさんが商談が終わったら宿に呼びに来る事になっているので、宿を開けておくのは良くないとの事だ。宿の事はシェリーに任せ、ソフィアの要望通りダンジョンで過ごす事になりそうだ。観光とかは頭にないらしく、折角ヘスペル王国に来たというのにこれではいつもと変わらない。
とりあえず今日はもう昼も過ぎているので、冒険者ギルドに行ってダンジョンの場所を聞こう。ついでに街中を歩いて観光して、ダンジョンに行くのは明日からだ。
「それじゃ明日からダンジョンに行くとして、ダンジョンが何処にあるのか確認をしておかないとね。俺はこれから情報を集めに出かけてくるよ」
「ダンジョンでしたら入ってきた入り口を出て北に向かうと御座います」
ダンジョンの場所を調べに行こうとしたが、意外な所から情報が出てきた。何故知っているのか尋ねるとシェリーはへスペル王国出身だという事が判明した。奴隷になる前はこの街に住んでいたらしい。以前帰る場所はないと言っていたが、故郷と呼べる場所に帰ってきたのなら行きたい場所とかないのだろうか。それとなく聞いてみるが特に行きたい所はないと言われてしまった。その辺りの話をシェリーはあまり話したがらないので、いつか話してくれる事を願い今は深く聞かずに話を終えた。
今まで昼夜逆転の生活を送っていたので眠気が襲ってくるが、今ここで眠ってしまうと夜が寝れなくなる。ここは眠気覚ましに観光に街を散策してこよう。シェリーは宿に残るらしいのでソフィアを誘い外出する。
「シェリーも故郷なら行きたい場所とかありそうなんだけどなぁ」
シェリーの過去に何があったか分からない。唯のお節介かもしれないがいつもシェリーには助けてもらっているから相談くらいはして欲しい。
ソフィアと街を歩いていると視線を感じたので振り返るが誰もいない。その後も何度か後方から見られているような感覚があり、《探知》で調べると後を追いかけてくる反応が1つあった。こちらが店を見るふりをして足を止めると向こうも動きを止めたので間違いないだろう。
「ソフィア、振り返らずに聞いて。誰かにつけられてる、誘き出すからついてきて」
「分かった」
《探知》の反応からすると相手は100メートル程後方を道なりについてきていた。距離を詰めてもらうために細い脇道に向かい、そのまま路地裏に入る。予想通り相手は見失わないように距離を詰めてきた。T字路で二手に分かれ、追いかけてきた追跡者かを挟み討ちにする。追跡者がT字路に入ると《アースシールド》を重ねて展開し引き返せないようにした。追跡者はフードを被りケープを羽織ってはいたが、腰から下の体のラインがはっきりとしていて女だと分かる。
「俺達に何か用ですか?」
問いかけると追跡者は慌ててフードを取り無抵抗の意思表示をしてきた。露わになった素顔は、燃えるような赤髪に金色の瞳を持ち、更に頭の上からは耳が生えていた。耳の形からすると狐だろうか、よくよく見てみると腰の後ろ辺りからもふさふさの尻尾が生えていた。
「わわっ、ごめんなさいです!悪い事しようとして後をつけたんじゃなくて、少し話がしたくて……」
「獣人初めて見た」
俺も獣人を初めて見た。本当に耳や尻尾が生えているようで、しょぼくれてしまった本人と一緒になって項垂れている。ヘスペル王国は獣人達と諍いがあると聞いていたので、警戒は解かないが話は聞いてあげる事にした。
「あたしは昔の知り合いの人族を探しているです。この街でよく遊んでたんですけど、数年前の人族と獣人族の戦争が始まった時から会えなくなったです」
最近は人族と獣人族の国交も大分良くなり始めたらしいが、数年前には戦争もあったらしい。その戦争の時に仲が良かった人族の女の子と離れ離れになり、その女の子を捜してヘルグミルの街中探しているそうだ。フードを被っていたのはいくら戦争が終わったとはいえ、未だに種族間の小さな諍いは起きている。それを避けるために頭の耳と尻尾を隠していたらしい。
「しーちゃんに会いたいです。あなた達はその容姿から見て遠くから来た冒険者さんですよね?あたしもしーちゃん探しに他の国にも行きたいです」
どうやら話を要約すると、友達を探しに行くために1人じゃ無理だから連れて行ってくださいって事か。話を聞いた感じでは信用しても良さそうだが、とりあえず一緒に行動して様子をみるか。俺は彼女に条件を出した。明日から1週間程ダンジョンに通う予定を話し、それに同行させる事にした。そこで彼女を見定め最終的にラグゼニア王国に同行させるかを決定する。
「そういえばまだ名乗ってなかったね。俺は神楽坂翔二、翔二の方が名前ね」
「私はソフィア」
「あたしはアペルっていうです。ショージさん、よろしくお願いしますです」
うん、まぁ発音は近いからいいか。ダンジョンに行くのに装備はあるのか聞くと、何も持っていないらしく装備屋に行く事になった。装備は安めの片手直剣に盾とその他の防具を少々購入したが、所持金もほとんど持っていないらしくお金を支払う事になったのは俺だった。購入した装備は明日ダンジョンに入る前に渡す事にしてその日は別れた。アペルの家は獣人族の領地内で1日で帰れる距離ではなく、働いてお金を貯めてはヘルグミルの街に来て友達を探していたらしい。宿など泊まれるお金もなく近くに寝床を用意していてそこで野宿だそうだ。
気分転換が思わぬ所で獣人と出会えて眠気も吹っ飛んでいた。その後はソフィアと日が暮れるまで観光して宿に戻り、晩御飯を食べた後シェリーに昼間にあった出来事を話した。
「獣人の女の子が友達を探しているみたいで、それに協力して帰り道はその子を一緒に連れて行く事になるかもしれない」
「タランドー様には相談なされたのですか?」
「いや、まだ出来てないけどとりあえずは獣人の子の様子見で明日のダンジョンに連れて行く。シェリーはこの事タランドーさんに連絡しておいてもらえるかな?」
「承りました。明日タランドー様に連絡を取ってみます」
タランドーさんへの連絡はシェリーに任せ、俺達は明日から久しぶりにダンジョンだ。明日の朝は早起きしなくてはならないので早めにベッドに潜り込んだが、昼間に吹き飛んだ眠気が再びやってきて、すぐに俺を睡眠へと誘ってくれた。




